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愚者の舞い 12

 拳闘志(けんとうし)とは。

己の肉体を鍛え上げ、己の肉体を武器に戦う技術であり、使い手の事でもある。

しかし、太古から伝わり磨かれて来たこの技術も、武器の普及に伴い廃れて行き、いまでは伝える者も、扱える者もいないと言われている。

膨大な時間をかけて鋼のように肉体を鍛えても、フルプレートメールを貫く事は難しい。

また、剣を掻い潜って間合いに接近するのも難しいからだ。

金で解決できる武具に依存するのは、仕方がない事であろう。

ルーケは傍観者だからそんな突っ込みが出来るが、アルカとポルタにそんな余裕はない。

相手を殺害するため、手加減などしてはいなかった。

それをあっさりと、しかも指2本で止められて押そうが引こうがビクともしない。

「まだ証明には足りないかな? 坊や。」

ニヤッと笑ってそう言われ、アルカはその馬鹿にした言い方に激怒した。

「貴様!!」

怒りに身を焦がし、グッと力を入れて引いた瞬間パッと放され、思わずトトトっと、数歩後退するも、なんとか踏み止まる。

ポルタは素直に尻餅をついたが。

「次はちゃんと全力で攻めて来い。 いつまでも遊んでいる気も無いのでな、こっちも今度は反撃させて貰おう。 命懸けで来な。」

そう言いつつも、まったくやる気なさそうに、身構える事もしないモリオンである。

「アルカ! やめろ! 今ので相手がいかに化け物か分かっただろ!?」

「ふざけるな!! このままおめおめと引き下がれるかぁ!!!!」

アルカはチムニをそう一蹴し、剣を大上段に構えて突進した。

それに合わせてポルタも跳ね起き、影のように合わせて突っ込んで来る。

どちらか一方に対処しても、どちらか一方が相手を討てる、必殺のコンビネーションだ。

この二人は余程気が合うらしく、普通なら多少のズレが生じるものなのに、ピタリと息が合っていた。

モリオンはそんな二人の突進を見つめつつ、一つため息をつきながら腕を胸でクロスさせると、間合いに入る寸前にジャンプして渾身の一撃を振り下ろして来たアルカに憐みの眼差しを向け。

パァンッ! と、ポルタの頭部が弾け飛んで残った体も左にぶっ飛んで壁に叩きつけられ、アルカは右側に弾け飛んで壁に激突した。

何が起きたのか、その場にいた誰にも分らなかった。

ただ、大きく腕を開いた姿勢で止まったモリオン以外には。

その腕をスッと下ろすと、アルカを一瞥し。

「剣だけではなく、人としての生き方も学ぶべきだったな。」

モリオンは冷たくそう言い捨てると、怯える魔法使い達に構わず、ゴブリンに囚われていた子供の所に歩み寄り、優しく声をかけた。

「大丈夫ですか? もう大丈夫ですよ。」

子供は衰弱しきっており、しかも今までの戦い全てを見ていたので怯えてもいた。

そんな子供を戒めている縄を解こうと手を伸ばすと、その子供はいきなりモリオンの指に噛み付き睨みつけてた。

「安心しなさい。 私は助けに来た者です。 とにかく、怪我を治しましょうか。」

そう言うと、噛み付かれていない右手を軽く振った。

その途端、子供の体は淡い光に包まれ、あちこちにあった擦り傷などが、全て消え去る。

「傷は癒えたでしょう? これから縄を解きます。 放してもらえますか?」

子供はそれでも疑っているのか、恐る恐る口を放すが目はモリオンから放さない。

「良い子ですね、お嬢さん。」

(お譲さん??)

背後でアルカの治療を行う呪文を聞きつつモリオンの傍まで来て見てみれば、確かに囚われていたのは女の子のようだ。

モリオンは手慣れた様子で縄を解くと、女の子を抱き上げた。

「もう大丈夫。 町に連れて行ってあげよう。」

女の子は一回、ギュッとモリオンに抱きついたが、すぐに後ろを振り返る。

そこには、人であった残骸。

ゴブリンにいたぶり切り刻まれて殺された、恐らくこの子の両親。

「分かった。 彼らも連れて行こう。」

そう言うと、まず女の子をルーケに預け、二人の遺体を探り、いくつかの遺品を回収すると、懐から大きな一枚布を3枚取り出した。

「おぉ!? どこに収まってたんだその布!!」

「見ていた通り、懐だ。」

「・・・物理的に無理だろ、その大きさ・・・。」

そんなルーケに構わず、モリオンは布をまず1枚広げ、その上に2枚を重ならないように広げてから、丁寧に、出来るだけ両親の遺体を拾い上げて布の上に別けて並べると、それぞれを包んでから、さらに2個を1枚で包んだ。

「これで、埋葬する時にごちゃごちゃになる事は無いでしょう。」

「絶対後悔させてやる! 覚えてろよモリオン!!」

回復したのであろう、ベッコリ凹んだ胸当てを外した姿のアルカはそう叫ぶと、ポルタの遺体を担いで、仲間の魔法使い二人と共に逃げるように・・・実際逃げるわけだが・・・駆け去って行った。

そんな冒険者達に構わず、モリオンは更に懐から一体の、拳2つ程度の大きさの人形を取り出して地面に立たせて置いた。

「何でも出て来そうな懐だな・・・。」

「サーバントよ。 起きて我が命に従え。 ウッポポポケケペイ。」

「ウッポポポケケペイッて。」

思わずそう言った瞬間、ギンッと人形の目が光り、ムクムクと大きくなり始め、ルーケと女の子は思わずビクッとする。

が、すぐに縮んで元の人形に戻る。

「お前なぁ。 コマンドワードを復唱するなよ。 起動しないじゃないか。」

呆れ果てたと言わんばかりにモリオンはため息をついた。

「コマンドワードって・・・あれが!?」

「当たり前だ。 常日頃出て来るようなコマンドにしたら、年中起動してしまうじゃないか。 ウッポポポケケペイ。」

「・・・でも、もうちょっとセンスあるのにしようよ・・・。」

「無いからいいんだよ。」

ともかく人形はモリオン程の大きさに成り、若者っぽい姿になった。

その姿を最初に見たら、とても元は人形だったとは思えないだろうほど良く出来ていた。

「その袋を丁寧に背負って俺に着いて来い。」

サーバントはモリオンの命に忠実に従い、丁寧に遺体の入った包みを背負うと佇んだ。

「よし、行こう。 その子を早く休ませてあげないとな。」

「・・・あんた、女の子には優しいな。」

「俺は基本的に、老若男女問わず優しいよ。 阿呆以外には。」

「ヘイヘイ。」

そんな会話を交わしつつ、もう少し進んだら曲がり角という所まで来た時。

グウゥゥウ。 と、腹の虫が鳴いた。

「・・・お前なぁ。」

「そう言えば、朝飯食べてないじゃん?」

ルーケは照れ笑いを浮かべつつそう弁解すると。

クウゥゥウ。 と、女の子も腹の虫が鳴いた。

「洞窟から出たら、まずは腹ごしらえだな。」

「その反応の違いが問題だろ??」

「阿呆は論外だと明言しただろ。 それにだ。 これから冒険者に成ろうと言う輩が一食抜いた程度でガタガタぬかすな。」

「いやもう成ってるし! ってか阿呆って言うなよ!」

「阿呆は阿呆だ。 いや、お前の場合は」

「ハイハイどは付けなくていいですハイ。」

ド〜ンッ! モリオンの言い分を遮ってそう言った途端、洞窟内に轟音が地鳴りと共に響き渡った。

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