18 どくろ+般若=素晴らしい接客
私は毎週、鬼のようなバレエのレッスンを終えると、癒されるために地元のセブン●レブンに行く。
その理由は、夏ならアイス、冬ならピザまんを食すためだ。
夜もふけ、普通、仮にもバレエを習っていますと公言するのなら、こんな時間に高カロリーなものは食べないだろう!このブタめが!!と散々罵られようとも、私は疲れた後のアイスORピザまんが大好きなんだい!!
もうひとつ、私がセブンに行くのには理由がある。
それは、店員の兄ちゃんが素敵だからだ。
その名をO山さん。
彼は夜10時からシフトに入り、推定翌朝6時までの勤務だ。
彼を一目見た者は、お年寄りならば恐れおののき、コピー機の使い方を聞けずに腰を抜かし、
ひ弱な男子学生ならば震えながらエロ本を差し出す。
彼の指にはどくろの指輪がギラリと不気味に光る。
腕にはゴツゴツの腕輪(猛犬がつけている首輪のような)
首には般若がズラッと並んだネックレスをぶら下げ
耳には牙のようなピアスがいくつも付いている。
髪の毛は、ある時は天を仰ぐようなおっ立てヘア。
ある時は、スキンヘッド(今はこれ)
見るからに悪そうな彼は、行くたびにレジの前で仁王立ち。
「いらっしゃいませ」
の声は低く、地獄へ足を踏み入れたかのようだ。
私と彼が初めて出会ったのはまだ、私が初々しい、女子高生の時である。
彼は、相変わらず、いかつい格好をしてレジの前で仁王立ちで客を待ち構える。
私は、雑誌とストッキングを手に取ると、レジ前の列にならんだ。
ストッキングは母に頼まれた。
できれば、彼のレジには行きたくない。
射殺されそうだ。そう思っていた。
順当に行けば、私は眼鏡のボクトツとした青年の(時間帯責任者。年はO山さんと同じくらい)のレジになる。
ホッとしたのもつかの間、前の客(つまり、ボクトツ青年が今接客している客)が
「おにぎり、温めてください」
と言ったことにより、ボクトツ青年のレジはしばらく機能しない状態となった。
握り飯なんぞ冷たいまま食いやがれっ!!
ケツの穴の小さい奴め!!
心の中でそう罵ったものの、
「お待ちのお客様こちらへどうぞ」
というO山さんの一言で一気に血の気が引く私。
ぎこちない足取りでO山さんの元へ進み、カウンターに商品を置く。
「1470円です。」
値段が表示され、私は財布の中をあさる。
ドスの聞いた声でO山さんは
「雑誌の紐は切ってもよろしいでしょうか」と私に聞く。
私には「お前の首などぶった切ってやる」に聞こえた気がしたが、上ずった声で
「は、はい」
と答えながら、財布をあさる。
千円札一枚を取り出し、後は小銭を一枚ずつ取り出す。
しかし、20円ほど足りない。
ストッキングを諦めようか。
しかしストッキングは、前の日から母に頼まれていて、今日買って帰らなければ大目玉確実だ。
今日の飯はないかもしれない。
よし、雑誌を諦めよう。
「雑誌、やっぱ…」
言いかけたと頃で、
鋭く光る刃が雑誌の紐を切断していることに気がつき、私は固まった。
こ、殺される…!!!
しかし、O山さんは、青ざめている私を一瞥すると
「雑誌、おやめになりますか?大丈夫ですか?」
と声をかけてきた。
私は、一瞬何が起きたのかわからなかったが、
「は、はい」
とだけ言った。
O山さんは紐を切ってしまった雑誌を脇に寄せ、レジをうちなおすと、
「お会計、変わりまして210円です」
と言った。
その上、
「このストッキングは、ふくらはぎまでの長さしかありませんが、よろしいですか?」
と聞いてきた。
おぉ
神よ。
般若もどくろも実は神だったのか…!!!
私は、O山さんにちゃんと腰の方まであるストッキングに変えてもらい、セブンを後にし、帰ってから母にキレられることなく、おいしいご飯にありつけた。
その日から、私はO山さんの大ファンだ。
ちなみに、O山さんはコピー機を前に震えているおばあさんに使い方を丁寧に教えてあげ、
エロ本を恥ずかしそうに買った男子学生には紙袋に入れてあげていた。
神!!
そして時は流れ、昨日、私はセブン以外の場所でO山さんを目撃した。
舞台が近いため、衣装を入れた大きなバックをぶら下げ、細い道を歩いていると、
後ろから「ちりんちりん」とベルを鳴らされた。
こいつぁめんぼくねぇ
と、広い道まで小走りし、道を開けると、
「すんません」
とシルバーのママチャリに乗ったO山さんが颯爽と駆け抜けた。
しかも、めちゃくちゃ姿勢が良かった。
そんなO山さんの後ろ姿を見つめ、私はいつまでも彼のファンとして、セブンに通い続け、アイスまたはピザまんを食べ続けようと心に決めたのである。




