第22話:貪欲なる収集者
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それでは、本編をお楽しみください。
「誰の許可取って集めとるんじゃ、貴様」
鋭い声が背後から飛んできた。
振り返ると、数人の武装した男たちが立っていた。
中心にいるのは、体格のいい、一際目つきの鋭い男。
「許可って。俺はただ、ゴミを拾っているだけで──」
「……お前、見ねぇ顔だな。よそ者か」
「まぁ、そうなるな」
「……そうか。なら一つ、この街のルールを教えてやる」
はぁ……またか。
この後の展開なんて、大体予想はついていた。
「何」
「ここはなぁ、それぞれ“テリトリー”ってのがあるんじゃ。貴様はそれを破ったんじゃ」
──やっぱりな。
「へー、あっそ。要するに、お前の縄張りに踏み入ったから容赦しねぇってことだろ。なら最初からそう言えよ。ほら、かかってこい」
静かに構えを取る。
過剰な挑発も、過剰な警戒も必要ない。
「……貴様、いい度胸じゃのう。この街は力がすべて。魔獣狩りも日常茶飯事じゃ。貴様のような都会暮らし──」
「……ダラダラとうるせぇ」
拳が、言葉を遮った。
「んが──っ」
「ア、アニキ!?」
【お〜やるねぇ!】
……黙ってろ。
顔面に拳を受けた“アニキ”は、呻きながらゆっくりと立ち上がる。
「……ってぇのう。不意打ちとは……貴様、本当にタマついてんのか!」
「一応な。でも、この街では──それが“当たり前”なんだろ?」
「……ああ、そうじゃ。間違うとったのは、ワシの方じゃったわ。まさか、よそ者に説教されるとはのう」
別に、説教したつもりはない。
ただ、理不尽に黙って従う気はなかっただけだ。
「ここは泥臭い街じゃろ? みんな、何かに怯えて暮らしとる。アホらしいとは思わんか?」
「……知らねぇよ。俺はただ、ゴミを漁りに来ただけだ──」
次の瞬間。
閃く破片。
ガラスのような鋭い破片が、頬を掠めた。
(……勿体ねぇ)
「……お前も、不意打ちじゃねぇか」
「仕返しだ。ワシはな、テリトリーを荒らす奴を許しはせん。特に、貴様のような“よそ者”にはなぁッ!」
男が汚れたナイフを手に、勢いよく突っ込んでくる。
錆びて刃こぼれしたそのナイフは、切れ味なんてもう残っていない。
役目を終え、捨てられる寸前のただの道具。
「……それ、頂いてもいいか?」
「なに?」
手を伸ばした瞬間──
「なっ!? 俺のナイ──フ……」
赤い粒子が舞い、ナイフは俺の掌に吸い込まれた。
「悪いな」
返す膝蹴り一発。
男はうめき声を上げて腹を押さえ、崩れ落ちる。
「……勘違いするな。俺は、お前らの縄張りにも、ルールにも興味はねぇ。ここにある“ゴミ”を拾いに来ただけだ。終わればすぐに去る」
そう言い残して背を向けた。
そして、再びゴミを拾い始める。
だが──
「……くっそ、よそモンのくせに……!」
背後から、鉄の軋む音。
振り返るまでもない。
「死ねやああああああああ──!」
【懲りねぇやつだな】
「ああ、全くだ」
「なっ──バカな……効いてない……だと……」
振り下ろされた錆びた鉄パイプは、俺の肩を直撃した。
けれど、今の俺はイデアの肉体を引き継いでいる。避ける必要すらない。
「……肩、凝ってたんだ。サンキューな。ああ、それも──貰ってくぜ」
鉄パイプもまた、赤い粒子になって俺の中に消えていった。
「…………こいつはバケモンじゃ……」
口元に、かすかに笑みが浮かんだ。
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それから、俺はこの陰鬱で湿った街をひたすら歩き回り、黙々とゴミを漁り続けた。
そして一つ、気づいたことがある。
『廃棄収納』のスキルは『廃棄知識体』に統合され、俺の意思だけでは、もう“回収”ができなくなっていた。
……けれど。
さっきの男との戦闘で、俺は“ソフィア”を呼ばずとも、ナイフや鉄パイプを回収できた。
これは──おそらく。
「……俺とお前が、“同時に”ゴミと認識したから、か」
【おお、察しがいいじゃねぇか】
「つまり、俺と『廃棄知識体』、両者の認識が一致して初めて……このスキルは発動する。そういうことか」
【一蓮托生ってやつだな】
「……はぁ、面倒くせぇ」
【なぁ、試しにさっきの男、回収してみようぜ?あいつ、もうゴミだろ?】
「……やめとけ。今回は、俺たちが悪い」
【なんでだよ!?アイツ、俺たちの事を殺そうとしてきたんだぜ!?向こうが百悪ぃじゃねぇか】
「勝手に人ん家入ったのは俺らだ。……俺の地元じゃ“住居侵入罪”って罪に問われる案件だった」
まあ、ここは住居じゃないけどな。
でも、テリトリーとやらがあるってんなら、無断で入ったのは事実だ。
「……だから今回はやめておく。次に手を出してきたら、その時は容赦しない。……にしても、なあ」
【あ?】
「お前、あの男を取り込めるのか?」
率直な疑問だった。
【当たり前だろ。俺様を取り込んだんだぜ?それに比べりゃ軽い軽い】
イデアの身体、ソフィアの知識、そして彼らの衣装。
あのときのように──もし、人間を取り込んだら、俺は……さっきの男の何かを、自分の中に宿すことになるのか?
あの男のナニカを……嫌だ。嫌すぎる。
「……なあ、『廃棄知識体』。人間の回収、しばらく封印な。今はゴミを集めて、武器を作る方が先だ」
【お、おう……了解】
『廃棄収納』──
それは、ただ“いらないもの”を処理するための能力。
……そのはずだった。
けれど。
イデアを。
ソフィアを。
俺は、確かに取り込んだ。
人を、命を、“ゴミ”として認識すれば、
このスキルは容赦なく、それを“収納”してしまう。
ならば──
あの“グラズ=モール”を、
化獣としてではなく、“不要物”と捉えていたら?
スキルが、あれほど過剰に反応していた理由も、今なら分かる気がする。
“取り込める”。
“ゴミだから”。
そう告げられていたのだとしたら──
これはもう、
単なるスキルとは言えないかもしれない。
この力の底は──まだ見えていない。
掴みかけたその輪郭が、あまりに歪で。
正直、俺自身……少しだけ、怖くなる。
“どこまでいけるのか”ではなく、
“どこまで墜ちるのか”。
そう思わされるほどに、この力は──異質だ。
……ただ一つ、分かっているのは。
このスキルが“最強”かどうか。
それを決めるのは、俺自身だということだ。




