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全知の脇役令嬢は不幸な未来をぶっ壊す  作者: 楠ノ木雫


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第一話 舞台に引き込まれたエキストラ ①


「――メルリアナ・オーシャイン! お前との婚約は破棄だっ!!」



 その言葉で、まるで時間が止まったかのような感覚がした。



 ――私に言われていないにもかかわらず。



 そして、私の中から呼び起こされる、数々の記憶。


 私はこの瞬間に、〝すべて思い出した〟。


 そして、とある本の内容が脳内に広がった。



「そして、私の婚約者をカロリーヌ・ベルトランとする!」



 これは……私の前で行われているのは、私が読んだラブロマンス小説のワンシーン。


 まるでお伽話のような、お城の煌びやかな会場で行われた夜会パーティー。


 大きなシャンデリアに照らされ、まるで宝石のように着飾った女性達が男性達にエスコートされ集まっている。


 けれど、華やかなパーティーが行われているはずだった会場は……今、冷たい空気が流れていた。



「殿下の婚約者、そして王太子妃の座は私のいるべき場所ですわっ!! そんな男爵家の令嬢でしかない小娘に務まるなんて事、ありはしません!!」



 長いダークブルーの髪を揺らす女性は、この小説の悪役令嬢。メルリアナ・オーシャイン公爵令嬢。



「お前はっ! 自分のしでかしたことをまだ認めないと言うのか!!」



 金髪碧眼の男性は、この国の王太子でありこの小説のヒロインの相手。エリク・ウェス・エルヴェシウス殿下。


 そして、そんな王太子の腕に抱き着き水色の瞳を潤ませているオレンジ色の髪をした男爵令嬢の彼女こそ、この小説のヒロイン、カロリーヌ・ベルトラン。


 ページが進むにつれて、王太子とヒロインは愛を育み、最後には仲睦まじく二人でハッピーエンドを迎える。そんな、ラブロマンス小説のワンシーンが、目の前で、繰り広げられている。文字としてではなく、目の前で。



「認めない? 私のしたことは全て正しい事、公爵家令嬢であり殿下の婚約者という私の立場からしたら当然の事をしたまでですわ!」


「カロリーヌに怪我をさせてまですることが正しい事だと言うのか!!」



 怒り出し声を荒げる、メルリアナ嬢。睨みちらす、王太子殿下。そして怖がるかのように涙するカロリーヌ嬢。


 まるで、私は遠くで演劇を見ているように感じた。


 舞台を囲う観客席の一つに座り、このワンシーンを見守っているような気分だ。


 断罪シーンとも言われる、悪役令嬢メルリアナ嬢が退場させられるこの場面を。


 怒り狂ったメルリアナ嬢は、王太子殿下達のいる場所に足を速めて進んでいった。けれど、そばで待機していた衛兵達によって止められる。



「私にこんな仕打ちをして! ただで済むと思ってるの!! 私はこの国のオーシャイン公爵家の令嬢よ!! 殿下の婚約者にも、なるべくしてなったのよ!! ただの小娘が出しゃばって……分をわきまえなさいっ!!」



 メルリアナ嬢と王太子の婚約は、本人達が生まれる前々から決められていた。そして、婚約式も幼い頃に行われ正式に婚約者となった。これは国の為の政略結婚という事になる。


 そしてこのワンシーンでは、もう一人役者がいる。


 怒鳴り散らすメルリアナ嬢に向かってくる一つの足音。カツカツと靴を鳴らし近づいてきた人物は、メルリアナ嬢の後ろから腕を掴み振り向かせ、彼女の頬を思いきり叩いた。


 この広い舞台に、乾いた音が響いた。


 静まり返る会場。このワンシーンを見ている観客達も、静まった。


 そして、王太子殿下も、驚きを隠せずにいたが……何故だか、王太子に抱きつくヒロイン、カロリーヌは一瞬勝ち誇ったような表情を浮かべ視線をメルリアナ嬢に向けていた。


 内心驚いたが、彼女がすぐにうるうると悲しげな顔を見せ、抱きついている王太子の腕をもっと強く抱きしめていた。


 その様子を疑問に思いつつ、メルリアナ嬢の方に視線を戻した。彼女の前に立つのは、彼女と同じ髪色をした、男性。この国の王太子派を率いている、実力者。



「お、父、様……」


「外しなさい」



 メルリアナ嬢にそう呼ばれた彼の視線の先は、彼女の左手の薬指に。それは、王太子殿下の婚約者である証。それを外せと言ったのは、自分の両親であり、その縁談に賛成した一人。きっと彼女は、絶望を感じている事だろう。


