ep.088 ケジメ付けさしたるわ
「ここが稲美さんのお宅ですか・・・」
橘は、門構えの立派さから驚きを隠せない。
しかしながら、門は閉じられている。
「みたいですね・・・」
睦月は先程のうどん屋で何気ない会話をしながら、橘に軽い暗示を掛けておいたのだ。
『何があっても、僕が貴女を護りますから、安心して下さい』と。
効果は絶大で橘は人並みには驚いたりするものの、至って冷静な教師そのものである。
「とりあえず、チャイムとかは無いみたいなんで、声掛けてみましょう」
睦月が、そう言って微笑む。
睦月と橘が稲美家を訪れる1時間程前の事である。
稲美家の居間では、ボンこと裕一を放って逃げた岸田が彼にシバかれていた。
裕一は、正座している岸田を殴る、殴る、殴る。
「岸田!おどラ、何、逃げてケツかんネン。あー!」
礼司にヤラれた分を取り返す様に、岸田を殴り続けた。
裕一のプライドは、礼司にボコられた事でズタズタである。
《何で俺が、あんな得体の知れんガキに、どつかれなアカンねん!ムカつく。ほんで、雪江とトメは、何処行ってんネン!》
岸田にしてみれば裕一をシバきあげる事など造作ないのだが、今は立場的に出来なかった。
わざと殴られ、責任を誰かになすり付け様と必死に弁明し、
「いや、ボン。連絡入ったんです。山崎から・・・」
裕一は、更にキレる。
岸田の少ない髪の毛を掴み上げ、
「あ”ー、オンドレは、誰に言い訳してんねん!親より子分の方が大事やってゆーんか!コラっ!」
裕一は常用しているヘロインが切れかかっている事もあり、その怒り具合はハンパなかった。
岸田の顔は、どす黒く変色し、パンパンに腫れ上がっている。
裕一はすっと立ち上がると、その場を離れた。
暫くすると短刀を持ち、戻って来て、
「ケジメ付けさしたるわ、山崎呼べや」
岸田は慌てて携帯を取り出し、山崎を呼ぶ。
裕一は、岸田が電話を掛け終わったのを確認し、
「山崎は何て?」
岸田は冷や汗をかきながら、
「すぐ来るそうです」
裕一は、手に持っていた短刀を、岸田の目の前に投げ付け、
「岸田、とりあえず、お前、それで小指詰めーや。それで許したらぁ」




