転職
ヘヤのなかにはいると、奥のほうに机があり、ひとりのニンゲンが座っていた。年齢はわからないが、老人といって良いであろう。
「ただいま帰りました。先ほどメールで報告したとおりです。あの公園にいたかたを、おつれしました」
「ソウか、わかった。3人とも、そのソファーに座ってもらいたい」
ソウいうと、その老人は、徳康のほうを、すこしのあいだ凝視していたのだが、ナニカを悟ったのであろうか、カオを上にあげて、ハナシをはじめた。
「どうも、はじめまして。ワタシは毛利といいます。おそらく、ふたりからハナシを聞いてるとはおもいますが、ワタシたちは、チョット特殊なチカラを持っているニンゲンでして、超常者と呼んでいます。
ソレで、われわれ超常者たちは、個々にバラバラになっているのではなくて、そしきとして、ひとつにあつまり、かつどうや行動をしています。
そして、ソレを束ねているのが、このワタシというワケです。まあ、名目上のトップだとおもってください」
「ソウですか、ソレはどうも。ハナシを聞いているとはいっても、くわしくは聞いてはいないため、しょうじきなところ、アタマのなかが整理がデキず、まだこんらんしています」
「ソレは、しかたがないですよ。ダレだって、ハジメはソウなります。ソレで、単刀直入にいいますけど、徳康さんでしたか、コレから先のコトは、ナニカ、予定はキマっていますか?」
「いやソレが、実は、シゴトをヤメてしまいまして、その上、先ほどから、今までのじんせいでは、ありえなかったような現象を、何度も見たり、聞いたりしたせいか、よけいに、コレから先、じぶんがどうしたら良いのか、まったくわかっていません。
初対面のかたに、こういうコトを言って良いものなのか、チョットわかりませんが」
「ソウですか。ならば、さっそくハナシをしたいとおもいますが、この超常者があつまっているそしきに、所属するツモリはありませんか?」
「ワタシがですか?」
「ソウです。先ほど、ココにいる大空からの報告を聞いて、さらに今、こうして、ワタシ自身で、アナタのスガタを見てみた結果として、こういうカタチの提案をしています。
しょうじきなところ、ワタシも、カナリおどろいています。アナタが持っている、『不運や不幸をあつめてしまい、さらに、ソレをショリして、消化してしまう』という体質や性質は、われわれ超常者のなかでも、今まで一度もなかったケースなんです」
「ソウなんですか」
「ソウです。ソレに、一旦アヤカシという超常のそんざいを知り、さらに、ソレをつよくにんしきし、いしきし、りかいし、知覚してしまった以上、アヤカシたちは、今まで以上に、アナタにたいして近寄り、かかわってくるでしょう。
そして、そのアヤカシたちのなかには、とてもざんねんなコトではありますが、ニンゲンにたいして、危害をくわえてくるモノもおおいのです。
ですから、もしもこのまま、アナタが、超常のチカラのつかいかたを知らず、今までどおりに生きていくのであれば、ほとんど100%の確率で、アヤカシに襲われるでしょう。ソウなると」
「ソウなると?」
「とても言いにくいコトなのですが、イノチを落とすコトになるかもしれません。
ろこつにいってしまえば、『ヤツラに食いコロサレル』というケースも、十分に、ありえるコトになります」
「ソレはこまりますね。まだ死にたくないので」
「ソウでしょう。ですので、このそしきにはいり、超常のチカラのつかいかた・ぎじゅつ・ノウハウをおぼえるコトを、つよくおススメします」
「ちなみに、ワタシが不運や不幸をあつめてしまい、ソレをショリして、消化してしまう。っていうコトは、まあわかるんですが。
そもそもワタシには、その超常のチカラっていうものが、備わっているんでしょうか?
今まで生きてきて、そういう霊能力というか、超能力みたいなコトは、一度だって、つかえたコトがないんですが」
「ワタシの見たところ、おそらくアナタは、うまれもった素質があった。というワケではありませんね。
ちなみに、ほとんどのケースでは、超常のチカラをつかえるニンゲンというのは、うまれたときに、その素質を、持っているコトがおおいのです。
いわば、生来の才能・能力・素質を持っているニンゲンが、訓練によって、超常のチカラをつかえるようになります」
「というコトは、ワタシは、超常のチカラをつかうコトがデキる、のうりょく・さいのう・資質は持っていない。というコトなんでしょうか?
