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悠久の魔女の暇つぶし  作者: たれねこ
第八章 後悔と嫉妬のベルクワイア
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後悔と嫉妬のベルクワイア ④

 地震が起こった日。

 それはいつもの日常と変わらないはずだった。クライブにもたれかかり、いつものように読書をしていた。

 妙な気配を感じて顔を上げるのと同時に、クライブも獣の勘というべきもので異変を察知し、顔を上げた。


『ねえ、シェリー。なんかやばいかも』

「そうみたいね。でも、大丈夫よ」


 そう言いながら自分たちの住む森の家がある周囲と対応が間に合いそうなミアトー村にも即座に魔法を放つ。それは都市機能を維持している魔法を強化するためのもので、普段よりも多くの魔力を流し込み、もしもの事態に備えた。


「あの、シェリア様。どうかなされたのでしょうか?」

「ミレラア、あなたは気付かないのね。念のため衝撃に備えなさい」


 私の警告の言葉と同時に大地から振動波を感じた。もし何も対処しなければ、大きな地震が起こっているであろうそれに眉をひそめつつ、防壁機能をさらに強化する。

 ミレラアもさすがに異変に気付いたようだったが、私を信用しているのか目つきが険しくなったくらいだった。

 地震の余波が収まり、落ち着いた頃合にもしもの事態に備えて発動していた魔法を解除した。


「私はミアトー村に行ってくるわ。もし何かしらの被害が出ていたら、急ぐ必要があるし、そのついでに魔法陣に不具合が出てないか点検してくるわ」

「分かりました。それでシェリア様、私たちも同行しましょうか?」

「いえ、あなたたちは森をひと回りして警戒するくらいで大人しくしていなさい。さっきの異変は地震が起こったからだけど、どうにもあの地震、自然災害ではない感じがするのよね」


 ミレラアに説明しながら視線は自然とストベリク市の方に向かう。地震の波はストベリク市の方から来たように思えた。しかし、都市機能の魔法が機能しているならば、ストベリク市を震源地に起こるはずのないものだ。それでも絶対とは言い切れない。

 空間魔法を使い図書館から本を取りだし、ちゃんと魔法陣が機能していることを確認した。さらには自分とストベリク市を繋ぐ魔力の流れにも問題がないことも分かっている。そして、ミアトー村からもストベリク市からも緊急用の連絡魔法が使われてはいない。それならば大きな被害は出ていないだろうと、自分の中での優先度で行動することにしたのだ。


 ミアトー村に急いで飛んでいくと、村の中央広場付近に人が集まっているのが見えた。その中には村長のジェレオンの姿も見えたので、空から舞い降りる。


「これは魔女様。ようこそお越しを。本来ならば歓待したいところなのですが――」

「今はそういうのはいいわ。それでさっそくで悪いのだけど、何か村で被害はあったのかしら?」

「いえ、村の多くの者が不気味な地鳴りを聞いたくらいで、それで不安がっておりまして」

「そう。私が来たのはそのことについてなのよね。それで村で地震を感じたという人はいないかしら?」


 私が周囲を見回すと、村人は首を横に振った。


「よかったわ。どうやら大規模な地震が起きたみたいなのよね。それで念のため魔法陣の点検もしようと思うの」

「お願いします。私たちに何かお手伝いできることはありますか?」

「そうね……建物に新しいヒビが入っていないかとか、村の外側に近い場所で地滑りが起きていないかとか見てもらうと助かるわ。だけど、地盤が緩んでいる可能性もあるから斜面や山の近くに行く場合は気をつけなさい」

「分かりました。それではさっそく手分けして、見て回ることにします」


 ジェレオンは村人を集め、私の言葉を伝えつつ指示を出し始めたので、私は魔法陣の点検に向かうことにした。いつものように上空から問題がないかチェックしてもよかったが、今回は念入りにチェックするために魔法陣を辿りながら念入りに確認作業をした。そうやって丁寧に確認したり修正したりすることで、今後数十年、数百年の安全に繋がるのだと分かっているので、手も気も抜けないので相当疲れてしまう。だけど、自分が大切にしているもののためなのでその労力は全く苦にならない。

 途中、すれ違う村人に異変がないか尋ねると、畑も家も、見える範囲の地面も問題がないという言葉が返ってくるので、安堵感から胸を撫でおろした。

 そうやって、日が暮れても作業を続け、魔法陣の点検が終わったのは空が白みだした頃だった。

 点検が終わったことをジェレオンに報告し、異変があったらすぐに呼び出すよう念押しをしてから、いったん家に帰ることにした。

 家に帰ると、ミレラアがスープをはじめとした食べやすいものを用意して待ってくれていた。それを食べ終えると、疲労からベッドに倒れ込みそのまま眠りについた。


 目が覚めると、昨日、体力と魔法を使いすぎたせいかそれとも気を張りすぎていたせいか、疲労感が抜けておらず頭がぼんやりとしていた。

 そこにタイミングよくミレラアが紅茶の入ったカップを持ってきてくれた。


「おはようございます、シェリー様」

「おはよう、ミレラア。それで今はいつぐらいかしら?」


 紅茶を受け取りながら、ミレラアに尋ね、そのまま紅茶に口をつける。


「昼過ぎになります。何かお食べになりますか?」

「ええ、何か軽めに食べたいわね。その後にストベリク市にも様子を見に行ってくるわ」

「かしこまりました。今日も昨日のミアトーの時と同様に私たちは同行しない方がいいのですよね?」

「ええ、申し訳ないけど。今回はもし敵と呼べる相手がいるならば魔法師の可能性が高いわ。ミレラアなら対処はできるかもしれないけれど、こちらにミレラアというカードがあることは隠しておきたいのよね」

「そういうことでしたら。では、無事にお帰りなるのをここで待っています」

「ありがとう、ミレラア。それでクライブは?」

「クライブは森をひと回りして、もう一度変わったことがないか調べてくると言っていました。クライブは獣と直接会話もできますし、何か少しでもシェリー様の役に立つために情報を集めているのでしょう」

「いじらしくて、かわいいわね」

「ええ、まったく」


 ミレラアと顔を見合わせて笑い合った。ミレラアも私の前ではクライブに対してはきつい態度を取っているが、そういう必要がないと判断したときは今のように素直にクライブを認めたりしている。それが私にとっては愛おしく、使い魔たちがかわいくて仕方ないのだ。


「それでは食事を用意しようと思いますが、何か希望はありますか?」


 ミレラアの質問に、寝起きであることとまだ疲れていること、それに空腹度と相談し、


「なにか甘いものが食べたいかも」


 と、答えると、ミレラアはメイドらしいキリッとした表情を浮かべ、


「それではスコーンかパンケーキにしましょうか」


 と、提案してきたので「ええ、お願いするわ」と頷いて見せ、食事ができるまでの間、本を読んで時間を潰すことにした。

 家の中には次第に甘い香りが漂ってきて、それが鼻とお腹を刺激してきて、途中から読書に集中できず、ぼんやりとミレラアの後ろ姿を眺めることにした。

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