最終話 妖精の結婚式
急な声に私はびくりと反応する。恐る恐る声の方に振り返ると、そこには妖精王オベロンと妖精嬢王ティターニアの二人の姿があった。
(ふぁあああああああ)
私は恥ずかしさのあまり、両頬に手を当てて隠した。穴があったら入っていたい。顔が熱くなる私に対して、ノアは平然──というよりは「いいところで邪魔するな」と言わんばかりの顔をしていた。
本当に出会った頃よりも感情が顔に出るようになっている。それが嬉しくて口元がにやけてしまった。
「ふふ。二人とも熱々で私も嬉しいわ」
「ティターニア……」
「でも、せっかくサラが目覚めたのだから、ファンヴァラが眠る前に式をあげましょう」
(あ、そうだったわ!)
私はノアへ視線を向けると、私をそっと下してくれた。周囲へ視線を向けると、春の息吹が至るところで見られ、雪がゆっくりと溶け出している。完全な春になればノアは眠りについてしまうのだ。
当初の目的を思い出し、私はティターニアと共に一度屋敷に戻る。
(そういえば、私が眠るときはウェディングドレスは完成間近だったけれど、完成したのかしら?)
雪解けの水が流れる中、青々とした若葉が顔を出しているのが見えた。
大気の精霊ものびのびと空を舞っている。
「ふふ。ファンヴァラを選んだのが貴女でよかったわ。そして彼を選んでくれてありがとう」
「ティターニア」
「私もオベロンも、本当はずっと春の妖精姫を探していたの。生まれる筈だった命が生まれなかったのは、いろんなことが重なって生まれた悲劇だった」
「はい。……でも、私は人として生きてその記憶を持ったまま転生して、ノアに会えてよかった。その、生まれ変わったら、花に囲まれた仕事をしたいって、ずっと思っていたんです。だから、ええっと……想像していた夢とは少し違いますが──それでも今までのことを全部ひっくるめて、ここに辿り着けて良かった」
私の言葉にティターニアは、嬉しそうに微笑んでくれた。
***
真っ白のドレスに、ちりばめられたレースの数々はとても美しく、ウエストからA文字の裾が広がり、背中の羽根に合わせたデザインだ。
エメラルドの王冠に、薄いベールは宝石のように、歩くたびにきらきらと煌めく。
白い靴や手袋も今回のために、用意された新品のものだ。
(家事妖精が頑張ってくれたのね……!)
私が話した結婚式を、出来るだけ再現してくれたのだろう。赤い絨毯に、木々に様々な飾りつけがあるのは緑の佳人たちだろう。雰囲気はクリスマスっぽいけれど、みんなの気遣いが嬉しい。
『結婚式なんて、にんげんみたいです』
『でも幸せな感じがして好きぃ』
『サラ嬉しいですです』
大気の精霊は私の周りを飛んで尋ねてくる。最初に精霊魔導士の工房から逃げる時に、出会ったのは彼らだった。
あの時にノアと出会って、勘違いからつがいとなった。コボルドや家事妖精とも仲良くなれた。それにエーティンのことをずっと探して、心を痛めていた丘の妖精王ミデルとも出会えた。
ミデルとは、今はもう兄という感覚が近い。姉妹も今日の結婚式に参列してくれている。もっとも姉妹たちに、「結婚式とはなにか?」を数時間かけて説明したのはいい思い出だ。今ではミデルの妻として、結婚式を十二回したいと、姉妹たちが話してくれた。
一度にまとめてでもよかったのだが、ミデルはミデルなりに彼女たちを愛しているのだろう。もし結婚式を終えて、退屈になったと言い出したら「結婚旅行が人間界にはある」と教えてあげよう。
私とノアは旅行など難しいだろう。
春と冬の妖精王なのだから。
一緒にどこかへ行くことは難しいかもしれないが、それでも私は幸福だ。一年の半分以上は、起きている彼と一緒に居られるのだから。
「はい。これは花の妖精たちからの贈物よ」
そういってティターニアが私に渡してくれたブーケは真っ白なバラの花に、小さな青い花、そして祭壇を飾る草で造られていた。それも流れるシルエットと呼ばれる縦長のラインが特徴的なブーケだ。
「ティターニア。これは……」
人間だった私が最後に作ったブーケ。そして届けられなかったものだ。
「いつかサラが話してくれたブーケよ。私も作ったのだけれど上手くいかなくて……、貴女の姉妹の方が上手に仕上げてくれたの」
ノアが目覚めるまでの百年、ティターニアはいつも私の話相手になってくれた。ずっと離れず、眠らない私に気遣ってくれた彼女に、私は涙が込みあがってくる。
「……ありがとうティターニア。大好きよ」
「ふふ。私もサラだ大好きよ」
「嬉しい……」
「花嫁が泣くのは少し早いわよ」
***
ドレスに包まれた私は、ティターニアの案内で屋敷から森の中心へと向かう。
私は巨大な樹木の前で佇んでいるノアを見つけた。
真っ白な燕尾服に、黒く艶のある長い髪。振り返ると琥珀色の瞳は一瞬驚いたような顔をしていたが、すぐに飛び切りの笑みを浮かべた。
手を差し伸べる彼を前に、私は気づけば歩き出していた。
本当は花嫁の父親役としてオベロンやミデルが手を上げてくれたが、ノアがそこだけは反対したのだ。「なぜ自分の妻の隣を別の男に歩かせる必要があるのか」と。私は何度か説明したが、最後まで彼は譲らなかった。
人ではない。けれどとても温かくて優しい私の伴侶、つがい。
「サラ」
甘い声に、私は口元が緩んでしまう。
私は人間の記憶もあったけれど、転生してホムンクルスになった。寿命が短かった私はさらに死んで春の妖精姫として生まれ変わった。元々エーティンが次になるはずった妖精姫。
巡り巡って私は、ファンヴァラ──ノアと出会った。
黒く、六つの赤い瞳を持つ獣。
人の姿でも、獣であっても彼は彼だ。
それが運命かどうかはわからないけれど、今の関係になれたのは私とノアが一緒に歩んだからの結果だと思う。
私は彼の名を呼ぶ。愛おしい人の名を。
「ノア」と。
最後までお読みいただきありがとうございました!
これで「転生したら妖精王の花嫁候補でした」のお話は終わりです。
下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマ・感想にレビューなどありがとうございました!
去年から色々あって、内容を色々変えて、タイトルも変えての完結することが出来ました。
途中からノアの溺愛ぶりを楽しんで貰えればうれしいです。
https://ncode.syosetu.com/n7864gi/
『死に戻り聖女様は、悪役令嬢にはなりません! 〜死亡フラグを折るたびに溺愛されてます〜』
こちらももうすぐ完結しますので、ご興味がありましたら是非是非、読みに来ていただければ幸いです。





