愚者の舞い 11
通路の所々に転がっている大きな石や、壁の凹凸の影に隠れていたのであろう。
直線の穴だけに、襲撃に来たゴブリンは僅かな数しかいなかった。
その程度に後れを取る事は流石に無く、冒険者達は程なく片付け、更に奥へと向かう。
やがて洞窟は90度左に折れ曲がり、しばらく行くと多少大きな空間になっていた。
よくこんな場所にあれだけのゴブリンが住んでいたなと思うほどの狭さだ。
そこには剥き出しの乳房の大きい、いかにもメスといったゴブリンが5匹、子供のゴブリンが20匹、奥にまとまって身を寄せ合い固まっていた。
ルーケは自分が依頼を受けたとは言っても、ああいう無抵抗な相手を殺すのは気が引けた。
同じ事を考えているのだろうか、冒険者達もその空間の入り口付近で戦闘隊形に展開したまま攻撃する様子が無い。
「この巣はゴブリンの展示場みたいだなぁ。」
ポツリと、呆れたように呟きに、ルーケは思わず問う。
「・・・? なにそれ?」
前方にいる冒険者達の邪魔にならないように、二人は小声だ。
だが、静まり返っているため、異常に響くのだが。
「見えないか? 無暗やたらと装飾品を付けてる変なゴブリンが。」
ルーケは立ち位置をあちこち変え、なんとか前を見通そうと頑張った。
そしてその成果があり、なんとか見る事が出来た。
先頭の戦士とシーフの前に、確かにいた。
指輪だのネックレスだのピアスだのゴテゴテ付けたゴブリンが。
そして同時に、ルーケは見た。
その変なゴブリンが、縛りあげられ身動きできない4歳くらいの子供を抱え、その首に錆び付いたナイフを突き付けているのを。
「あれはゴブリンプリースト。 キングより珍しい、ゴブリンの司祭だ。」
そして、見えた。
そのゴブリンの後ろに転がる、人だったであろう、残骸が。
「ゴブリンプリーストは暗黒神に貢物を捧げる事を喜びとする。 もう少し遅かったらあの子も死んでいたな。 それと、人間の言葉を喋る珍しい頭脳も持っているのが特徴だな。」
その説明を待っていたかのように、ゴブリンプリーストは叫んだ。
「キエロ! ニンゲンドモ! コイツヲコロサレタイカ!」
魔法使い二人は顔を見合わせてから、戦士の判断に任せる事にしたらしく、その返答を待つ事にした。
シーフは指示次第で、いつでも襲い掛かれる様に身構えたままだ。
注目された戦士は、不意にプリーストを無視して、子供やメスのいる方へ歩み寄り、おもむろに1匹のメスの胸に剣を突き刺した。
「ナニヲスル!!!!」
「殺せばいいだろ。」
「ナニ!?」
「その子を殺したいんだろ? 殺せよ。 俺達はお前らゴブリンを始末する依頼を受けた。 だが、捕らわれた奴の救出は依頼されてねぇ。 知った事じゃねぇな。」
「ヤ、ヤメロ!!!!!」
そう言いつつ、戦士は次々子供もメスも関係なく殺害していく。
「待てよお前ら!!!」
全ての非戦闘員であったゴブリンを始末してから、戦士はルーケに振り向いた。
「なんだ小童。 何か文句でもあるのか?」
「ある! 依頼されてないから人質などどうでもいいだと!? それでも人間か貴様!」
「これでも人間様だ。 文句を言われる筋合いも無い。 あんたも同じ意見か?」
そう答えて問いかける戦士、どう返事を返すのか、ルーケはモリオンを見た。
「正直、若さゆえの潔癖感に私も苦笑いしか出ないのですが。」
「・・・モリオン・・・。」
「「モリオン!?」」
呆然と呟いたルーケに、以外にも反応したのは魔法使い二人だった。
「やばい! やばすぎだアルカ!! 相手はあのモリオンだ!!」
チムニが顔を引きつらせ、動揺も露わにそう戦士に告げる。
「モリオン? あの高レベルと噂の魔法使いか。 で、どうなんだ。 お前も人質を助けろとかいうあまちゃんなのか?」
「おい!?」
「黙ってろ!! どうなんだ?」
チムニを一喝して黙らせ、アルカはモリオンを睨み据える。
「もちろん、私なら助けますな。 余裕で。」
「モリオン??」
ニヤリと挑発的に笑って答えるモリオンに、ルーケは背筋がゾクッとした。
そんな人間のやり取りを聞きつつ、ゴブリンプリーストは対応に困っていた。
人質の人間を殺せば確実に殺される。
しかし、人質を取っていても殺されそうな情勢だ。
活路がどこかに無いか、身動きもままならず、震えながら必死に探していた。
進退極まるとはこの事である。
「ポルタ。」
「なんだい?」
「先に邪魔を排除しよう。」
「あいよ。」
そう答えるなり、シーフは素早くゴブリンプリーストの首を持っていたダガーで切り裂いてから戦士の横に並んだ。
ゴブリンプリーストは子供の喉を切る事も忘れてナイフを落とし、治癒魔法を唱えようともがいて声が出ない事に愕然とし・・・バッタリと倒れた。
「や、やめるんだアルカ! 相手はあのアラム族と噂のモリオンだぞ!?」
「そそそそうよ! 勝てっこないわ!!」
「黙れチムニ、ベラ。 俺はな、邪魔は排除して生きて来た。 俺に意見するな。 黙って従え。 出来ないなら消えろ。」
その返答に、魔法使い二人は沈黙するしかなかった。
「クックックックック。 たいした自信家だな。 お前、師匠はいないのか?」
「いない。 俺は自分で全てを考え、鍛え、習得して生きて来た。 邪魔は排除して来た。 俺こそ最強の戦士だ。 高レベルの魔法使い? それがどうした。 呪文を唱えている間無防備になる魔法使いが俺に勝てる筈がないだろう。」
(呪文・・・? そういえば、唱えてたか?)
アルカの言い分に、ふと疑問が湧く。
「そうか、それは残念だったな。」
「残念・・・だった?」
「そうだ。 師匠がいれば、きっと教えてくれただろうさ。 上には上がいるってな。」
「ハハハハハ! 面白い、お前が俺より強いと言うのか。 ならば証明してもらおうか!」
そう言うなり、アルカとポルタは同時にダッシュした。
「やめろぉ!!」
チムニは咄嗟にそう叫んだが、二人は止まらない。
すぐ横にいたルーケが介入する余裕がないほどの素早さで、二人はほぼ同時にモリオンに肉薄すると、アルカは上段から剣を振り下ろし、ポルタはモリオンの胴をめがけて横薙ぎにダガーを振るった。
そして、ピタリと二人の動きが止まる。
右手で胴を薙ごうとしていたポルタのダガーを、左手でアルカの剣を。
それぞれ人差し指と中指だけで挟んで止めていたのだ。
「おいおい、大口叩いて手加減とは恐れ入る。 そんな遅い剣で俺を倒せると思っているなら考え直せ。 欠伸がでるぜ。」
「ってかあんた、魔法使いって自分で言ってたじゃんか。」
思わず突っ込むルーケである。
「魔法使いだよ。 本職はな。 ただ。」
「ただ?」
「拳闘志の技術も多少、心得ているがな。」
多少かよ。 そう思うルーケである。




