ep.029 “美女と野獣”という名のロールケーキ
残された四人が何気ない会話をして待っていると、真弓が何かが入った袋を二つ持って来る。
「こころちゃん、これ食べて」
直子が照れ、
「ちょっと~、ママ、こころ先輩、迷惑がってるじゃない」
「そんな事ないわよねー、こころちゃん?」
匂いから一つがカレーだと判断したこころは、素直に感謝し、
「せっかくの、直子ちゃんのママの気持ちに悪かばってん、遠慮なく頂きます」
深々と頭を下げた。
もう一つの袋を見るなり、コレは?と真弓に尋ねた。
「ミナミの“カフェ・ド・ヲタロウテ”の一日50本限定の特製ロールケーキ“ビューティ”よ。持って行って。ほんとはビターチョコの“ビースト”も買いたかったんだけど、売切れだったの・・・」
翔が、思わず漏らす。
「いいなぁ、ロールケーキ」
真弓が翔に諭す。
「明日、ケーキは買ってあげるから」
それを見ていたこころは、
「直子ちゃんのママ、このロールケーキは、翔くんに食べさしてあげて欲しかとです」
と言って、屈むとロールケーキを翔に差し出した。
「いいの?」
「うん、翔くんがお食べ。その方が、姉ーちゃんは嬉しかよ。食べて、ウチみたいに大きくならんと」
こころは、満面の微笑みで答える。
「うん」
それを見ていた主人の正が、子供たちに優しくしてくれるこころに感銘したのか、
「こころさん、月曜日の夜、ウチのご飯にご招待させて下さい。真弓、直子、翔、問題ないよな?」
家族全員が頷いた。
《よか家族やね。直子は幸せばい》
「こころ先輩、ぜひ!」
今回は直子も促した。
こころは、少し考え、
「じゃあ、月曜日の夜、伺います。先に言っておきますが、ウチ、ハンパ無く食べるとです。それでも良かですか?」
真弓は、任せなさいと胸を叩いた。
こころは頭を下げ、直子を引き連れバイクに戻る。
翔が見送りにやって来て、
「バイバイ、こころちゃん、月曜日に待ってるね!」
「うん、バイバイ、いい子にして待ってるとよ」
そういい残し、直子と走り出す。
こころはバックミラーに写る翔を見て、思わず言葉が口から漏れる。
「直子、いいご両親と弟さんばい、あの笑顔曇らせる訳にはいかんと・・・」
直子のこころの腰に回す腕が、一瞬強くなった。
V-maxは、一路、雪江の家を目指す。




