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悠久の魔女の暇つぶし  作者: たれねこ
第五章 偏愛のヴァンパイア
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偏愛のヴァンパイア ⑥

「シェリア様。私はやりますよ」


 私が突然足を止めたことで、私の移動に合わせてタイミングをはかっていた左右の衛兵と距離ができた。私を攻撃しようと狙うヴァンパイア兵で面倒なのは、戦闘経験が豊富な後ろから迫るフロウスの私兵だ。だから、後方に飛び急激に距離を詰め、体を捻りつつ回し蹴りを叩きこみ、二人同時に吹っ飛ばした。攻撃後の隙を狙い、最初の二人とはタイミングをずらして突撃してきたヴァンパイア兵の斬撃をとっさに持っていた日傘で受け止めた。


「なっ!?」


 攻撃を仕掛けてきたヴァンパイア兵は思わず声をあげる。普通の日傘なら日傘ごと真っ二つにできただろう。驚いた一瞬のすきをついて、その場で体を回転させ蹴り飛ばした。


「もう傷ついてたら、半殺しじゃすまないからね」


 文句を言いつつ、日傘を確認すると布地に傷すらついていなかった。安心して一息ついたところで、日傘が手によく馴染なじむ不思議な感覚に気付いた。正確には、戦闘をするために身体能力を強化するための魔法を使ったときから、魔力の流れがいつもと違うなと気付いてはいたがその正体は分かっていなかった。

 シェリア様に日傘を渡されたときは、ヴァンパイアが太陽に弱いから渡されたものとばかり思っていた。まさか武器として渡されていたなんて想像もしていなかった。

 右手に持った日傘を握り直す。きっとシェリア様の魔力と私の使う魔法の影響を受けているのだろう。この日傘は並の武器や力では傷すらつけられないだろう。


「もうシェリア様ったら。過保護なのか、こういうことになることまで見通していたのか、いずれにしても底が見えないわ。そんなところがたまらなく――」


 距離を詰め直してきた衛兵が左右、正面、上の四方から同時に攻撃を仕掛けてきた。上から飛び込んできた衛兵の剣の刃を左手の指でつかんで止めながら、日傘でその他全員をなぎ払った。それから恐怖で顔をにじませた残る一人を掴んでいる剣ごと振り払うようにして強引に投げ飛ばした。

 一瞬でその場にいたヴァンパイア兵を全滅させたはいいが、フロウスの私兵が増援にやってきて私を取り囲んだ。


「何事だ!」


 そこに大きな声が響き渡る。議場から騒ぎを聞きつけた上位始祖たちが顔を見せる。人数は三人。その中には私の父、イヴァン・ローシュの姿もあった。

 ローシュ含む三人の上位始祖は状況を判断しかねているようだった。それも仕方のないことに思えた。

 衛兵含め数人のヴァンパイア兵が倒れてうめき声をあげているが、誰も死んではいない。それをやったであろう賊はメイド服を着たヴァンパイアで、そのヴァンパイアを囲む兵士はフロウスの汚れ仕事専門の私設部隊のため正規兵ではありえない対ヴァンパイア用の銀武器を構えている。


「フロウス、これはどういうことだ? 説明しろ?」

「賊がクーデターを起こすために侵入した。今は私の私兵が食い止めているところだ」


 フロウスは嘘の状況説明をする。ここまで堂々としていれば、多少の異常さは誤魔化せるかもしれない。


「そこのメイド。投降するなら命だけは奪わないでやろう」


 上位始祖の一人がそう勧告する。しかし、ローシュは私に気付いたようで「待て」と手を横に広げ、他の上位始祖二人を制止する。


「どうした、ローシュ?」

「あれは私の娘だ。フロウスのもとで仕事をしていたはずだが、なぜフロウスの私兵と戦っている?」


 私は持っていた日傘を床にそっと置いて、ふところからシェリア様からの書状を取りだした。


「騒ぎを起こしたことについてはまず深くお詫び申し上げます。私はイヴァン・ローシュ様の娘であり、ミハイラ・フロウス様の孫でもあるミレラア・ローシュと申します。イヴァン・ローシュ様をはじめ複数の上位始祖様に急ぎ伝えねばならないことがあり、ここにやって来た次第であります。自分の身を守るためのやむを得ない戦闘をしましたが、これ以降は一切の戦闘行為をしないと誓います」


 そう深々と頭を下げる。上位始祖たちは落ちついているようにも見えるが内心では私の意図を探っているのだろう。


「それでローシュの娘よ。お前の目的は何だ?」

「私は今はノーアニブルの人間ではなく、ここより南西にある大図書館で有名なストベリク市を管理する魔女シェリアの使者として、書状を持って参りました」

「なぜ魔女の手先のようなことをするのだ?」

「私はとある事情でその魔女に接触しました。そのときに私は命を奪われても仕方のない状況でしたが、魔女シェリア様の広き心と深き慈悲により生かされました。さっそくですが、魔女シェリア様からの書状を読み上げてもよろしいでしょうか?」


 ローシュ含む三人の上位始祖は顔を見合わせ、頷き合った。


「そんな勝手を許してはなりません。特にローシュ。自分の名を汚そうとしている娘をこのまま放置して恥ずかしくないのか?」


 フロウスは反対の意思を表明する。しかし、「ここにいる上位始祖のうち、フロウス、お前以外はとりあえず話を聞くつもりだ。何か不都合でもあるのか?」と冷静に反論され、フロウスは苦虫を噛んだような表情を浮かべた。


「では、ローシュの娘よ。その魔女からの書状を読み上げよ」

「かしこまりました。それでは魔女シェリア様からのお言葉を読み上げさせていただきます」


 私はシェリア様からの言葉を伝えるため、書状を広げた。

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