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九、さゆみ 午後二時。

九、さゆみ 午後二時。


 他の家族がそれぞれの目的地に向かう為に家を出て行った後、午前中は洗濯や掃除をこなしていた。

まず、朝食で使った食器をキッチンで洗い、次に洗濯機を動かし、中の洗っていた衣類を取り出す。取り出した衣類は物干し竿に吊るし太陽光にさらし乾燥させていた。

午前中に家事を続け、昼食と一休憩をとしてリビングでお茶を飲みながらテレビを見ていた。

時計は午後二時を示している。

「あっ、もうこんな時間。お風呂掃除しなきゃ」

 そう言うと座っていたさゆみは、立ち上がるとお風呂場に向かい始めた。リビングを出て、廊下を通り、そのまま脱衣場も通過し、浴室に足を踏み入れた。

さゆみは今から風呂素地を始める合図として、まず長袖の右腕を捲り上げ、次に左腕の長袖をを捲り上げた。

「さて、午後の仕事を始めますか」

 さゆみがそんなことを呟くて数秒だった。

”ドォォォォォォン!”

強烈な揺れとけたたましい轟音が、さゆみを襲った。それはまるで地震と似た揺れと、まるで、雷鳴のような轟音が響き渡る。

「わぁぁぁぁ」

 揺れを前屈姿勢の状態になり、バランスを崩し倒れそうになる。

その姿は、まるで何かのダンスを踊るかのように前後に激しく揺れ、最後には昨日から水が溜まっている浴槽へ、頭からダイブする格好となった。

浴槽に昨日入浴し、それから時間が経過したため水温が低下しぬるくなった水が、さゆみの上半身を包む。そして、水温がさゆみの素肌を刺激する。

水は激しく揺さぶられ、そこそこに高い水飛沫と音が響く。そして、無数の気泡が発生していた。

水中で体を捻り上半身を浮き上がらせたさゆみは、上半身を水上にだし、両手で顔の水を拭った。

「何!? なんの揺れ!?」

 周囲を見回すさゆみ。その間も激しい揺れは続いている。

水が溜まった浴槽の中で左右に振られながらもなんとか立ち上がるさゆみ。そして、浴室の中で唯一ある窓を開いた。

風呂場の窓は、金属を軋ませながら開く窓。

開かれた窓の先に広がった光景はまさにSF映画のワンシーンと言ってもいい光景だった。

同じタイミングで康義・恵・司が出会っているあの巨人兵がさゆみの目の前に姿を現していた。

「なにあれ」

 浴槽のの中で直立した状態で窓辺の部分に手をかけ、この状況にさゆみは驚きを言葉で示すしかできなかった。

姿を見せてからじっと静止していた巨人兵であったが、他の場所と同じように動き始める。右足を上げた巨人兵は、そのまま前に立っていた平屋で青色屋根の住宅を踏みつけた。住宅は激しく軋み、徐々に建物の壁に無数の亀裂が生まれる。同時に無数の木屑が弾け飛ぶ。

「え」

 さゆみの口からは、単語すら驚きのああり奪われた。

 ”ガラガラガラガラ!”

巨人兵により踏み続けてられいた住宅は、とうとうその建物が持つ耐久力を凌駕する力がかかり、崩壊した。崩壊と同時いくつもの破片が空中を舞う。そして、崩壊する住宅。

住宅を踏みつぶし、またも動きを止める。

さゆみの目の前にいる巨人兵は一体だけであったが、他の家族同様に一体だけで終わることはなかった。

巨人兵を見つめるさゆみの視界に突如上から何かが落下し、その下にあったマンションを破壊するものがあった。破壊と同時に舞う埃の幕のの中から、同じ姿をした巨人兵が姿をみせた。そして、それは一度だけでなく二度目、三度目と繰り返されていく。

「一体だけじゃないの!?」

 複数体の出現に再び衝撃を受けるさゆみ。

他の巨人兵も一体目同様にのっそりと大地に立っていた。

 巨人兵の口に当たる部分が光、バチバチと火花が生まれ、あの太い光が放たれた。

その光線は直進し、一軒の住宅に直撃した。

「あっ! 吉崎さん!」

 午前中に回覧板をを渡しに瀬戸家に訪れた吉崎家の奥さんの姿が脳裏に過ってた。そのタイミングと同時に直撃した吉崎家は大きく破裂し、粉々になった。

「そんな」

 あまりの事態に恐怖に染まるさゆみ。破壊の光景はさゆみの眼前で幾度も繰り返される。ご近所の住宅が破壊されると同時にその住宅の家主の姿が脳裏に駆け抜けていく。

燃え上がる建築物。唸り響き渡る轟音。飛び交う破片。

さゆみの眼前には地獄や悪夢といって違わぬ風景だった。

「えっ!」

その時、巨人兵の頭が動き、そして、点灯しているランプの部分がまるでこちらを覗き込んでいるように見えた。

 あまりのことに驚いたさゆみは、視線を外し水の溜まった浴槽に蹲った。

『殺される!』

 さゆみの心に恐怖が襲来する。

周囲からは響き渡る破裂音。激しく揺さぶられる建物。

さゆみはこの揺れ、蹲ったままこの事態で恐怖に苛まれながら震えていた。



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