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愚者の舞い 10

 「助けてくれてありがたい。 だが、先に手を出したのはこちらだ。 そちらは手を引いてもらおうか。」

リーダーであろう、全身金属鎧であるプレートメールアーマーを着込んだ戦士が、堂々とモリオンにそう告げた。

それを聞いて、怪我の治った黒魔法使いと、介護していた白魔法使いはオロオロと動揺し、シーフはニヤニヤ笑って推移を見守る。

同じ魔法を使う二人には、このオーガーのような肉体を持った男の凄さを良く分かっていたためだ。

だが、リーダーであるこの戦士は、パーティ内の絶対的な権力を握っているらしく、口出しできないでいるようだ。

「それは冒険者の信義に則って、お譲りします。 私は何が何でもゴブリンを倒したいわけではありませんし。 それと、この巣のキングは既に倒しました。 後は雑魚しか残っていないとは思いますが、ご用心を。」

「左様か。 ご苦労だったな。」

なんとなく、横柄な態度の戦士にルーケはムカついた。

モリオンが手助けしなければ、全滅していたかもしれないのだ。

それをこの態度はどうだ? と。

「ですが、こちらも同じような依頼を受けている以上、中に入らねばなりません。 露払いがてら、離れて着いて行かせて貰いますよ。」

「いいだろう。 邪魔はするなよ。 行くぞ!」

仲間にそう声をかけ、戦士は指揮を取り始める。

「ポルタ、先頭に立ち罠の警戒を頼む。 チムニ、明かりを。 ベラと共に後ろだ。 行くぞ。」

そう指示すると、シーフを先頭に、少し離れて戦士が、その少し後を二人の魔法使いがペコペコとモリオンに頭を下げながら洞窟に入って行った。

「いいのか? あんな好き放題言わせておいて。」

「クックックックック。 可愛いものじゃないか、ヒヨッコの囀りなんか。 一々気にしてたらこの稼業はやっていけんよ。 実力が無ければ死ぬだけだしな。」

事実、死にかけたルーケとしては何も言えないわけだが。

「昨日小細工しておいたから魔物は分散していないと思うが、一応付近は警戒しておけ。万が一と言う事もあるからな。 ところでお前、なんで冒険者に成ろうと思ったんだ? 親は反対しなかったのか。」

前を進む冒険者達はシーフが罠を警戒し、探しながらの前進なのでそんなに早くはない。

そのため二人は、まだ洞窟内に踏み込んでさえいなかった。

「親? そんなものいねぇよ。」

「いない? 孤児か。」

「俺も詳しくは知らないんだ。 ただ、幼い頃に魔物に襲われて死んだらしいけど。」

(ふむ。 どうやら誰も教えていないようだな。)

実は、モリオンはルーケの生い立ちを知っていた。

ルーケの母親は勇者アレスの血を引く唯一の存在であり、剣の腕も確かで、勇者の子孫として恥ずかしくない器量を持ってもいた。

だがルーケが2歳の時、第二子の臨月を迎えていたためろくに抵抗できず、また、父親も奮戦したが力及ばず帰らぬ人となった。

唯一生き残ったのは、その時屋敷に残っていたルーケだけだった。

その日、いつもは物分かりの良いルーケがぐずって行かないと駄々をこねたため、両親は仕方なく執事に任せて王城へ向かったのだが、その帰り道、襲撃されたのだ。

問題はその後。

アレスの血筋はルーケ以外には残っていなかったが、旦那の方の血筋は大勢いた。

そして、人としては、最低の輩が多かったのだ。

幼いルーケから財産だけ奪い取り、一文無しにして恥ずかしいとも思わない連中。

多少まともな連中もいたが、その手の連中に邪魔されて手出し出来なかった。

あまりの酷さに同情した執事がルーケを引き取り、育てる事にしたのだが、その執事もたった5日で殺害された。

奪った財産が取り返されるのを警戒した者の手によって。

幼いルーケは運良く難を逃れたが町に放り出され、スラム街で育つ事になる。

18年間、盗賊などの下働きとしてこき使われ、それに嫌気がさして自立する決心をし、冒険者になったのだ。

なけなしの、自分で蓄えた金を剣や鎧という装備に変えて。

モリオンはそれに同情してルーケを助けようと思ったわけではなかったが、何となく惹かれるものがあったのか、こうしてわざわざ手助けをしている。

(アレスの奴、今のルーケ見たら嘆いて自殺しそうだな。)

