第9話 私、春の女神じゃないですよ? 前編
前略。
お父さん、お母さん。花屋の店員として夢が叶ったというのに、職務中に事故に巻き込まれて先立つ不孝をお許しください。現在、私は妖精界でホムンクルスとして転生しました。今はノックマ丘にある死の王と共に領土復興に尽力しているところです。そう、尽力したいところなのですが──前途多難で死にそうです。はい。
私はファンヴァラ様のおかげで束縛の呪縛から解放され、声が出るようになりました。そして屋敷に戻ると、彼から領土の現状について詳しく教えてもらう事に。しかし……。
「ファンヴァラ様は、冬だけ起きていたんですか?」
「ああ」
妖精とはいえ彼は精霊としての力が強く、死の王としての役割を冬に行われるそうです。たしかに自然界では冬は、あらゆるものが活動を止めて眠りにつきます。死の王として他の妖精や、精霊たちに影響を最小限にしようという配慮だったのかもしれません。
私とファンヴァラ様は、暖炉の近くのソファに向き合って座っています。そう私が最初に目覚めた部屋です。この部屋の内装は小奇麗になっており、ソファもふかふかの新品でした。つい数時間前の祭壇を飾る草の姿はどこにもありません。
火を絶やさぬように薪を入れながら、私は温かな野菜スープを口にします。なんでも私が眠っている間に、家事妖精が屋敷に住み着いたとか。まだお会いしたことはありませんが、人が口にできる料理を作れる方がいるのは心強いです。あと住む場所が綺麗になっているのもいい傾向ですね。
「それにしても、なんで急にブラウニーが現れたのでしょう? これもファンヴァラ様のいう傾向なのですか?」
「家事妖精が姿を見せるようになったのは、少なくともこの屋敷内の歪みが消えたからだ」
「あ、そうなんですか? 言われてみれば前よりもお屋敷が小奇麗になったような……」
「お前が嫁いだからな」
「ぶふっ」と盛大に吹き出すのをなんとか堪えました。えらいぞ私!
何この人は真顔でとんでもないことをサラッと言うのでしょう。
「ええっと、それは……どういう?」
「パートナーを得るだけで、その土地の王は力を安定させることが出来る。それだけ隣に立つということは大きな意味を持つ。……ミデルも術者に頼って前の妃を蘇らせようとしたのは、領土が不安定だったというのも一つの要因だろう」
「あー、へー……。そ、そうだったんですか」
私は背中から滝のように汗が流れ落ちました。
なんかもう、パートナーって妃や妻という意味合いが強まったようにしか思えません。いえ、嫁いだと言っているので、間違いないのですが。
「……領土の死。その始まりは数年前から春が来なくなったことに関係している」
「季節の変動があった……とかではなく春の草花が咲かなくなったという事ですか?」
「そうだ。今この領土は冬と秋しかない。私が一年ほど眠っていても状況は好転しなかった」
季節は巡るもの。しかし天変地異というものが妖精界に生じているなら私、打つ手無いと思うのです。他にいろいろと話を聞きましたが、どうにも私が出来そうなことが見つかりません。
この領土は春と夏を失ってバランスが保てないというのです。あらかじめ断っておきますが、私は春の神様、佐保姫様や、ギリシャ神話で有名なペルセポネ様や、ローマ神話の女神、プロセルピナ様ではないので、そんな性能を期待されているとしたら、申し訳ないとしか言えません。
結局話を聞いてもこれといって役立てそうな妙案を出すこともできず、気まずい空気が流れるのでした。
「今日はもう遅い。話はここまでにするとしよう」





