ep.062 病院内での出来事
桜子は富田森にある愛染病院から出てくると、愛機・サクラ1300に跨がり、病院内での出来事を思いだす。
《とりあえず、橘先生のお友達が夜勤明けで助かったわ。しかし、よく喋る人だったなぁ・・・》
桜子は愛染病院に着くなり、橘の友人の看護師・一之瀬恭子を呼び出した。
一之瀬は夜勤明けではあったが、桜子が橘の教え子の一人だと判明すると、空いている看護師休憩室に桜子を誘い、快く一之瀬の知る事実を教えてくれた。
一之瀬は休憩室の椅子に座ると、マルボロ・メンソールに火を着け、一度深く吸い、
「そうなのよ。アタシも、庵ちゃんに連絡して、びっくりでね。運び込むまれた患者さんの処置をしていたら、ガラの良くないお兄さんが、“ゆきえ”、“ゆきえ”って患者の事、呼ぶのよ。しかも、制服がアナタの着ている制服と全く同じじゃない。聖クリの制服。気になってカルテ見たら、びっくりよ。名前が、“高原加奈子”ってなってんだもん。アタシ、あれ?さっき、家族の人、“ゆきえ”って言ってたよね?そう思って、診察した梅田先生に聞いたら、『君はそんな事、知らなくていいんだ』って怒るじゃない?まあ、診察料金は、全額患者負担なんで、病院的にはいいんだけどね」
「で、気になって、橘先生に連絡された訳ですね」
「そうなの。本来なら守秘義務があるんだけど、暴行されてるのに、警察が全く動いてないの変だし。しかも、患者さんの名前も違う。アタシは犯罪行為の片棒担ぐのは、勘弁だわ。で、庵にね、連絡入れたの。庵の学校に、“ゆきえ”って女の子いないかって?そしたら、庵、焦って身体の特徴聞いてくるじゃない」
「ええ、それで?」
「教えたわよ。身長と見た目の感じとか。そしたら、庵、泣いてね。『アタシのクラスの女の子だって・・・』。アタシもびっくりしたわよ」
「そうなんですか。確かに、アタシも一之瀬さんと同じ立場なら、不安で友達に相談しますもん」
桜子は、一之瀬に同意して見せた。
一之瀬は、タバコを消し、深くため息を吐くと、
「でも、それ以上にびっくりする事があったのよ。これは庵にも言ってない事なんだけど・・・」




