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エピローグ


 イナンナは自分の黒髪をいじりながら声をかけてきた。


「ご機嫌いかがかしらシャーロット=フェレイラ公爵?」


 私はフェレイラ家の屋敷の庭にいた。真っ白な椅子に座り、真っ白なテーブルに肘をかけダラダラと過ごしていた。嵐の様な私の結婚式から既に2ヶ月が経過していた。もうこの屋敷にお父様はいない。エドワード王から引退を迫られ家督を私に譲り渡し領地で大人しく隠遁生活をすることになったのだ。おかげで私は長いフェレイラ家における初めての女公爵となった。イナンナは口を開いた。


「あそこで真相を追究しなければシャーロット様は未来の王妃であったのに……。つくづく損得の計算ができませんわねシャーロット様は」


 まぁそうだな、と思った。コーネリアス殿下と私の結婚式は結局あれからすぐに終わり、王が呟いた。

『何かで埋め合わせはするゆえ、今回の結婚は無かった事にしてくれ』


 私が返事をする前に王はその場を去っていた。拒否権などないわけだ。しかし、無かったことにしてくれるというのならあの結婚式を皆の頭の中から消してほしかった。


 あの嵐の結婚式があったことで私の名は、ミッドランドはおろか周辺国にまで轟いていた。嵐の女、破滅のシャーロット、本物の鋼鉄の処女。といった具合に様々な私の異名が新聞の紙面を踊った。中には全く意味不明な造語まで飛び出す始末で、最初の淫乱であるいう噂が可愛かった程にミッドランドで一番の悪女……いや正義で破天荒な女として、その名声は留まるところを知らなかった。私はイナンナに訊いた。


「私はあのまま何も言わず王妃になった方が良かったのかしら?」

「当然でございましょう? 私がシャーロット様の立場なら絶対に口をつぐんでいましたのに。でも私はあなたの学友として鼻が高いですわ。なにせこれほど刺激的で奇異な人物が私の友人なのですから」

「イナンナ……。私はただ正義を行っただけよ」


 私がこう言うと、イナンナは笑って顔を耳元に近づけた。そして、かつてないほどフランクな口調で私に囁いた。


「嘘おっしゃい。コーネリアス殿下から本当は愛されてないと知って悔しかったからあんな事をしたのでしょう?」


 私はイナンナを睨んだ。イナンナはおどけて私から遠ざかった。


「どうやら気分を悪くしたみたいですわね。じゃあ私は帰らせていただきますわシャーロット様。ごきげんよう。あ、男を漁りたい時はいつでも私に連絡してくださいね」


 そう言ってイナンナはそのまま去っていった。フェレイラ家の庭には私一人が残された。イナンナに言われた一言が私の頭の中に木霊した。


『嘘おっしゃい。コーネリアス殿下から本当は愛されてないと知って悔しかったからあんな事をしたのでしょう?』


 図星だった。子供染みているだろうが……、ただただそれが許せなかったのだ。私は本当に愛していたのに……、左足まで捨てると言ってくれた台詞が凄く……凄く嬉しかったのに……。私は大きな溜息をつくと目の前にある童話の本『アーレンとレーフ』を開いた。童話の中で二人は相変わらずお互いを助け合い、愛し合っていた。


「いいなぁ……レーフは……。アーレンにここまで愛されて……」


 私は白いテーブルにほっぺたをくっつける形で覆いかぶさった。そして、そのあと手足をジタバタさせ、ほっぺたを膨らませてみた。まだ私は処女だ。こんなに有名なのにも関わらず……、いや、有名だから処女なのか? とも思った。すると先ほど帰った筈のイナンナがこちらに戻ってきた。


「なに? 何か用? イナンナ!」


 私はワザとつっけんどんに言ってみた。イナンナはそんな私の言葉に笑うと手を差し出して言った。


「シャーロット様! 男漁りにいくわよ!」

「あのねイナンナ。私はもう公爵なのよ。責任ある立場なの……そんな軽はずみな」

「いいからいいから! 行くわよ!!」


 そう言ってイナンナは私の手を引っ張った。転びそうになりながら立ち上がるとイナンナの引っ張る手に追いつくように走った。楽しかった。これでいいのかもと思った。不意に思い出した。


「そういえばあのデカパイはどうなったのかしら?」

「デカパイってアイシャのことかしらシャーロット様。デカパイだなんて酷いですわ」

「あなたが言い始めたのよイナンナ。脳への養分がどうとかデカパイがどうだのって」

「ごめんなさいシャーロット様。やっぱり私そんな酷い事を言った覚えがありませんわ。それに私ぐらい華麗な令嬢がそんな下品な言葉を使うだなんてありえませんわ」

「イナンナ。私の生涯において貴方ほど品がなくて人格が破綻している人物はいないわ」

「それをシャーロット様が言うのですか? ハッキリ言わせてもらって国内はおろか外国にまで人格破綻者ぶりが知られているのがシャーロット様ですよ?」

「ちょっと! イナンナ!!」

「あははは」


 私はイナンナを追いかけながら思った。私はまだ17歳なのだ。もっと人生を楽しむべきだ。本当の愛は今回得られなかったけど。いつか、きっとアーレンのような方と私も出会うかもしれない。今度は本物の愛に。


「ちょっと!!」

「あははは」


 きっといつか……私にも……。


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