第21話:ゴミ収集者
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それでは、本編をお楽しみください。
そこから先は、覚悟を決めた。
アレシアには、忘れられていた。
だが──それでもいい。
彼女が、どこかで生きていてくれるのならば。
だから、これからはこの世界と魔族について知り、それらを掃除する。
この世界を、少しでもクリーンにすること。それが、今の俺にできる唯一のことだった。
──俺は、何も知らない。
知らなさすぎる。
だからまずは知る。知識と、そして強さを手に入れる。
そして──
あの漆黒の喋る魔族を殺す。
今の俺では、到底勝てない。だが、必ず。
「廃棄収納……はぁ。やっぱり反応ねぇか」
【ん? どうした?】
俺のスキル、かつての『廃棄収納』は、すでに姿を変えていた。
今のそれは、スフィアと統合された形──『廃棄知識体』。
つまり俺は、以前のように、自分の意志だけで自在にゴミを取り出すことができなくなっていた。
強くなったのか、弱くなったのか……正直、判断がつかないな。
「体は、確かにイデアを引き継いだ。筋力も反応も段違いだ。だが……スキルが死んだ。俺の、すべてだったのに……」
【あん? んなもん俺様に言ってくれりゃ出してやるよ。で、何が欲しいんだ】
「それだよ……。今までは自分の意志で、出し入れできてたんだ。でも今は違う。『廃棄知識体』、お前に頼らなきゃ何もできない……」
【……お前、何も分かってねぇな】
「何がだ」
【俺様が、魔族を倒すために何をしてきたかって話よ】
「魔族を生涯調べ続けた馬鹿だろ」
【お前な……一応俺様と一心同体なんだぞ? その言い草はねぇだろ……まあいい。仕方ねぇから、知力ゼロのお前に正解を教えてやる】
……相変わらず、一言多い。
【魔族を殺すために、俺様は武器を作ってた。魔族や魔獣を殺すためのな】
「それが、どうした」
【お前の中にあるゴミ。それで、俺様が武器を作ってやってもいいって言ってんだ】
「なっ……そんなことが可能なのか!?」
【当たり前だ!俺様は、対魔族の専門家だぞ!】
「……デカい声出すな。頭に響くんだよ」
だが──もし本当に可能なら。
俺が今まで、即席で組み上げていた武器なんかより、ずっと信頼できる。
「なら……試してみろ」
【……いいだろう。お前、闘技場のことを覚えてるか?】
「ん?あ、ああ。それがどうした」
【あの時、お前がアガトに向けて銃のようなもん突きつけてただろ?】
ああ。
魔導破片銃。
色んなゴミとマナ結晶で組み合わせて作った、即席の銃か。
【あれは未完成だった。……あの時引き金を引いてたら、暴発してお前はアガトに負けてたかもな】
「……やっぱり、そうか」
あの時、一週間しか猶予がなかった。弾丸は一発。試し撃ちもできなかった。
「……お前なら、俺の中のゴミで武器を作れるのか?」
【できなくはねぇ。ただ──】
「言い回しが遠い。できるなら、はっきりそう言え」
【できるに決まってんだろッ!】
「う、うるせぇ……」
【……ただ、お前の中の素材で作れる武器なんて、たかが知れてる。だからこそ、俺様はお前の命を守るために、中途半端なもんは渡せねぇ】
──だったら、どうやって戦えばいい。
素手か? いや、この身体なら、それも不可能じゃないかもしれないが……。
【とりあえず、今使えるもんっつったらこれくらいだな】
俺の右手に、何かが現れた。
「……これは」
銀のガントレット。
両手に装着されたそれは、武器というよりも、防具に近い。
「俺はこんなもの拾った覚えは無いんだが……」
【それは、イデアが冒険者時代に使ってたもんだ】
「……そうなのか」
【引退してからは外してたようだがな。いつまで持ってんだよ、あの馬鹿……】
「……どういう意味だ、それ」
【別に。……他に使えそうなのは、それくらいだ。後は、正真正銘のゴミだな】
「ゴミ、か……」
魔導破片銃。
俺にとっては、結構頑張った力作だったんだが──
「……その未完成品、お前なら完成させられるのか?」
【ああ。けっこう良い線いってたしな。けど、中身がな】
「中身?」
