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探偵青野優紀の事件簿  作者: 南後りむ
CASE5 英語の勉強は歩道橋で
21/62

FILE.20 縦読みの深読み〔解決編〕

登場人物紹介

・奥羽浩二(おくば-こうじ)

28歳。フリーター。

・水本文世(みなもと-ふみよ)

51歳。主婦。

・小住藍花(こすみ-あいか)

37歳。幼稚園の先生。

・野蒲龍一郎(のがま-りゅういちろう)

72歳。風美曰く、“雷おやじ”。

朝5時、風美は例の歩道橋の近くに隠れながら歩道橋を見ていた。かれこれ30分もここにいる。そろそろ呼んでいる人が来てしまう。それまでに犯人が現れてもらわないと……。

「優紀君が言っていたこと……ほんとうにあってるわよね?」

風美は昨日の青野との電話での会話を思い出していた。


  *


『まず、暗号の答えから言っちゃいましょうか』

「お願いするわ」

『では言いましょう。ズバリ、暗号に隠されていた意味は、1つ目が“約束守れ”、2つ目が“朝5時”です』

「え?」風美が問い返す。青野はふふっと笑ってから、

『説明不足ですね。まず、今回の暗号で重要になってくるのが、その英単語の意味です』

「てことは……最初の暗号は、Mountain、Cloud、It、Phraseだから、それぞれ山、雲、それ、句かしら?」

『そうですね。それを、ひらがなにして縦に並べましょう』

「ええっと……」

彼女は紙をとりだし、書き出した。


 やま

 くも

 それ

 く


「あ! 縦読みをするのね?」

『その通り。鍵は全ての単語が2語以内に収まっていることです。そうすることで、縦読みをしやすくなります。唯一1文字の“句”も最後にあるから問題ないですね。同じようにすると、2つ目の暗号は“朝5時”。つまり、明日の朝5時に犯人は現れるはずです』


  *


「はあ、もう5時になったけど、ほんとに来るのかしら?」

風美が少し不安になった時、反対側の階段から物音が聞こえた。

「来た!」犯人に聞こえないよう、小さな声で呟くと、彼女は階段をゆっくりと上った。

それに気がついたらしい人影がこちらへと歩み寄ってくる。

「約束通り、来てくれたようだな」

そう言った人物は、こちらに向かって不気味な笑みを浮かべたが……。

「はあっ!」

「なっ!」

風美は突然飛び出し、その人物を歩道橋の床に叩きつけた。いきなりのことに、叩きつけられた人物は少しの間静止していたが、すぐに風美のことを確認すると、驚いたような、そんか表情でおずおずと口を開いた。「ま、まさか、あの暗号が他の人に解かれたと……」

風美は自信に満ち溢れた顔で頷く。そして、はっきりとした口調で言い放った。

「ええ、その通りよ。あなたが一連の落書き事件の犯人よね、奥羽浩二おくばこうじさん」


  *


彼は少しの間黙っていたが、やがて口を開いた。

「ははっ、確かに犯人は俺みたいだな。だけど、2つ目の暗号を俺はどうやって書いたってんだ? 俺は赤の油性ペンなんて持ってなかったんだぜ?」

風美は頷く。まるで、その答えを予想していたように。

「それが、この事件のトリックね。でも、現場にはいろんなものが残ってたわよ」

そう言いながら、彼女は携帯電話を取り出した。

「暗号が書かれていたところのすぐ下に不自然な水溜まりがあったわ。この水は、何かに使われたと私は思う。じゃあ何に?」

風美に問われて、奥羽は「さあ」というように肩を竦めた。

「簡単よ。あなたは予め現場に落書きを書いておき、それを水溶性の紙で隠したのよ。あとは、あなたが持っていた飲みかけの水をかけてしまえば暗号がお目見えって寸法ね」

それを聞いた奥羽は、にやりとすると、

「水溶性の紙ねぇ。たしかにんなもんもあるな。だがよ、そんなものが貼ってあったら逆にあのじーさんに怪しまれるんじゃねーのか?」

「だから、貼った紙にかいておいたんでしょ? 『落書きはお止めください』って」

奥羽の瞼がピクリと動く。風美はその表情を見ると、満足げに話を続けた。

「そういうふうに書いておけば、あの野蒲さんならそのまま放っておくわ。現に昨日話を聞いたときに言っていたから。あ、そうそう。書くときは水性ペン、それも薄い色のもので書いたんでしょ? 濃い色だと水で溶けたときに目立ってしまうからね」

そこまで聞くと、奥羽は諦めたように項垂れた。それから、顔をおこすと、風美に問いかけた。

「どうして、俺が犯人だとわかったんだ?」

「あなた、2回目に書かれていた暗号を『赤い油性ペン』て書いてあるって言ったじゃない? でもね、あのとき、あの状況で暗号を書いているのがことは、わかりっこないの。水をかけなければいけないから油性ペンじゃなきゃトリックが成立しなかったんでしょうけど、それが裏目に出たってところかしら?」

「なるほどな……」

奥羽はため息をつくと、風美を見て言った。

「まさか、あんたにばれるなんて思わなかったぜ」

「これでも探偵よ」

風美は不機嫌そうに言ってから、

「なんで、こんなことをしたのかしら?」

「動機ってのか? そうだな、金が欲しかったんだ」

「それで、小住先生を脅したの?」

「なんだ、そんなことまでわかってんのか」

彼はつまらなそうに言った。

「ええ。あのとき先生が写真を持っていったのは幼稚園生を確認するためなんかじゃない。あれは、自分の娘さんの写真を見られないようにするためよ」

風美は青野から頼まれたことを思い出した。

――こちらは主に動機ホワイダニットの部分なんですがね。

――小住藍花さんが写真を持っていった理由を考えて頂きたい。僕にはさっぱりですんで。

(青野くん、これが私が出した答えよ)

