ロイド先輩、悲しすぎる過去を語る。
年末……はともかくとして、年始には一日2、3話投稿したいですね(できるとは言っていない)
ロイドと並んで、雪道をサクサク歩いていく。
今日もいい天気だ。
青々とした空に、揺らぐオーリライトのオレンジが良く映える。
春先だというのに未だに雪が積もっているヴィオレットの空気は、まだ昼前ということもあってキンと冷えていた。
「んー……でもやっぱりニンゲンだった頃と比べると寒さに強くなったなぁ」
「強くなったというか自分の体温が低いから寒さを感じにくくなったが正しいかもな」
「ああそれだ。全然感じてない訳ではないな、確かに……。ってことは僕暑いところいったら溶ける……?」
「平気だろ多分。俺溶けてないし」
並木道の向こう、遥か遠くにそびえる雄大な山並みを眺めながら、のんびりとロイドと会話をする。
今僕らが向かっているのは、ロイドとパーシーが住む家がある『レード』という町だ。
研究所から徒歩20分という研究所最寄りの町で、人口ならぬモンスター口もそこそこ多いものの、のどかで住民も穏やかな町なのだとか。
そこでロイドとパーシーは博士が用意した家に二人で住んでいるらしい。
『紫の都市』ヴィオレットは、基本的に一年通して雪が積もっている都市だ。夏場は流石に降雪量もグッと減るが、それでも他の都市に比べて涼しいため都市主要部は避暑地として発展しており人気が高い。
レードも例に漏れず年中雪が積もっているため、雪かきが大変だとロイドが嘆いていた。「あ、今後はお前さんいるから楽じゃん」とも言ってたけど。はいはい魔法の訓練ですね溶かしますよ。
逆に領地の半分が砂漠地帯である『赤の都市』ロシェなんかは、もう既に今の時期から猛暑なのだとか。そんな地域に行ったらまた口に出すのも憚られる状態になるのでは……と恐怖するが、緩ーく否定されたのでとりあえず安心だ。
僕より僅かに低い位置にあるロイドの頭を見下ろす。やはりペットもとい頭蓋骨達がいなければただのニンゲンにしか見えなかった。
「ロイドもあんまりニンゲンと変わらない容姿だよね。アンデッドってみんなそんなもん?」
「いやいや。種類にもよるけど俺やお前さんみたいなのは滅茶苦茶珍しいよ」
「へえ、そうなんだ」
「……丁度いいな、歩きながら魔法界の授業をしてやろう」
そういってロイド先生は二本の指を立てた。
「魔法界には野生動物を除いて大きく二種類の生物が存在している。一つは俺らモンスター。明確な意思を持つ生命体で、個体差があるが魔法が使える。そして種族によっては種族特有の特性が使える場合もある」
「種族特有の特性?」
あまりピンとこず首を捻る。リリ剣にそんな単語は出てこなかったと思うが。
「種族特性と言う。身近な例で言うと博士だな。博士はアラクネ種って呼ばれる種族で、あの種族はみんな蜘蛛糸を自由に生成し操ることができる。魔法とはまた別の技能だ。……実際に見たほうが分かりやすいか」
「んん?」
その場に立ち止まったロイド。何が始まるのかと僕も立ち止まる。すると斜め上を見て「んー」と何かを考えんでいたロイドがニンマリと悪い笑みを浮かべた。
途端、とてつもなく嫌な予感を覚えた僕はその場から一歩後ずさりロイドから距離を取ろうと動く。しかしロイドが口を開く方が早かった。
「うん、いけるかな……『ラウ、伏せ』」
「は?……っ!?」
普段の声とは違う、変に響く声でロイドがそう言った瞬間────僕の体は地面に沈んだ。
気が付いた時には頬が雪に埋もれていた。両手両膝を地面につけ、平伏するような姿勢で動かなくなる体に混乱する。
まるで大きな手に頭を押さえつけられているかのようだ。気を抜けば体が更に沈み込もうとしてしまうため、必死に両手で踏ん張る。
「ふ、ぎっ!なん、これ……っ!?」
「おーすごいすごい。ちゃんと命令しないと発動しないし、発動しても凄い抵抗されてるな……。これ抵抗力からして不意打ちじゃないと発動しなさそう」
「分析っ!してない、で!はやく、これっ、やめてくれる!?」
「悪い悪い。立っていいよ」
ロイドの言葉と共に僕の体を押さえつけていた謎の力が消える。
ぜえはあと荒い息を吐きながらよろよろと立ち上がった僕は、興味深げに頷いていたロイドに詰め寄った。
「おいこらロイド……説明……」
「やだラウちゃん目が怖ぁい。これが俺の種族特性『王命』だ。アンデッド系の存在に対して絶対的な命令権を持つ。普通のアンデッドに使う分には言葉にしなくとも効くし抵抗なんてされないんだけど、いやー流石に意志あるモンスター相手だとそう上手くいかないんだなぁ」
「上手くいかないんだなぁ、じゃないわ!なに突然土ペロさせてくれてんの!?せめて屋内でやってくれる!?」
「この場合土じゃなくて雪ペロじゃねーか?」
「そういう!話では!なく!!」
ロイドの胸倉をつかんでグラグラ揺らしてやるが、「わははは~」とか笑っているだけで全然効いてる気がしない。
とんでもない特性を見せつけてきたロイドを睨みつける。アンデッド……っていうか僕に対して特効過ぎないか?今後後ろから身動き取れなくされる可能性があるってことじゃないか。
そんなの、そんなの……!