【全部だ。だが、特に“仕組み”が致命的にダメだ】
──ああ、やっぱり。
来たか。嫌な説教タイム。
【まあ聞け。弾は悪くない。素材も理にかなってる。威力も期待できる。……けどな】
「けど?」
【“撃てない”んだよ】
その言葉に、息を飲んだ。
【お前の設計は、弾にだけ魔力を込めすぎてる。例えるなら──米はあるのに、海苔も握る手もない状態だ】
「……分かりづらいな」
【つまり、“弾”はある。でも、“押し出す”ものがない。爆発力も、反動の制御も、なにもかも足りてねぇ】
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ」
【魔力を暴れさせろ】
「……暴れさせる?」
【そうだ。銃の中で、魔力を渦巻かせて集中させて、一気に開放する。それが弾を押し出す圧力になる】
「……なるほどな?」
正直理解はしていない。
【だがそのとき、銃の構造が壊れないように、魔力の“壁”も必要になる。──それが“魔導構造”ってやつだ】
「……俺には無理そうだな」
【だから、それは俺様がやる】
ソフィアの声には、自信があった。
まるで、それが当然であるかのような調子で。
【魔力の流れ、反発の角度、発射のタイミング。全部、俺様が設計してやる。だからお前は──】
「素材を拾ってこい、ってか」
【そういうことだ】
「……ったく。スキルの癖に、指図しやがって」
【役割分担だ。お前は“集める者”。俺様は“蘇らせる者”。そういうこったろ、相棒】
──本当に、面倒なスキルを取り込んじまった。
「……誰が相棒だ」
---
──雑多な路地裏。
干されたボロ布と、酸化した油の臭いが鼻を突く。
誰かの怒鳴り声。誰かのすすり泣き。壁際には、身を寄せるように膝を抱えた子どもの姿。
「……なるほどな。ゴミってのは、こういうところに落ちてるのか。にしても、最悪な場所に来ちまったな」
目の前に広がるのは、所謂スラム街。
誰もが目を逸らし、触れようとしない場所。
でも──そこには、“捨てられた魔法文明の残骸”が、確かに転がっている。
【何言ってんだ? ここは俺様たちにとっちゃ宝庫だぜ?】
「……犬かよ、お前は」
【バーカ。ここは“運び屋”や“遺物漁り”が集まる場所だ。目を凝らせ、匂いを嗅げ、音を聞け。使えるもんは、そこら中に転がってる】
──指示だけは一丁前だ。
「……とりあえず、探すか。……って、俺しか動けねぇんだったな」
【当然だ。俺様は頭脳労働。お前は肉体労働。役割分担ってやつだ】
錆びた鉄屑の山をかき分け、くすんだ魔導心核を拾い上げる。
「これ、マナ結晶っぽいけど……完全に止まってるな」
【ああ。枯渇してる。もう誰にも使われることはねぇ。ただの“ゴミ”だ】
その言葉を聞いた瞬間、俺の掌に紅い紋様が浮かび上がる。
──吸収条件、成立。
「……ゴミと分かれば、俺の出番かよ。皮肉だな」
呟いて、それに触れる。
心核は赤い粒子となり、俺の腕へと吸い込まれていく。
所有者は、どっちなんだか。
【それでいい。お前が拾ったゴミを、俺様が分解し、再構築する。部品として、魂ごと組み替えてやる】
「……魂、ねぇ」
【ゴミでも、使い道はある。証明してやろうぜ。なぁ、相棒】
ソフィアの声が、妙に誇らしげだった。
拾って、触れて、吸収する。
だが、吸収しているのは、ただの廃材なんかじゃない。
かつて、誰かが希望を託し、役割を果たして、今は不要とされた──そういう“物語”を、俺は取り込んでいる。
「──って、誰が相棒だ」
【細けぇことは気にすんな!】
「……まぁいい。とにかく集めるだけ集める。次だ」
【おう。そんで俺様が蘇らせる。完璧な連携ってやつだ】
──そのときだった。
「おい、そこで何してやがる」
鋭い声が飛んできた。
振り返ると、そこには数人の武装した男たち。
肩に傷跡のような刺青。腰には鈍く光る刃。
明らかに、“ただの住人”ではなかった。
「……これって、マズいやつか?」
ゴミを拾ってるだけだ。何か悪いことをした覚えはない。だが──
【ようやく面白くなってきたじゃねぇか】
スキルの声が、どこか楽しげだった。
ゴミ拾いの静けさは、もう終わりだ──。