 しびれを切らしたのか、身震いをし下を向く彼女の左腕を掴むと指輪を抜いた。


 そして王太子達の方に向き直ると、礼儀正しく静かに頭を下げた。



「娘の教育がなっておらず申し訳ありません。このまま退場させますので、私も失礼いたします」


「……あぁ」



 そうして、オーシャイン公爵は娘のメルリアナ嬢の腕を掴み、引きずるかのようにして会場を出た。


 頬を叩かれてから、退場するまで。メルリアナ嬢は騒ぐ事も、何かを言い出す事もなかった。ずっと、これは嘘だと信じられないような表情を見せていた。


 二人が退場しこの会場の扉が閉められると、辺りはまたざわめき始める。そして、静めるかのように王太子は声を上げた。



「さぁ、新しい婚約者を迎えた事を祝して乾杯をしよう」


「エリク様……!」



 そんな王太子殿下の声に感動したらしい新しい婚約者、ヒロインは笑みを王太子に向け、そして抱きしめ合っていた。まるで、愛の試練を二人で乗り越えられた喜びのハグのようだ。


 小説では、この場面で第一章が終わる。悪役令嬢が退場し、第二章が始まる。これから訪れるいくつもの困難を、彼ら二人で乗り越え、そして結婚という名のエンドを迎え平和が続いていく。



「ローズ嬢……」



 私を呼ぶその弱弱しい声で、観客席からこの会場に引き戻されたような感覚がした。


 小さな声で私に声をかけてきたのは3人のご令嬢。皆、不安な様子だ。メルリアナ嬢が婚約破棄をされ退場させられてしまった事を思っているのだろう。私達は、王立学院の頃からずっとメルリアナ嬢の近くにいたのだから。


 そして今、メルリアナ嬢が裁かれた。じゃあ、次は自分達なのではないだろうか。私達は近くにいながらもメルリアナ嬢の行動に目をつぶっていたのだから。黙認も、立派な罪になる。そして、彼女達もその罪をよく分かっている。



「一体、どうしたら……」


「……」



 メルリアナ嬢がカロリーヌ嬢へしてきたいじめの数々は、真実だ。


 暴言に嫌味を言い続けていたまでは可愛い方だと思う。けれど、ドレスを破いたり紅茶を彼女にかけて火傷させた事はやりすぎだ。そして、私達は助けもしなかった。メルリアナ嬢の目があったから。


 自分達に飛び火しないようにと便乗していた。公爵家の令嬢である彼女に逆らったが最後、自分達が次のターゲットになる。更には、実家まで危ない事になるのではないかという可能性だってある。


 彼女はこの国の公爵令嬢であり、この国の次期国王の王太子の婚約者なのだから。


 自分達の為にしてきた行動であったとしても、この事に関して王太子殿下が目をつぶらなかったらきっとただでは済まされない。



「ご両親達のところに、戻りましょう。こうして集まっていると、悪影響になります」


「は、はい……」



 使用人によって配られた飲み物を受け取り、殿下の声に合わせて乾杯をした。先ほどの事があり、ひきつった笑顔を浮かべる者が何人もいるけれど、きっとあそこで満面の笑みを浮かべ見つめ合っている二人はその事に気付いていないのでしょうね。


 ローズ・アルベール。私はただの脇役。小説では、たった一度だけ名前が出てくるだけ。


 私の将来は、たった数行だけで書かれている。十何万文字の中の、たった数行だけ登場し、退場させられ不幸な道に送られていく。


 ラブロマンスのハッピーエンド小説に登場するはずなのに、不幸な道を辿る事になる。


 王太子殿下と、ヒロインであるカロリーヌの愛の試練の為に用意された、ただの脇役だ。


 最初は、悪役令嬢であるメルリアナ嬢が率いるグループの内の一人として彼女の前でゴマすりをし、彼女を引き立てる役の一人だった。そして、その後結婚してからは二人の愛を確かめる為に利用され、不幸な一生を遂げなければならない。


 ……ふざけるな。


 ヒロイン達が幸せになるなら、私だって幸せになりたい。ただ愛の試練とやらに利用される一生なんて冗談じゃないわ。


 どうせ二人は私がいなくとも幸せな道を二人三脚で歩いていくのだから、私は私で幸せになりたい。


 そう願うのは、普通の事よね。


 なら……私もハッピーエンドを見つけ出してやる。


 そんな時、気が付いた。視線を感じた。無意識にその視線を追い、その先にいたのは……



「っ!?」



 このラブロマンス小説の、ヒロイン……たった今王太子の婚約者となった、カロリーヌ。


 私と視線が合うと、慌てて視線を外した。一体どうして、私を見ていたのだろうか。


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