ep.049 一曲付き合ってくれる?
桜子が考えていながら食事を取っている処に、藍と皐月が談笑をしながらトレーに熱々のビーフシチューとシーザーサラダ、そしてカットされたフランスパンを持ってやって来た。
桜子の向かいに藍が、その横に皐月が座る。
藍が天使の笑顔で尋ねた。
「桜子ちゃん、浮かない顔して、どーしたんどすか?」
「あっ、藍に、皐月」
「心配事でも?」
「うん。ちょっとね・・・」
と桜子が言いかけた時、エリザベスとローズもトレーに晩御飯を乗せてやって来た。
「ハ~イ、桜子~。ホワッツ・ハプン?」
「どうしたの~、桜子」
桜子の左にローズが、その向かいにエリザベスが座った。
《かなわないわね・・・》
藍がすっと目を細め、
「ややこしい事でも、ウチらは気にしまへんえ。こころちゃんも、そう言うと思いますぅ」
「了解った。ありがとう、みんな。22時にアタシの部屋に来てくれる?全て話すわ」
桜子以外の全員が、顔を見合わせ頷く。
桜子が切り出した。
「藍、食べ終わったら、一曲付き合ってくれる?」
「よろしおすえ」
桜子が決まってこう言う言い方をする時は、何か考え事をする時なのだ。
桜子は食べ終えると自分の器を洗い、バイオリンを取りに部屋に戻っていった。
残りの“はねくみ”の4人は、器を片すとリビングに移動する。
既にリビングには20名程の寮生が、お喋りをしたり本を読んだりして、寛いでいた。
皐月、ローズ、ベスは、各々ソファに座る。
藍が、グランドピアノの前に座り、目を閉じると静かに旋律を奏で始めた。
藍の白く細長い芸術品の様な指が、鍵盤の上を滑る。
ドビュッシー作、《月の光》。
美しく、そして、少し淋しげなメロディが、聴いている寮生の心を揺さぶった。
リビングの全員が藍のピアノにくぎづけになり、そして、《月の光》を奏で終わると誰もが立ち上がり拍手する。
藍は立ち上がると、ペコリを下げた。
静かに桜子が藍の傍に近付き、バイオリンを構え奏で始める。
ショパンの《夜想曲第2番、変ホ長調》。
桜子の大好きな曲の一つである。