そんな事を考えつつ、モリオンはルーケを促して洞窟に踏み行った。

先行する冒険者はかなり奥まで進んでいた。

ただ一本道のため、遥か彼方に魔法の光に照らし出された彼らの姿が浮かんで見えている。

(本当に暗闇の中って遠くまで行っても目立つものなんだな。)

ルーケは先ほど教えられた知識を確認し、事後気を付けようと思った。

そんな彼らの陣形が乱れ、剣戟が響き渡る。

洞窟内だけに物音が良く響くなと、ルーケは思った。

ルーケは駆け付けるべきか迷い、モリオンを見る。

暗視魔法のおかげで、モリオンの様子は良く見えた。

モリオンは意にも介していないのか、平然としたものであったが。

「ほっとけ。 雑魚に後れはとるまいよ。 大口叩く実力はあるしな。 雑魚の相手だけならさっき見て分かっているだろう? 掃除は任せてやるさ。 ククク。」

ルーケは肩を竦めると、モリオンと並んである程度まで進み、邪魔にならない程度で止まって見物する。

気楽に見ていたためか、ある程度慣れて来たためか、彼らの実力を見定める事が出来た。

大口叩くだけあって、戦士の技量は中々のものだ。

それに対して魔法使い達は少々レベルが足りないようで、初級魔法しか使っていない。

また、シーフも鎧が薄い皮鎧のせいか、戦士に比べて動きがぎこちない様に見える。

どうやら、実力者である戦士に三人が着いて来ているといった感じだ。

「戦士一人では剣で対抗できる相手しか戦えない。 どんなに腕を磨いてもな。 魔法使いも同じ事。 魔法を構成するための呪文を唱えている間無防備になる。 シーフは手先が重要で、本来は壁になるべきではないが、構成上そうなるしかないのだろうな。 出来ればあと一人戦士が欲しいといったところか。 本来の冒険者は、こうやって互いに至らない、または足りない部分を補うためにパーティを組む。 お前もちゃんと帰ったらそうしろよ。」

「・・・そういうあんたはどうなんだ?」

「俺は一人で何でも出来るからな。」

ある意味傲慢ではあるが、確かにそれだけの力がありそうだとルーケは思った。

いや、事実あるのだろう。

あの魔法使い二人だってそれなりに力がある筈だ。

なのにあれだけ恐れていたのだから。

ルーケは魔法の事は良く知らないため、先ほどのモリオンの魔法がどれだけ凄いのか分かっていなかった。

ヘルファイヤーは上級黒魔法であり、広大なグラン大陸だが3人も使い手がいるかどうか。

魔法は魔術書を読んで覚えるか、誰かに教わらなければならない。

しかし、上級魔法はそれ自体使い手が僅かで、魔術書だってそんなにはない。

初級の光の矢だって、普通1本しか作りだせない。

これはそういう異界の方程式による魔法だからだ。

つまり、魔法の(ことわり)を理解し改良している証拠なのである。

現代で例えるなら、動かし方を知っていれば、自動車を走らせる事ができる。

しかし、その構造と原理を細部まで理解して運転している者は皆無に近いであろう。

つまり、魔法使いと呼ばれる者は車の運転手にすぎないのだ。

運転の仕方を習って、動かしているだけにすぎない。

また、非常識な攻撃魔法の無効化。

黒魔法使いチムニと白魔法使いベラには、伝説の一族の名前が浮かんでいたに違いない。

ファレーズのどこかに住むと言われる賢者の一族、アラム族を。

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