二十二、焚火。
空へ濃ゆく、そして、高く黒煙が立ち上り、激しく船体を燃え盛っていた船舶が、真っ黒にボディの色が染まり、海中に全高の半分が沈没していた。当然、煙も止まっていた。
太陽はすでに海に半分が沈み、後少しでもう夜が訪れる状態にあった。
その場の色が寒色に染められている場所で、唯一暖色に輝く存在があった。
それは焚火。
”パチン!”
焚火にくべた木が、軽く弾けた。
焚火をまじまじと見つめる康義。そして、そんな康義を中心にさゆみ・恵・司・雪の四人の姿もあった。
「康義さん。本当に生きてくれて良かった」
さゆみは康義の隣で、同じ様に焚火を見つめながら安堵したことを言葉にした。
「俺も同じ気持ちだ。こうして皆と顔を揃えて話ができるとは思っていなかったから」
波が音が、快いBGMとなっていた。
その場に居た誰も恐怖という鎖から解き放たれていた。
「それにしても父さん。あの時、何があったの?」
丸太に腰かけて、焚火をいじりながら康義に対して質問を投げる司。
「ん?」
「あの爆発音が響き渡った時に、父さんはもう駄目かもしれないなんておもってしまったもの」
「確かに。俺自身も思った」
康義が見つめる先の火がゆらゆらと踊っている。そして、地面に近い部分は温かい色がやさしき中にも存在を示していた。
「でも父さんはここにいる」
「ああ。そうだな」
そう頷く康義へと視線を向ける雪。
「でも、それはただ偶然だ。ここからは俺の推測になるが、あの時、あそこで沈んだ船には人が居たんだと思う」
その場に居た誰もが言葉を呑む。
「あの時、最後に残っていた火炎瓶を岩にぶつけ、それだけじゃなくあいつの熱光線が放ったおかげで一面が燃えていた。でも、それが俺が生きる結果に結びつくことになる」
焚火の薪が微かに音を鳴らせながら崩れた。
「みんなも知っての通り、あいつは特定の温度しか認識できない。それが少しでも歪みが発生することになれば、攻撃を的確に命中させることなんてままならない。地面に伏せた俺をあいつは炎の熱で正確に認識することができなかった。だが、あの船舶にいた人間をあいつは正確に位置を捉える事ができた」
「父ちゃん、それは目の前に居るであろう確実性のない相手を狙うよりも遠い確実に存在する相手を襲ったということ?」
「そういうこと」
「父ちゃん、だとしてもそんな非効率的なことをしたの」
恵の質問に言葉を口にせず、数秒程度空ける。またしても波音が彼らの間を通過していく。
「そう。非常に非効率的な方法だ。だが、そこに意図があったんじゃないかなと思っている」
その言葉が気になる雪。
「どう意味ですか?」
「あいつの目的は人類の殲滅ではなく、人類の数を大幅に減らすことが目的だったんじゃないかなと思っている」
「減らすことが目的? なんでですか?」
雪は康義の言葉が脳内で処理をすることができず、焚火に照らされる康義に質問を投げかける。
「一つの考えとしてとしてだが、この世のガイア理論といものがある。ガイア理論というものは、この地球はひとつの生命にみたて物事を考えるということで、その中に自己調節機能があり、例えば爆発的に数値が上昇した要素があったとして、その要素に対して対抗策を用いて調整を図るという理論だ」
「調整」
さゆみのつぶやきが静かに広がる。
「父ちゃん、もしかしてその調整をする対象は私たち人間で、あの巨大な人形が人間に向けた対策だと言うの」
「そうだ」
恵の言葉に一言返す康義。
「だから、あれだけ雑で中途半端なエイムなんだ。まるであれじゃ無差別な死神だ」
「司の言う通り、あいつらは言わば無差別な死神だ。誰かが言っていた言葉で、どんな人間であれ平等に与えられるものある。それが死であると。今回のことはある意味その言葉の証明になっているきがするよ。基本的には運で俺達にも死が訪れる可能性があった。しかし、それを先延ばしにでき、ここにみんなが居る。みんな、ありがとう」
「康義さん」
康義の名を静かに呼ぶさゆみ。
何度も砂浜のハープが波音を奏でる。
焚火の音がまるで、奏でる波音を称えるかのような小さな拍手が繰り返されていた。
「どれくらい、どれくらい、あいつらはどれくらいの人を手にかけたのでしょう」
目の前に揺れる火を見つめながら、雪はぽつりと言葉を零した。揺れる火に雪は、自分の傍を通り過ぎていった人々の姿を重ねている。
「あいつの頭部には目のような部分五つが存在していた。そして、俺達の前に初めて姿を見せた時には、全部のランプが光っていた。それが、最後には一つのランプが光っており、しかもそれが点滅をしていた」
康義は静かに巨人兵の姿を思い返しながら様子を分析している。
「恐らく全人口の五分の一、約十億人から約二十億人まで減っているんじゃないかと思う。そこから考えるに代替約五十億人から約六十億人が全世界で巻き込まれたんじゃないかと思う」
「そ、そんなに」
雪はその中に自分の家族が姿が数えられていると脳裏に過り、胸の奥が小さな棘で刺激される感覚に襲われる。そして、小さな下唇を少しだけ噛んだ。そんな、様子を横で見ていた司は察し、ゆっくりとそして優しく肩を抱き寄せた。
「父ちゃんに質問なんだけど、あいつらはまた私たちの前に姿を見せると思う?」
恵は燃えている焚火から顔をあげ、オレンジに染まる康義に顔を問いを投げた。
「当分は俺達の前には姿は見せない。わかることはこれくらいだ。また、人類が繁殖し世界に広がり、地球が危機を感じたならば調整役として姿をみせると思う。それが、五十年後になるか。それとも更に先の百年になるかそれは分からない」
「そうなんだ」
康義の言葉の重みを感じ、納得をした表情を浮かべる恵。
「あいつの厄介なのは、我々人類の得意技が使えないことだ」
「康義さん、得意技って?」
「そう。人類は調べること、学ぶことができる。そうして我々人類は繁栄してきた。未知のウィルスには薬やワクチンを開発し、怪我を抑止する為に、ヘルメットや防具を作り、対策を行い、色んなことに乗り越えてきた。けど、あいつにはそれができない」
「おじさん。それはどうして?」
「例えば怪我や病をした時には、その患者を診て何が起きているかを判断する。歴史を調べるには遺品や書物を見て調べ、学ぶことができる。それがあいつはどこかに塵となり消えてしまった全くと言って程に何も人類には残らなかった。今起きていることは未確認生物の写真や画像を見て、何が正体か充てるしかない状況と同じなんだ」
「父さん、そうすると人類は天敵にやられっぱなしのままなのか?」
「確かに人類の得意技は封じられている。けど、全てじゃない。まだ、人類に残っていることはある」
「それは?」
「考えること。言葉で伝えること。これは、動物には出来ない。人類の武器だ。確かにさっきも言った通り、手探りで探すしかない状況ではあるが、あいつがどうだったかは推察をすることができる。その推察を高め、それに基づいて対策を考える。そして、いつあいつらが来てもいいように準備を進める」
「長い話になりそうですね。康義さん」
「そう。決して楽な道じゃない。今こうして生きて残ったもの達の役割なんだと思う」
康義は満天の星を見上げた。
焚火の炎は今も激しく燃えている。
‐終‐




