24話 好意
二体目のボスは空趨鷲。
こいつもβテスト時に攻略されているらしい。
そのため、基本情報は割れていた。
フィールドは高山。主な攻撃は遠距離攻撃。
そこまで分かっているなら低レベルでも攻略のしようがあるだろうにと思うが、そう簡単な話でもないらしい。
「βテスト時はデスペナを恐れずに特攻が出来た。だが今回は違う。死んだらそれまでだ。一人の犠牲者も出さずに攻略するとなれば、難易度は段違いだろう。それでも、みんなで生きて帰ろう!」
その為の作戦を組んであるらしい。
「まず、最初に狙うのは右翼の部位破壊だ。β版では空趨鷲に主導権を握られた。だから最初にこちらのフィールドに引きずりおろす」
はいはいテンプレ乙。
やることいつもと変わらないじゃんか。
タンクで守ってちまちま攻撃。
馬鹿の一つ覚えなんですか?
まあ。
それが汎用性の高い戦術というのは認めるよ。
テンプレがテンプレたる理由は有用性だ。
確実性を求めるならやはりそれか。
「ボスを地に墜とすまでは弓や魔法がメインになる。それ以外の剣士や重装は敵の攻撃から彼らを守る事に徹してくれ」
ふぅん?
貴重な遠距離攻撃手段に私たちPKを近づけていいのかしら。あなた達30人に対して、10の牙が今か今かと手ぐすね引いているところよ。
「ロキ、あいつらはPKを警戒していないの?」
「お人好しなんだろうね。性善説を妄信していると言ってもいいかもしれない。人はみな分かり合えるなんて本気で信じているんだろうさ」
「あなたも似たようなものでしょう。分かり合えなくても手は取り合える、だったかしら」
「そりゃあ僕も人間だからね」
……そうか。
彼もまた人間なのか。
(私には、人の考えが分からない)
ある時は聞く耳なんて持たないで、かと思えば無条件の信頼を寄せたりして、言語なんていう情報落ちも甚だしい手段で意思疎通を図り、時に論理より感情を優先して行動する。
めちゃくちゃな生き物。
どうしてこれで覇権を握れたのか謎だ。
「遠くない内に人類は滅びるでしょうね」
「長くても10万年以内には滅びるらしいね」
「……しぶとさはゴキブリ並みなのね」
「覚えておくといいよ。生に対する執着っていうのは思っている以上に強いものだからさ」
「それは、知ってるわ」
それは電子の私にも共通していた。
βプレイヤーに囲まれて、死に瀕した時。
私は確かに願った。
――死にたくない、と。
執着で何が変わるか。
そう聞かれれば、何も変わらないかもしれない。
そう答えるしかないかもしれない。
けれど、願ったことで私はここに生きている。
だから私はこう答えたい。
執念が何かを変える事だってあるはずだと。
「でも、そうね。人間の事は私よりあなたの方が詳しそうだわ。指揮権はあなたに譲ってあげるわ」
「君が誰かの下に付くだって? どういう風の吹きまわしだい?」
「知っているかしら? 盤上を最も自由に駆け巡れるのはキングではなくクイーンなのよ」
「あはは、君がクイーンだって? まさか。君はジョーカーだよ」
こんな綺麗な女性を捕まえて何を言うか。
この綺麗なお嬢様くらい言ったらどうだ。
「……何だっていいわ。王の座を譲ってあげると言ってるのよ」
「ふぅん? ま、悪意が無いなら何だっていいさ」
ああ、私はやっぱりこいつが嫌いだ。
あえて悪意という単語を選ぶところも、全て見透かしたうえでかまととぶるところも。
「ところで、悪意の反対ってなんだと思う?」
こうして、私をからかうところも。
「さぁね。善意じゃないかしら?」
だから、これはきっと同族嫌悪だ。