風美は後輩に心のなかで呼び掛けた。

「ああ、その通りだ。俺が盗撮してあそこに貼り付けた」

風美は彼を睨み付ける。奥羽はそんなことは気にも留めない様子で、

「おととい、娘がどうなってもいいのかって電話したらよ、明日の朝に歩道橋の上でって言ってきたからさあ、せっかく来てやったのによお、あの女、時間をすっぽかしやがって……! 一時間も待っていたのに来ねえからとりあえずあの暗号を書いてやったってわけ」

「それは恐らくこれなかったからね。彼女がここに来れるのは早くても6時だから」

彼女の言葉に、奥羽は「ふん」と顔を背けた。

「もし小住先生があの暗号を解けなかったらどうするつもりだったの?」

風美が聞いた。その表情は知らないうちに固くなっている。

「絶対に解けると踏んでいたからな。なんせ、この暗号を作ったのはあの女なんだから」

「なんですって?」

風美は驚きを隠せていない。

「この暗号を、小住先生が作ったの?」

そういえば暗号を作るのが得意だとも言っていたな、と思い返す風美。そんな彼女に、奥羽は悪びれる様子もなく言い放った。

「だーかーらー、あの女がたまたま暗号ノートってやつを落としてて、そのなかに書いてあったんだよ! あいつは趣味で暗号を作ってそれを売ってたんだ。もしやと思って調べてみたら、その暗号が悪事に使われてたじゃねーか! だから俺は証拠を掴んで脅してやったんだよ。もういいか? 話すことはだいたい話したぞ?」

風美は少し残念そうな顔をしたが、顔を奥羽の方へ向けると、静かに口を開いた。

「そうね、私はいいわ。ただ、許さない人だっているはずよ――」

「はあ? 何を言って……」

彼がそう言いかけたとき――。

「やはりお前じゃったか! 全く、下らぬ動機でとんでもないことを!」

そこに現れたのは、雷おやじこと野蒲龍一郎のがまりゅういちろうであった。

「な、なんでこのじいさんがぁ!」

「油性ペンなんかで落書きしよって、この不届き者めが!」

「ご、ごめんなさい! もうしません、もうしませんからあっ!」

年齢的には奥羽の方が有利のはずだが、全く歯が立っていない。

「野蒲さん、柔道がほんとに上手いのよね~」

風美が他人事のように言う。その間にも奥羽は野蒲の説教を受けていたのであった。

「これにて、一件落着ってとこかしら」



  ◇



その日の放課後。小説部の部室では、女子三人組が話をしていた。

「それで、その後奥羽って人はどうなったんですか?」

柚希が興味津々に尋ねると、風美は彼女に笑顔を向けた。

「野蒲さんにこっぴどく叱られて泣き顔になってたわ。もうこんなことはしないでほしいんだけどね……」

「たぶん、二度としないと思います」

柚希は頷きながら言う。そこへ、本棚から本を取ってきた美月が話に加わった。

「それにしてもすごいですよね、その野蒲っておじさん。若いころは柔道の全国大会に出るほどの腕前だったらしいですよ」

「あら、サーチが早いわね」

「調べたらすぐに出てきましたよ」

美月はすました顔で話した。それから、

「そういえば、先輩も柔道やってるんですよね」

「ええ。朝も逃げる犯人を投げ飛ばしてやったわ」

得意げに言う風美。その時、青野が部室に入ってきた。

「それは良かったですね。ところで先輩? 僕にお話とかはないんですか?」

「ギクッ! そ、そんなことはないわよ。じゃ、じゃあ、私そろそろ帰るから。べ、勉強しなくちゃね。ほら、わ、私受験生でしょ?」

風美は言いながらそろそろと部室を出ようとする。

「忘れたとは言わせません。延滞料金2000円、しっかり頂戴しますよ」

「え、に、2000円!? 1000円じゃなかったっけ?」

青野の口から出た金額に驚く風美。青野は澄ました顔で答える。

「それは昨日までの話ですよ。一日1000円ずつ増やしていくことにしましたので」

「ええ、それはないよぉ! お願いっどうか1000円で! 頼みますっ!」

青野はちっと舌打ちをすると、「仕方がないですね」と言ってから、

「それじゃあ1500円で勘弁してあげますよ」

「え、1000円じゃだめですか?」

「だめです」

1000円で粘ろうとする風美を、青野はバッサリと切った。

「はあ……。わかりました。1500円払います。ぐすん」

「泣きまねしても無駄です」

「はい」

風美は渋々財布から1000円札と500円玉を一枚ずつ出した。

彼らのやり取りを呆れ顔で見る美月と柚希。

「なんか、地位が逆転してるよね」

「なんか先輩が情けなく見えてきたよ」

見てはいけないものを見たような気がした彼女たちは、そっと目を伏せた。

次回

青野くんの誕生日! のんびり家で読書を……と思ったはずが、美月に連れられ人気漫画家の家へ。そこでは、双子の姉妹(姉が漫画家)の誕生日パーティーが行われていた。楽しいパーティーのはずが、突如巻き起こる事件によって……。

CASE6 HAPPY BIRTHDAY

FILE.21 双子の誕生日パーティー


Next hint

・誕生日

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