第二十六話 呪言を聞いた魔女
クラリッサとヴィオレッタが小屋から出ると、周囲に王都の建物が現れていた。それは見慣れた風景だった。
小屋を隠すために、魔女カサンドラは周囲の景色を幻術で偽装していたのだった。
ミリアはすっかり元気になっており、二人を迎えた。
「さすがクラリッサ様とヴィオレッタ様ですわ。パッと頭痛が消えたのでわかりました。やってくださったのですね」
カサンドラの「呪言」は完全にその効力を失ったようだった。
「ヴィオレッタ、何か詠唱みたいなことしていたけれど、魔法が使えたの?」
クラリッサが尋ねた。
「詠唱に聞こえたかもしれませんが、魔女の耳元でちょっとしたお説教をしただけですわ」
ヴィオレッタが笑顔で答えた。
「ふふふ。『魔女』がクラリッサ様に必死に謝罪する声が聞こえます」
ミリアが小屋に向けて耳を澄ます。
——クラリッサ様、大変申し訳ございませんでした。クラリッサ様は最高至高の存在です。
——クラリッサ様、大変申し訳ございませんでした。クラリッサ様は最高至高の存在です。
——クラリッサ様、大変申し訳ございませんでした。クラリッサ様は最高至高の存在です。
「死ぬまで……いえ、死んでからも反省することになるでしょう。クラリッサ様に悪意を向けるということは、そういうことなのよ」
ヴィオレッタが言った。
「さあ、帰ってお茶でもしましょう」
クラリッサが二人に笑顔を向けた。
公爵邸の近くまで帰ってくると、倒れた人々が折り重なって大きな山になっていた。
その山の前で、ひとりの男がぶつぶつ言っていた。
「絶縁回避 絶縁回避 絶縁回避……」
ヴィオレッタの兄、剣聖アレクシスだった。
「ヴィオレッタ様、アレクシス様の『呪言』は解いて差し上げたほうがよいのでは?」
ミリアが御者台のヴィオレッタに言った。
「すっかり忘れていたわ。クラリッサ様、少々お待ちください」
ヴィオレッタは御者台から降りて、アレクシスに近づいて言った。
「お兄様、よくやってくださいました。今回は絶縁はしませんわ」
ヴィオレッタの言葉に、アレクシスの目に生気が戻った。
「やった! 俺はやったんだ」
アレクシスは叫んで右腕の拳を天に突き上げた。
まるで魔王討伐にでも成功したような剣聖の様子だった。
「何だかよくわかりませんけれど……。アレクシス様もお茶にお誘いしましょう。それにしてもこんなにたくさんの人たち……飛び疲れて寝ていらっしゃるのかしら」
クラリッサが馬車の中から、ヴィオレッタに向かって言った。
「ええ、クラリッサ様。まあ、そのうち皆様目が覚めて帰りますわ」
馬車が公爵邸に入ろうとすると、別の馬車が猛スピードでやってきた。
「クラリッサ様! ご無事ですか!?」
その馬車から叫んだのは王太子ユリウスだった。馬車にはもうひとり——大賢者オズヴァルトも同乗していた。
クラリッサがユリウスの姿を見て嬉しそうに微笑む。
「あら、ユリウス様。今日はお友達もご一緒ですか。お茶でもいかがですか?」