ソレをつかうコトがデキる資質を、生まれ持っていないのであれば」
「フツウであれば、そのとおりなんです。ところが」
そういうと、毛利はふたたび、徳康のほうを、ジッと見ていた。
(一体なんなんダロウ、このジイサンは。さっきから何度も、オレのほうを凝視するコトがある)
「ところが、ワタシは今、こうして、はじめてのケースを目にしているんです。
もう80歳を越えているんですが、今までいきてきて、『生来の資質を持っていないニンゲンが、後天的に、資質を持つようになった』という、非常にレアで、希少なケースをね」
「レアで、希少なケースですか」
「ソウなんですよ。徳康さん、アナタのそんざいは、今までの超常者の常識や前提条件というものを、ガラリと変えてしまいかねないんです。
今までの常識や前提条件では、超常のチカラをつかえるニンゲンは、うまれ持った資質・のうりょく・さいのうが、ゼッタイ的にひつようだった。ひつよう不可欠なハズだった。
こういうモノを、後天的に身につけて、手にいれるコトはデキない。と、こういうコトになっていたんです。
でも、ソレが今、ワタシの目のまえで、その常識や、ゼッタイ的な前提条件というものが、崩れてしまったんですよ。
ほんらいだったら、うまれ持った資質・のうりょく・さいのうを持ったニンゲンが、わかいころから、チカラをつかう訓練をうけて、はじめて、そのチカラを使えるようになります。
そういうニンゲンは、大体、10代の後半くらいから、ダンダンと、チカラをつかえるようになります。ソレで、気をつけないと暴走しかねない。
だから、10代の半ばや後半くらいから、超常者になれる素質を持っている候補者を、このそしきにリクルートして、しょぞくさせるんです。
ソウしないと、チカラをつかいこなすコトがデキずに、ほんにんはおろか、まわりのニンゲンにたいしても、キケンが及びかねないですし。
ほかにも、たんじゅんに、ナニゴトもわかいほうが、モノ覚えがハヤイですしね。
歳を取ってからでは、ナニカをおぼえようとしても、なかなかおぼえるコトがデキず、身につきにくい。
そういうコトもあり、大体、10代の半ばや後半くらいから、超常者になれる素質を持っているニンゲン。つまり、こうほ者は、このそしきにはいり、しょぞくし、訓練にたいして参加しています」
「ナルホド、ソレはたしかに、おっしゃるとおりでしょうね。こういうチカラを身につけてしまったら、チャント訓練しないと、キケン極まりない。
ソレに、ナニゴトも、おぼえたり、身につけるためには、歳がわかいほうが良い。っていうのは賛成です」
「ところが、徳康さん、アナタという例外が、ココに、今こうして、そんざいしているんですよ。
ですので、ワタシたちとしても、ホンネを言ってしまえば、アナタのそんざい自体が、われわれにたいして、一体どういうカタチで影響をおよぼすのか、あるいは、あたえるのか。
しょうじきなところ、まったくわかりません。わかっていません。ナニせ、参考となるケースが、つまり、前例や先例というものが。まったくナイので。
とはいっても、このままアナタのコトを、放っておくワケにもいかない。となれば、やはり、このそしきにはいり、しょぞくしてもらうほうが、一番良いかとおもいます。
ソレに、アナタ自身にとっても、こうして、超常のチカラのそんざいを知ってしまった以上、コレを、うまくあやつる訓練を、チャントしておいたほうがいいでしょうし」
目のまえの老人に、このようにいわれ、徳康はすこしのあいだ、かんがえこんでしまった。
ナニセ、今までおきた、一連のジケン・デキゴトによって、「じぶんが明日から、どうやって生きていけばいいの」というコトか、サッパリわからないのだから。つまり、まったく当てがナイのである。
だがしかし、かといって、「今、はじめて会ったニンゲンがいってるコトを、イキナリ信じろ」といわれたところで、ソレもやはり、むずかしい。
しゃかいに出ていって、シゴトをして、今まではたらいてきた以上、世のなか・しゃかい・セケンのコトを、多少なりとも知ってはいるのだから。
つまり、「はじめて会った、見知らぬニンゲンのコトを、イキナリ信じてしまう」というコトは、あまりにも不用心であり、慎重さに欠けるとおもわざるをえない。
ナニセ、シゴトをしていて、もしも、そんなコトをしてしまえば、まずマチガイなく、カナリたかい確率で、おおきなミス・しっぱいをまねき、キケン・もんだい・トラブル・モメごとを、引きおこすコトになるのだから。
(でもなあ。ほかに選択肢が見あたらないし、おもいつかん)
徳康としても、アレコレとかんがえてみるだが、目のまえの老人がいっているコトを、つまり、その提案しているコトを断ったところで、「じゃあ、どうすればいいのか」という代案が、まったく見つからず、おもいうかばない。
(こういう状況になったら、アタマでアレコレと、リクツでかんがえてみてもムダか。アテになるかわからんが、感覚というか、直観に従うしかない)
こうかんがえて、今までかかわった大空と岩羽のコトを、かんがえてみた。ふたりとも、じぶんにたいして危害をくわえるような、キケンでワルイ性分のニンゲンとはおもえない。
ソレに、目のまえにいる毛利という老人も、ハナシを聞いているかぎり、思慮深そうであり、愚かなコトをいっているとはおもえない。
(しかたない。ほかに選択肢も代案もない。ココはひとつ、このジイサンの提案に乗るしかないか)
徳康は、ハラを括った。
「わかりました。その提案に、乗らせていただきます。今のワタシにとって、毛利さんのおっしゃるコトが、おそらくベストであり、最善の策や案であり、選択肢だとおもいますので」
「ソウですか。コチラの提案に、賛同していただけますか。ソレではさっそく、このそしきのコトや、今後の徳康さんの待遇などについて、せつめいをいたしましょう。
ちなみに、訓練をうけて、超常のチカラをチャントつかえるようになり、任務にたいして参加するようになれば、つまり、シゴトをするようになれば、ソレなりの報酬も、だすコトがデキます。だから、転職をするコトにもなりますね」
(なんと、チャントおぼえれば、カネをもらえるシゴトになるのか。大空さんがいってた、おカネをはらえるかも。っていうのは、こういうコトか)
ちょうど今、シゴトを失っている徳康としては、まさに、「渡りにフネ」であり、アリガタイ、良いハナシにおもわれた。
(カネをもらえるシゴトになるんだったら、はやくおぼえねば)
毛利は、別室からヒトを呼んだ。
「このヘヤに、そしきのジム的なシゴトをしているニンゲンを呼びましたので、入ってきたら、ついていってください」
ソウいうと、数分後には、ヘヤに事務員が入ってきた。
「ココにいる徳康さんに、そしきのコトや、今後のコトについて、デキるかぎりくわしく、チャントせつめいをするように」
毛利が、そのように指示をだすと、その事務員は、徳康をつれて、ヘヤをでていった。