「エロ同人みたいにされちゃうじゃん……っ!」
「俺の事なんだと思ってんだ?そんな見境なく使わねーよ。それにお前さん相手じゃ抵抗されるって言ってんだろ」
「本当かなぁ」
わざとらしく自分の体を抱きしめプルプル震えてみせる僕を、ロイドは大変馬鹿にした顔をして鼻で笑った。
「俺にも選ぶ権利があるっての」
「お???どういう意味だこら??喧嘩か??」
「そのまんまの意味だ。やるかこら」
ジリ……ジリ……と一定の距離を保ったまま腰を落として相手の隙を狙いあう。
この勝負、集中力を切らした方が負ける……!見せてやるよここ二日間で鍛え上げた僕の身体能力を……!
いやまあロイドが一番見てるんだけどね。
西部劇のような臨場感を醸し出すが、しかしロイドが「そんなことはどうでもいいんだよ」と雑に手を振り両脇から飛んできた頭蓋骨によって僕の頬を潰されたことによってそれは中断を余儀なくされた。
「うぎゅう」
「特性の話はもういいや。こういう種族特有の技能があるってことだけ覚えておけばいいよ。で、もう一つの生物ってのがモンスター未満の存在、モヴだ」
軌道修正を図るロイドの傍ら、うぎゅぎゅぎゅっと音が聞こえてきそうなほどに容赦なく僕の頬は潰されていた。
痛い痛い、ほっぺ無くなるからそろそろやめてくれ。頬骨ゴリゴリ言ってるから。
「うぉんふやぁーふぃわんっへ?」
「ぷっ、お前さん今すげー顔してんぞ」
「ふぉいふぉおふぇいふぇひょーふぁ!」
「何言ってるか分かんねーわ」
馬鹿にしたような顔で小さく吹き出すロイドを睨む。ようやく頭蓋骨達がふよふよと僕の頬から離れていった。ムニムニと頬を揉みしだく。
二日連続で頬潰されてるよ……可哀そう僕の頬。
「モンスター未満ってのはつまり、モンスターのような明確な意思を持たずほぼ本能だけで生きてる生物ってことだ。基本的に魔力で活動しているため、魔力を持つモンスターや別種のモヴを食らって自分の糧とする。出会ったらまず逃亡推奨、腕に自信があるなら他に被害が出る前に撃破すること。ま、と言っても各都市にはモヴ避けの結果が張られているから都市の敷地外に出ない限りあんまり遭遇することは無いけど」
「ばっちり聞こえてんじゃん」
なーにが分かんねーわだよ。スラスラ僕の疑問に答えたロイドは肩をすくめて「そして」と授業を進める。
「アンデッドっていうのは基本的に死霊系のモヴのことを指す。スケルトンやリビングデッド、デュラハンとかな。詩的に言うなら『魂を持たない死体』、科学者的に言うなら『思考するための脳が無い死体』が空気中の魔力に晒され続けて発生するモヴのことを総じてアンデッドと呼ぶ」
「ああ、なーるほど?昨日ロイドが言ってた『アンデッドは特殊』ってのはつまりそういうことね。厳密には『アンデッドモンスターは特殊』ってことか」
「そういうこと。基本的に脳が無かったりグズグズになっていて自我を持つ余地が無い場合がほとんどだから、アンデッドモヴがモンスターに昇華することはほぼ無い。そういう訳でアンデッドモンスターってのはまず存在しないものだから、俺らの正体がバレると面倒ということだ」
ちなみにミモザの種族であるアルラウネ等植物系モンスターや、博士の種族であるアラクネ等虫系モンスターはモヴからモンスターに昇華することが稀にあるらしい。
モヴ時代に多くのモンスターやモヴを食らった個体は知能が発達し、モンスターと名乗るに足りうる自我が芽生えることがあるとか。
とはいえ、ほとんどのモンスターはニンゲンと同じように交配によって子孫を残すようだが。
