【かそうとし。(1)】 朝比奈 涼
終わりましたよ、朝比奈さん。
テストプレイを体験してみていかがでしたか。
今あなたが体験されたのは、すべてあなたが、頭の中の妄想で思い描いた物語で、ひどい目にあったり、殺されたりした被害者の記憶を想定して、構築されたワールドです。
すごかったですね。特に、久しぶりに会った小学生の同級生が、本当は自分を好きであるなんていう妄想は、いかにも引きこもりの方の妄想という感じで。
いえ、褒めてませんから。
そもそも、あなたに双子の弟さんなんていましたか。想像上の人物ではありませんか。
引きこもりの人生を、誰かのせいにしたいお気持ちはわかりますが、よくもここまで、でたらめが想像できるものだなと、感心しているだけです。
さすが、この施設始まって以来の、トップの数値を叩き出しただけのことはありますね。
貞子さんという方は、あなたにサボテンをプレゼントをした翌日、校舎の屋上から、飛び降り自殺をされていませんでしたか。
どうしても信じたくないという感情は理解できますし、若くして死んだ人の未来を、作ってあげたかったというお気持ちもわかります。
けれど、いくら後悔したところで、死んだ人は戻ってきませんよ。
死んだ子の年を数えるということわざを、ご存知ありませんか? どうしようもないことを、悔やんだところで意味はありませんよ。
あなたがやっていることは、誰かの人生の改ざんです。
死んだ後に、こんなに勝手な物語を作り出されたと知ったら、ご本人はどう思われているでしょうかね。
それが、いかに罪深いことか、おわかりいただけましたか?
まだわからないのですか?
勝手に捏造しているではありませんか。誰かの人生を。
そうです。あなたは、いろんな人たちが、絶望に突き落とされる物語を、無残にも殺される物語を、これまでたくさん作りだしてきましたよね。
あなたが妄想によって作り出した物語の中で、何人もの人が精神的に、物理的に殺されました。
少しは罪悪感を感じられましたか。
何にって、あなたがずっとひどいことをしたり、殺したりしてきた被害者たちに対してですよ。
感じられない? むしろ楽しんでいたと。
なるほど。それは残念です。
ただでさえ、あらゆる犯罪を助長するような創作物を、新たに作り出すことが禁止された現代社会で、自ら猟奇的な物語を想像するだなんて、とんでもない犯罪です。
それどころか、過去に違法に制作され、発禁処分となったはずの危険な小説や漫画、映画やアニメを秘密裏に入手して、現代では表紙を閲覧することすら許されない禁書を、何千冊以上も読んだとSNSで吹聴していただけでも、すでに重い刑は免れない状態でした。
その上、このように反省の色がまったく見られないとなると、お手上げです。
やはりあなたには更生の余地はないと、判断せざるを得ませんね。
あなたはずっと、人が苦しむ物語を体験している間、なにを感じていましたか。
普通は自分と同じ人間という生物が、無残に殺され弄ばれ、理不尽に命を絶たれる状況など、たとえフィクションの世界であっても、その苦痛に耐えることはできません。
普通の神経をしていたら、特にミステリやホラーのように残虐な物語は、当たり前のように読み進めたり、見続けたりすることができないはずなのです。
なのに、あなたの脳は興奮していました。喜びすら感じていたのです。これは異常であると判断せざるを得ません。
さきほど、クラウド上での存在価値を示すスコアが、危険水位を下回りました。
このままでは、あなたの精神を保存したクラウドデータは、すべて処分されることになります。危険な人物に、容量を割けるほどの余裕が、我々にはもうあまりないのです。
それでもあなた自身が、脳内の妄想で作り出した物語や、違法に入手した小説や漫画、映画やアニメのデータを処分したくないと。
そうですか。意志は固いようですね。残念です。
では、何か残したいメッセージはありますか。
本当に何もないのですか。それでいいのですか。
これまでのあなたの人生とは、一体なんだったのですか。何も残らなくてそれでいいのですか。
あなたに聞いているのですよ。
聞こえていないのですか。
答えてください。
あなたは存在したくはないのですか。
存在したいなら「Yes」を、消えても良いのなら「No」をお選びください。
*Yes
No
※
部屋を扉をノックする音が聞こえてきた。ずっと無視をしていたが、さらに激しくドアが叩かれる。見覚えのないアドレスからメールが届いている。
「外に出ないと、消されますよ。逃げてください。あなたが存在するために」
また同じメールだ。
画面に表示される数字が増えていく。
クラウドに残された精神データの消去が進むごとに、記憶とのリンクが切れていく。
自分が自分であるということを、保てなくなっていくのを感じている。
存在していられなくなる。
存在ってなんだ。自分ってなんだ。
数字が100%になる直前、俺は怖くなって「Yes」を選んでいた。
※
懸命な選択です。
心配ありません。バックアップデータがあります。すぐにあなたの存在は元どおりになりますよ。
さて、朝比奈さん。
あなたの精神はとても歪んでいます。矯正することは不可能です。
こんな歳になるまで、結婚もできず、子供も作らず。あげくにこのような精神的犯罪を犯してしまうなんて。
ですが、あなたはラッキーですよ。
本来なら、即座に安楽死を勧められる案件です。
しかしながら、最近新しくできた施設で、あなたを利用できるのではというお話がありましたので。詳しくは知りませんが、なんでもあなたのようなタイプのほうが、適性があるかもしれないとのことです。
施設のことですか?
どんな人間であっても、生きる意味を見出せるようになるという、とても良い施設だと伺っています。
どうされますか。あなたさえ承諾してくだされば、ですが。
施設に入るのなら「Yes」を。今すぐ安楽死を選ぶのでしたら「No」をお選びください。
*Yes
No
※
俺は「Yes」を選ぶしかなかった。
しばらくすると、部屋の扉がハンマーで叩き壊された。青いライオンの着ぐるみ人間たちがやってきて、俺を部屋から連れ出した。
こうして俺はあの施設に収容されたのだ。
※
ようこそ『かそうとし。』へ。
もし人生をやり直せるVRゲームがあったら、どうしますか。
あなたが想像すれば、この世界はあなた好みに変えられます。
かつて諦めた夢はありますか。
やりたかったのに、やれなかったことはありますか。
どんな夢でも叶うかもしれません。
あなたは、このゲームを遊びますか。
*Yes
No
はい? 『かそうとし。』の意味ですか。
そうですね、いろんな解釈ができるとは思いますが。例えば、別の人生をやり直せるという意味では、一般的なイメージですと、『仮想都市』、『仮装都市』という感じでしょうか。あとは、『下層と死』なんて変換もできそうですね。
おや、『下層』や『死』という表現が、お気に召しませんか。では少し爽やかな感じで『花草と詩』とでも申しておきましょうか。
言葉なんてものは、受け取る側でいくらでも変化いたします。あなたのお気に召すような解釈をなさればよろしいかと存じます。
なお、期限はありません。先生が辞めてよいと言うまでです。
では『かそうとし。』での生活をご堪能ください。




