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ろうじんとし。  作者: 夢手機ノヒト
38/41

【ろうじんとし。(5)】 ナンバー85

 急に体が揺さぶられた。大きな揺れだ。地震だろうか。


「あーもう、お口の周りにケチャップついたままですよ。今日のR様の食事担当、誰ですか」


 どこからか声が聞こえる。


「え? 新人? またですか。本当あの子、雑な仕事しかしないな。うちのスタッフで百歳超えなんて、十分若いほうなのに。どんどん後輩も増えてるし、しっかりしてもらわなきゃ、困るんだけど」


 不意に視野が明るくなった。


「貞子おばあちゃん、起きてください。だから、オムライスを取ったりしてませんから」


 青いライオンの着ぐるみ人間が、何かを言っている。

 あなたは誰なの。貞子おばあちゃんってだあれ。


「昨日も言ったでしょ。このゲームは一日八時間までって。世界を壊すのは、また明日にしてくださいね。ほら、お薬の時間ですよ」


 ここはどこだろう。

 あたしは何をしているの。


「では、次の予言の書です。世界大統領による異常事態宣言が発令されました。人類最後の自然分娩が確認されてから、今日で五十年が経過しました。無差別テロにより、医療施設が破壊され、凍結保存されていた受精卵が、すべて消失するという悲劇を、我々人類は乗り越えてきました。ですが残念ながら、あの事件以降、未だに妊娠した女性が発見されておりません」


 壁一面の大きなテレビの中にも、青いライオンの着ぐるみ人間がいるみたいだ。


「リアルワールドでの、人口の減少は避けられませんが、精神面ではクラウドへの移行が進んだことにより、我々人類の絶滅は回避されました。しかし、増え続けるクラウドデータが、限界を突破しようとしています」


 人類の絶滅って、どういうこと。限界を突破って、一体何の話をしているの。


「緊急事態を回避するために、『ROUJIN TOSHI』システムによる、新たなるワールドの創造が一部禁止、および制限されることが決定されました。さらに利用者の少ないワールドから、順番に強制削除を行うことが決定しています。なお、本日の強制削除対象は、『かそうとし。』平成令和・ノスタルジック・ワールド編となっています。今回の強制削除では、データのコンバートはされません。クラウドデータのみならず、本体の遺伝子データ自体も、完全に削除されます。もし削除後も、改善が見られない場合は、さらに新たなるワールドが削除対象となります」


 宙に浮かんでいる文字が、点滅している。


「外に出ないと、消されますよ。逃げてください。あなたが存在するために」


 逃げるってどこに。


 なんでこんな青い部屋にいるの。どうして青い水の中で、あたしは縛られているの。あたしは何をしているの。

 あたしはどこにいるの。ねぇ教えて。


   ※


 大丈夫ですよ。あなたはここにいらっしゃいますよ。


 本日も『かそうとし。』のご利用ありがとうございました。

 どうでしたか。リフレッシュできましたか。

 ええ、そうですね。

 「死んだ気になれば、なんだってできる」と。


 みなさん、そうおっしゃいます。

 「現実のほうが、まだマシだ」と。


 何度も感じられてましたよね。「こいつらよりマシだ」と。

 そうなんです。その感情がリフレッシュには、とても大事です。


 老人になっても、ほとんどの人が働き続けないといけない社会になり、いかに長く社畜で……失礼いたしました。いかに楽しく働けるかの研究が、進んだ成果と言えますね。


 最悪な世界を体験しておけば、どんなに退屈なお仕事でも、楽しく感じられると、みなさんにご好評いただいております。


 お盆やお正月休みを利用して、たっぷりと体験される方が多いですが、最近ではもっとカジュアルに、土日のリフレッシュとして利用される方も、増えてまいりました。


 それだけみなさん、現実世界のお仕事が大変なんですね。

 お疲れ様です。


 もちろん、現実世界でむかつく上司や後輩、家族や恋人や友達、ご近所さんや通りすがりの方々を、こちらの世界で陥れたり殺したりなさるのは自由ですが、現実世界で同じことをなさるのは、どうかお控えください。捕まってしまいますので。


 新しいワールドが体験できなくなるという噂ですか。まさか、そんなことはございませんよ。


 いくら容量が足りなくなったところで、いらないワールドを消せば良いだけです。それにワールドを作りたいとおっしゃるクリエイター様たちは、山のようにいらっしゃいますから。最近では消費されるお客様より、作られる方が多いぐらいです。


 それはもうあなたがたS様たちが、さきほど体験中に「自分たちのほうがマシだ」とお考えになったような、R様やH様が見えないところで、頑張ってらっしゃるのですよ。


 もちろんR様やH様も、あなたがたのようなS様には、「死んでもなりたくない」と思ってらっしゃる可能性もありますが。


 S様の略は何か、ですか。なんだと思われますか。


 いっぱい該当しそうなものがございますね。成功者のSuccessful person、聖人のSaintなんかはいかがですか。変わったところでは、金庫のSafeなんてのもありますよ。そういえば、犠牲のSacrificeもSで始まりますね。別に他意はありませんよ。


 え、いやだなぁ。社畜のSだなんて、とんでもない。


 言葉なんてものは、受け取る側でいくらでも変化いたします。あなたのお気に召すような解釈をなさればよろしいかと存じます。


 それにしても、ひと昔前は、S様が大多数を占めていたので、皆様は『普通』と呼ばれていたようですが、今では逆転現象が起こっているみたいですね。


 こういう場合って、普通って定義は、どちらになるんでしょう。どこにでもありふれているほうが普通ということになると、S様は普通じゃなくなっちゃいますね。普通が普通じゃないって、全然普通じゃないですよね。不思議ですね。言葉って。


 そんなことはさておき。


 とにかく、新しいワールドも、毎日のように増大し、斬って捨てるほど吐き出されております。たとえ誰一人として遊んでくれないワールドであっても、作り続けようという奇特なクリエイター様たちが、たくさんいらっしゃるのです。それも無料で。


 本当に頭が下がる思いでいっぱいです。足を向けて眠れません。ええ、わたくし頭も足もございませんし、眠ったりもいたしませんが。ただのAIジョークですよ。


 おや、どうかしましたか。メールが来てるみたいですね。

 いいですよ。どうぞご確認ください。大事な連絡だったら困りますし。お気になさらずに。


「外に出ないと、消されますよ。逃げてください。あなたが存在するために」


 なんでしょうかね。迷惑メールでしょうか。本当に迷惑な話ですね。ただでさえ容量が足りないんだから、こういうゴミは増やさないで欲しいのですが。


 そもそも逃げるってなんでしょうね。

 存在するってどういうことでしょうか。


 お客様には、まだきちんとお体が、おありになるかどうかも……いえ、なんでもございませんよ。


 では今後も皆様に絶望していただくために、様々なワールドをご用意しておりますので、またのご利用をお待ちしております。




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