ロイドの授業をふんふんと頷きながら聞く。
確かに、リリ剣にもそういう生き物……明確な意思を持たない存在というのは雑魚キャラとしてできた。なるほどアレはモヴという存在だったのか。
ゲームだから仕方がないとはいえ、実際の魔法界の実情は色々と端折られて語られていたようだ。
とりあえずモヴを見たら逃げるか倒す。覚えておこう。
しかしそうなると気になってくることがある。そう、僕の隣を歩く先輩アンデッドについてだ。
基本的にアンデッドがアンデッドモンスターになる例はないというのなら、先輩はどうやってアンデッドモンスターとなったのだろうか。
「……アンデッドモンスター的に、自分の成り立ち的な話題はデリケートに扱ってほしかったりする?」
「何その微妙な遠慮。俺もお前さんしかアンデッドモンスターにあった事ねえからアンデッドモンスターの常識は知りません。……俺は元々スケルトンのモヴだよ。変態の実験によってモンスターに昇華した」
「変態ェ……」
やはりか、なんかそんな気がしていたけど。
なんだ?フリント博士はアンデッドモンスター製造機なの?アンデッドモンスターになる条件は『フリント博士の手に掛かる』っていう実績が必要なんか?
すごく透き通った顔をしたロイドが語る所によると、今から約30年ほど前、地面の下で悠々自適のスケルトンモヴ生活(本モンスター談)を送っていたスケルトンロイド氏は、突然フリント博士が片っ端からアンデッドを掘り起こす珍事件に巻き込まれ、そのまま捕獲されてしまったのが全ての始まりらしい。
どうやら『自我が希薄なアンデッドに大量な魔力を与えた場合の影響実験』の為に大量のアンデッドが必要だったらしい。そこで特別製の魔力をぶち込まれたスケルトンロイドは無事魔力に適合し、見事人格と呼ばれるほどの自我と魔法を得た、と。ついでに種族もアンデッドを使役する王たる『アンデッドレクス』に変じたとか。
しかしその後の彼のモンスター生も波瀾万丈であった。
稀有な出自ということでリライヴェッジ研究所以外の研究機関に狙われ誘拐されかけたり、アンデッドとアンデッドモンスターの区別などつく筈のない一般モンスターに攻撃されかけたり、挙句の果てには魔法界の一大主教『聖霊教会』の教皇に異端者として滅されかけたり……とても涙なしには語れないアレソレを経て今に至るらしい。
そもそもアンデッドがモンスターに昇華するなんて前代未聞の事態である、推して図るべし。
「陛下から『勝手に生命創るな』って厳重注意されたからもう俺みたいな被害者は出ないと思っていたんだけどな……はは、創り出すのがダメなら蘇生させようとはならんだろ、普通さ……。いやまあお前さんは偶然の産物ではあるんだけど……」
「ロイド先輩……っ!!」
光の無い目で全てを諦めたように笑い自らの半生を語る先輩の手を握る。可哀そうすぎるよ……!やっぱりあのマッドはモンスターが倒すべき大いなる敵とかなんじゃないか?
しかしこれでようやくロイドが僕に対してやたら同情的な理由が分かった。まさか彼もフリント被害者の会の者であったとは。
親近感、というよりも同志!って気持ちがうなぎ上がりで止まらない。ロイド先輩マジリスペクト。ロイドの手をブンブン振りながら涙を拭う。
────ふと、僕は昨日篠原優の墓の前で見たロイドの表情を思い出した。
苦いような、悲しいような、怒っているような表情。あれは同情だけが含まれている表情ではなかったな。
あの表情は一体何だったのだろうか。




