ep.063 庵の知らない事実
一之瀬の顔に躊躇いが走る。
桜子は菩薩の様な表情で、一之瀬に暗示を掛けた。
「大丈夫ですよ、一之瀬さん。アタシの胸の内にしまっておきますから」
一之瀬は頷き、言葉を漏らす。
「そう・・・?あの“ゆきえ”って呼ばれてた女の子、普段からピル飲んでるの・・・」
「!!、どういう事ですか?」
「いやね、あんな後だから、膣内洗浄してね。念の為、先生が緊急避妊薬を処方してたんだけど・・・」
「ええ」
「彼女、必要ないって言ったの。アタシ、驚いちゃってさー、でも、万が一出来たら困るでしょ?って聞くと・・・。何て言ったと思う?普段から、避妊したいので、低用量ピル飲んでるって言うじゃない。つまり、男が避妊しないって事よね?ねえ?今どきの高校生ってそうなの?そんなに毎日、Hしちゃうワケ?確かに、アタシも、高校生で当時の彼氏とHはしてたけどー、さすがに毎日はしなかったな。だって、身体が目的みたいに思えてくるからさ~」
桜子は困惑する。
「さぁ、付き合う相手によるんじゃないですか?」
「でも、不思議なのは、彼女、彼氏がいるみたいには、見えなかったのよね・・・。むしろ、逆に男を卑下しているというか、侮蔑しているというか・・・。何か憎んでいるみたいだった」
桜子は、冷静を装ってはいるが、心の中では激しい怒りが込み上げていた。
「そうなんですか・・・。あっ、一之瀬さん、梅田先生って、今日、病院には?」
一之瀬は、大きな欠伸をし、
「今日ね、梅田先生は休みなのよ。こっちは夜勤明けだって言うのに・・・」
桜子は、一之瀬の瞳を覗き込み、
「梅田先生のご住所、教えて頂けますか?一之瀬さんが教えたとは、絶対言いませんから・・・。先生に、どうしても聞きたい事があるので」
一之瀬は桜子の問い掛けに、“NO”とは言えない。
既に魅入られていたのだ。
一之瀬は、フラりと立ち上がる。
ちょっと待っててねと言葉を残し、休憩室を出て行った。
残った桜子は椅子に座り直し、目を閉じると腕を組む。
《もっと早く知っていれば・・・。稲美さん、アタシが全て受け止めてあげるから、もう苦しまなくていいから・・・》




