ふたりぼっち
一瞬時が止まったように、お互い膠着した。
先に声を出したのはやはり田村優花だった。
「え、、森田ちゃん?」
彼女も動揺しているように見えたが、それ以上に自分の動揺を抑えるの必死だった。息が詰まって声が出なかった。何か重大な犯罪を犯しているところを見られたような気分だった。
「どうしてここにいるの?」彼女の声は問い詰めるような、責めているような声色に聞こえたが、すぐに思い出したように笑顔を浮かべた。しかしその笑顔はいつものような自然に出ているものには見えなかった。引き攣っていて、無理矢理貼り付けているような、そんな笑顔だったと思う。
私は、声を出せないまま訳も分からず軽く手を振った。少し間を空けてから彼女は階段を上り、私の近くまで向かってきた。
「森田ちゃん?」彼女は心配したような声を出した。
「えっと、、」私はなんとか震えた声を出したが、何と言えばいいのか分からなくて、下を向いた。とにかく混乱して、また声が出なくなって黙ってるうちに彼女は、私の隣に座った。香水なのか柔軟剤なのか私には分からないが、花のような匂いがした。心臓が強く脈打って、全身が強ばっていたが、不思議と彼女が隣に座ると少しづつ気持ちが落ち着いた。
「今日ちょっと暑いよね、私ちょっと汗かいちゃった。」彼女は何事も無いように話し出した。
また少しの沈黙ができてから、彼女は急に笑いだした。
「なんかさ、すっごい気まずいね」
彼女が笑っているのを見て私は安心したのか、つられて小さく笑った。
「ほんとにね、すっごい気まずい」私はやっと声を取り戻した。しばらく私達は笑ってから、息を整えて、また話し始めた。
「なんかさ、森田ちゃんとこういう感じでばったり会うことよくあるよね。」
「たしかにそうかも」気づけば私は彼女の目を見て話せるようになっていた。
「きっと神様がさ、私と森田ちゃんは仲良くなるべきって教えてくれてるんだよ」
私は、こんな大胆なセリフが違和感なく言えてしまう彼女に感心した。
「でも私が田村ちゃんとなんて、全然釣り合ってないよ」
「え?どういうこと?森田ちゃんは自分の事低く見すぎだよ。そもそも仲良くするのに釣り合ってるかどうかなんて関係ないじゃん!」
彼女の言葉と、私の目をまっすぐに見つめる彼女の綺麗な瞳に圧倒された私は「ごめん、確かにそうも。」と言って控えめに笑った。
「それに森田ちゃんってさ、すごい美人だよね」
「え、美人?私が」
「うん。言われない?私クラス替えした時からさ、あの子美人だなーって森田ちゃんの事見てたの。」
「え!そんな事ないよ!田村ちゃんの方が何百倍も可愛いし、私も田村ちゃんの事、授業中とかも見ちゃったりするくらい可愛いなって思ってた。」
私はあまりに意外な言葉に動揺し、余計な事まで言ってしまった。
「なにそれ、私の事好きみたいじゃん。」彼女は可笑しそうに笑ったので、私も恥ずかしくなって一緒に笑った。
「ねぇ、アキちゃんって呼んで良い?苗字だとなんか距離ある気がしない?」
「うん、もちろん。なんて呼んでくれても大丈夫!」
「やった。じゃあさ、アキちゃんも私の事、ユウカって呼んでほしいな。」
私は少し動揺して目が泳いだが、強く頷いた。
「もちろん、ユ、ユウカちゃん!」
「良かった。私、アキちゃんに嫌われてるかもって思ってた。」彼女は安心したような表情で言った。
「そんなことない。」私は食い気味に言った。
「あの、もしかして昨日の事?」
「そうだったらごめん、昨日とっても体調悪かったの。無視したみたいになっちゃってごめんね。」
「そうだったの?良かった。私なんかやっちゃったのかと思った。」彼女はさらに安堵の表情で笑った。
初めて話した時も感じたように、彼女は人を安心させる力があるように感じた。少なくとも私は彼女と居ると気持ちが落ち着いた。彼女は、その後も私がどうしてここに一人でいたのかは質問してこなかった。私もなぜ彼女が、ここに一人できたのかは質問しなかった。それを聞いてしまったら、この心地良い時間が終わってしまう気がしたから。




