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STO ― 昭和東京オペレーター物語 ―  作者: TAM-TAM
7th Stage.流すな汝が涙、と老兵は言った
31/41

7th Stage.(1)パーティリーダー会議

※2015/12/21、改稿作業を行いました。

 ラスボスのアロガントを「暗黒の巨人」に変更しております。ご了承をお願いいたします。


▼1


 会議室に40人程の男女が座っている。週に2回開催されるパーティリーダー会議の席だ。

 とは言っても、“STO”内の全パーティのリーダーがこの場に集まっている訳ではない。実際のパーティ数はこの場の人数の倍の約80ある。元々自由参加であるし、哨戒シフトや休み等の関係で出たくても出られない人も居るということだ。


『では、お手元のプリントをご覧下さいませ~』


 司会を務めるHAR(ハル)の声がマイクを通じて会議室に広がる。島津が目を落とす先のわら半紙には“HAR雑記帳(ハルノート)外伝、暗黒の巨人アロガントのひみつ編”と書かれてあった。


『これまでの調査で判明した事や予測される性能を書いております~』

「あー、昔の子供向け雑誌によくこんなんが載ってたなぁ」


 そのプリントに描かれた解剖図モドキによると、暗黒の巨人アロガントはパワーが100万馬力、走る速度は弾丸列車(しんかんせん)よりも速く、腕から発射する炎は1兆度の熱さを誇るそうだ。


「おハルさんや、質問良いか? ここに書かれてる情報は科学的手法できちんと測定した数値なのか? 特に1兆度の炎なんて地球が溶けて消えてしまうんだが」


 ちなみに太陽でさえ、中心核が約1500万度、表面が大体3000から6000度である。1兆度というのがどれだけ子供向けのいい加減な数値なのかが良く判る。


『ええとですね~、正確を期すよう努力目標を掲げてはおりますが、ごく稀に少し間違ってる可能性も無きにしもあらずかと~。例えて言うならグラビアアイドルのスリーサイズとか声優さんの年齢みたいなものとお考え頂ければ~』

「OK把握した。アテにはしないことにする」


 色んな方面に喧嘩を売りそうなやばい会話である。


『ちなみに、強化人間のパワーは5万馬力ですから、愛とか勇気とか気合いとかを計算に入れなければアロガントを倒すには単純に考えて20人の強化人間が必要になりそうです~』

「複数パーティが同時に戦うと連携が崩れるから気合いで補う方向かな」


 島津の呟きに、周囲のパーティリーダー達も頷く。実際、複数人数での息の合ったコンビネーションは一朝一夕で身につくものではないのだ。

 “STO”のプレイヤー達が昭和(こちら)の日本に居れるのは今日を含めて残り10日、今から赤の他人と共闘するとなっても練習や訓練の時間が足りない。


『それから~、特筆すべき事柄としましては、アロガントの活動時間は1日5分が限界のようです~。恐らく地球の環境に適合しきれないのではと思われます~』


 だったら侵略すんなよ、と言いたいところではあるがあちらにも母星が爆発したとか複雑な事情があるのかも知れない。

 ともあれ、続くHAR(ハル)の説明によると活動時以外の23時間55分は高高度の衛星軌道上でUFO(ユーフォー)の形状になって休眠しているとのことだ。


 そしてこの1日5分という時間制限は、守りには有利だがこちらから攻める分には不利に働く。交戦し情報を集めたり撃破したりするチャンスが著しく少ないことを意味するからである。

 漫然と無目的な遭遇戦を繰り広げることで貴重な戦闘回数を浪費することは何としても避けねばならない。


『そういう訳ですので~。今回のアロガント攻略に限りましては、勤務シフト調整と同時に、どのパーティがいつアロガントと戦いたいかについてもきっちりスケジューリングしておきたいと思います~』


 実際は、プレイヤー側が戦いたければ相手がその希望を汲んで都合良く登場してくれるようなものではなく、相手が地上に顕現した時にたまたま近くに居るパーティが優先的に戦える仕組みなので、事実上はアロガント出現地点となる後楽園球場近辺の担当シフトの調整となる。

 勿論出現した際は近くに居るパーティに連絡を入れてフォローを頼んだり交戦時の様子をHAR(ハル)にフィードバックして新たな情報を収集・分析したりと、パーティ間での横の繋がりも最大限に活用することになる訳だ。


「じゃあ、俺達『東京防衛戦(TDL)』は、来週火曜の優先権が欲しい」

「火曜? 最終日の水曜じゃなくてか?」


 すっと挙手した島津の要望に、隣の男子生徒が怪訝そうに問い返す。これまでに撃破した“七つの苦難(セブン=トーメント)”6体のうち殆どに『東京防衛戦(TDL)』が関わっているため、周囲からは自然と真打であり満を持して登場するものと認識されているようだ。

 そんな疑問に島津は大仰に肩を竦ませて答える。


「あぁ。ウチのパーティメンバーの……本人の名誉のために名前は伏せるが変態2号の強い希望があって、1日余裕を持たせて暗黒の巨人(アロガント)を倒したいそうだ。で、最終日に銭湯を復旧させてネカマ集めて一緒に風呂に入りたいんだとよ」

「その話、乗りました!」


 大きな胸を“ゆさっ”と揺らして立ち上がったのは、『お姉さんの保健室』パーティリーダーのヒーラーの人。


「『お姉さんの保健室』はこの時点より『東京防衛戦(TDL)』に全面協力します。流石に同志緒賀さんはよくわかってらっしゃいますね」

「一応名前は伏せてたんだがな……あと何時の間に同志になった」


 痛む眉間を指で押さえつつ微妙な表情を浮かべる島津。それとは反対に周囲の反応は加熱しており、「場所は!? 場所は何処で!?」「覗きは可か!? バレなければOKだよな!?」「そういえば今まで秘密にしてたが俺実はネカマだったんだよ!」等と本能に忠実な叫びに満たされる。


「少しよろしいか? 捕らぬ狸の皮算用にならぬよう、まずは気を引き締めて目の前の敵に集中すべき時であろうに。さもなくば、足元を掬われることになりかねんぞ」


 そんな中、狭間の厳格(ストイック)な言葉が一気に場の熱気を冷ます。ここまで大きな犠牲もなく来れたとはいえこれから挑むのは“STO”で最大最強の敵だ。プレイヤー達は改めて緊張感を持ち、決戦に備えるのであった。





「帰ったぞ――って、何て格好してやがる」


 パーティリーダー会議を終えて島津が部室に帰着。メンバー4人は思い思いの姿勢でだらけてテレビを観ていたのだがその中に1人変態が居た。


「おう、お疲れ」


 ソファの上でだらしなく寝転がっていた黒髪セーラー服美少女の緒賀が笑顔でこちらに手を振るが、彼女の頭部に装着された輝くような質感のシルクの下着(ショーツ)が色々と台無しだ。


「あー、丁度この前のスパイトとマリスの時の戦利品分配イベントがあってね、緒賀君はソレが気に入ったみたい」

「だからって頭に被るのはどうかと思うぞ……」


 お茶を飲みつつ悠里が平然とした様子で告げるが、他の2名、山路と神野は直視に耐えないのか不自然に目を逸らしている。


「ってか、悠里は気にならないのか? 控え目に見てもセクハラだろう?」

「そうねえ、最近はラノベなんかの影響か正統派な少女漫画にもエキセントリックな登場人物が増えてきたからねー。今時のは主人公とか恋愛対象の王子様でも変態性癖の一つや二つ搭載してたりするから気にならなくなったかも?」

「そうだぜ島津。変態には良い時代になったモンだ」

「但しイケメンと美少女に限る、だろうけどな」


 そこまで言うと疲れた顔で島津は内ポケットからタバコ型チョコを取り出し、口に咥えた。

 一息つくと島津は先程の会議の内容を報告する。


「戦闘時間5分って、ほぼ“光の巨人”じゃないですか」

「あぁ。しかも胸の真ん中に球体があって残りエネルギー量に応じて緑から黄色や赤に変色するんだとさ」

「それにしても、こっちの日本だと巨人は私達の味方じゃないんですね……光の国が闇に覆われたとでも言うのでしょうか」


 眉間に皺を寄せる山路に島津も一緒になって呻っていると、横から緒賀の声が割り込んできた。シリアスな表情ではあるが未だに下着を被ったままだ。


「胸の球体が気になるよな。デストロイ・ザ・コアすれば案外あっさり倒せちまうんじゃねェか?」

「だったら楽なんだがな。試してみる価値はありそうだが駄目だった時の次善策は考えておいた方が良い。“大太刀”の扱いはどうだ? 緒賀」

「あぁ。空いた時間で練習してるが3メートルの単分子(ブレード)はどう考えても長すぎる。アレで巨人の首を斬るには良くて成功率10パーセントってとこだな。切っ先がブレて刃筋がマトモに立たん」

「10パーか、実戦でアテにするには厳しいな……」


 形の良い顎に手を当てて島津が黙り込む。緒賀が今口にした“大太刀”を含め、対アロガント用に切り札となり得る特殊武装を幾つかHAR(ハル)に申請したのだが、全体的に癖が強くて難儀しているところである。


「こっちは大体使いこなせるようになった。いつでも大丈夫……」


 そんな中、唯一の例外が神野で、銃器マニアなだけあって新しい射撃武器にも難なく適応していた。


「あ、新装備と言えば――」


 ふと悠里がごそごそと道具箱(インベントリ)を漁り、一枚の布切れを取り出す。


「じゃーん。戦利品分配の時に島津君の分もゲットしてきてあげたわよ。可愛いクマさんパンツを」

「いや、俺の分は要らないって言ったよな? あとこんな所で広げるな押し付けるな」

「決戦用装備を整えるなら下着も決戦用にしないと。知ってる? 女の子はちゃんとした下着を着ると自信がついて精神的(メンタル)に良い影響が及ぶのよ? さあ島津君、履くのと被るのとどっちが良い?」

「OK判った。決戦の時が来たら善処するからとりあえず今は仕舞え」


 島津の提示した妥協案に渋々と危険物を収納する悠里。


「ちなみに、集中力が研ぎ澄まされるってことならノーパンも有りよね。あの絶対に中を見られちゃいけない危機感が脳の潜在能力を開放して、例えて言うならシューティングゲームで残機が1になった時みたいに周囲の時間がゆっくり流れるようになるわ」

「なんでそんなに詳しいんだよ……」


 何となく聞いてはいけない事のように思えたが生来の突っ込み体質が災いして思わず聞いてしまう島津。余談だが悠里の制服はスカートが長めのお嬢様学校仕様でしかも彼女は後衛職なので普段そんなに激しい動きをしないため、まだ誰もスカートの中の宇宙を確認した者の居ないシュレディンガー先生の管轄区域である。

 そんな島津の疑問に悠里はやけに色っぽい表情で「ひ・み・つ」とだけ答えるのであった。



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