表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/40

第8話 予言の娘

『雨の森で出会うだろう。薄緑色の髪、深い碧色の瞳、ルーンの呪縛に囚われた娘に』というのが予言の内容だとか。


「そ、そこまで言われたら、外見的には私……なのかもしれませんね」


 思った以上にピンポイントだったので、私は思わずゾッとしてしまいました。予言ってもう少しマイルドでぼんやりした感じじゃないですかね? それとも妖精界では違うんでしょうか。

 ともあれ私は『その予言の娘』の条件を満たしている。気になるのは精霊魔術師レムル(旦那様)の動向です。追っての獣はファンヴァラ様が倒しました。しかし、そうなると事態を大きくした気が……。妖精王同士の関係が不明瞭なので、楽観視は出来ません。それに精霊魔術師レムル(旦那様)が、別の手段で私を連れ戻す、または殺しに来る可能性もあります。


「あの……ファンヴァラ様」


 私はもう一つの危惧(きぐ)を彼に話した。精霊魔術師レムル(旦那様)の危険性について説明が終わるとファンヴァラ様は、すぐさま結論を出したのです。


「すでにお前は私のパートナー(つがい)として契約がなされた。これを犯すことがあれば死の王への宣戦布告に当たる、そう解釈するだろう」


 彼の低く、鋭い声。その眼光は鋭い。

 穏便どころか戦争の火種になるような不穏当な発言!?

「このままではまずい」と私は思案を巡らせます。いらぬ争いなどフラグからして折っていかなければ!


「ええっと、ファンヴァラ様。お気持ちは嬉しいのですが、元々の原因は私が脱走したからであって……その、できるだけ角が立たないようにしていただけると嬉しいかなぁ、と。……領土の回復という優先すべきこともありますし……」

「…………」


 ファンヴァラ様は顎に手を置いて、検討してくれているようです。お願いですから強硬手段となる結論に至りませんように!


大地の精霊(エアリアル)は噂を好み、その日のうちに妖精界に伝わる」

「え、あ、はあ」と、話の意図がつかめず私は生返事を返すのですが──

「つまり、私がお前を助けたことは、恐らく妖精界中に筒抜けという事だ」

「え!?」


 彼は私の驚きに小さく吐息を漏らすと、


「だが、お前が不安を抱えたままでは領土復興にも影響を及ぼすだろう。ひとまずその精霊魔術師と、ミデルに同じ内容の手紙を送るとしよう。あとは《世界樹の種》でもくれてやれば大人しくなるはずだ」


 良識がある方でよかった、と私は心底思いました。ええ、本当に。

 しかし、気になる単語が出てきたような……。


「あのファンヴァラ様。その《世界樹の種》とは?」

「死した大地を一瞬で蘇らせる妖精界の種だ」

「それって、どのぐらい価値があるんです?」

「妖精界の秘宝のひとつで──」

「秘宝!? そんな高価なものを渡しちゃっていいんですか!?」

「別に問題ない」


「秘宝と私の価値だとしたら完全に負けていますからね。どう考えても!」と叫びそうになりました。ああ、何というか契約(キス)をしてから、元気になってきたような……。こ、これがパートナー(協力者)としての加護というものなのでしょうか。


「それに私が《世界樹の種》を持っていても意味をなさない」

「どういう意味です?」


 ファンヴァラ様は拳を握ると、私へと差し出した。特に何かを持っている様子はなかったのだが──。


「手を出してみろ」


「わかりました」と、言われた通りに彼の拳の下に手を差し出しました。何か出てくるのでしょうか?

 彼が拳を解くと、そこから大量の種が零れ落ちてきました。それはもう私の両手から溢れて、地面に零れ落ちていきます。


「な、なんです、これ!?」

「《世界樹の種》だ。私はこの種を作れるが、芽吹かせることは出来ない」


 そんな簡単に精霊界の秘宝が、こうもばらばらと地面に落ちているのは良いのでしょうか。妖精界の秘宝って……。いえ、それよりも気になったのは、《領土の死》はこの種では解消できないのかという事です。


 ファンヴァラ様では、芽吹かせることは出来ないといった意味も引っかかります。それになにより私は《領土の死》というのがピンと来ていませんでした。となれば、まず私が始めるべきことは他にあります。


「ファンヴァラ様の領地について詳しく教えてください」


 彼は私の言葉にどこか驚いて目を見開き──そして口元がほんの少しだけ緩んだ。


「慌てなくとも、お前にはいろいろと教える必要がある。せっかく得たパートナー(つがい)なのだから」


 秋風が一層強く吹き荒れました。大地の精霊(エアリアル)の悪戯だったのかもしれません。それでも、宵闇に佇みほんの少しだけ微笑みを浮かべたファンヴァラ様は、死の王というよりは──もっと違った印象を受けたのです。それが何かは、まだ私の中で言葉としてまとまりはしませんでした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