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探偵青野優紀の事件簿  作者: 南後りむ
CASE4 小南学園文化祭事件
18/62

FILE.17 理不尽な欲望〔解決編2/2〕

解決編2話目です。

問題編を読んでいない方はご注意してください。



事件関係者

・新部海(しんべ‐かい)

小南学園の高校一年生。科学部兼新聞委員会。青野にある事件の調査を依頼。16歳。

・管家賢司(すがや‐けんじ)

小南学園の高校一年生。科学部部員。15歳。

・有胡蘭(ゆうこ‐らん)

小南学園の高校一年生。科学部部員。15歳。

・斜里漣(しゃり‐れん)

小南学園の高校一年生。科学部部員。16歳。

第二の事件の被害者。科学部の実験ショーの間に屋上から突き落とされる。

・遠山史朗(とおやま‐しろう)

小南学園の高校一年生。科学部部員。15歳。

第一の被害者。科学部の部室の中で刺殺されているのが見つかる。

・富良野純子(ふらの‐すみこ)

小南学園の高校二年生。科学部部員。16歳。

・加賀公康(かが‐きみやす)

小南学園の高校二年生。科学部部長。17歳。



・瓶木柊(かめき‐しゅう)

同級生を次々と殺している連続殺人犯。今回の事件に何か関係があるようだが……。

第三の被害者。科学室の裏で刺殺される。

「そうです。一連の連続殺人事件を実行に移した真犯人は、管家賢司さん、あなたですよ!」

青野は冷酷な口調で言い放った。

そこには、さっきまでのふざけた感じは微塵も含まれていない。

少し間があいてから、我に返った管家が慌てて反論する。

「ちょ、ちょっと、まってくださいよ! 確かに今の話じゃあ、僕が犯人みたいだけど、僕には斜里が殺されたとき、アリバイがあったじゃないか! 僕に斜里を殺すのは不可能ですよ!」

「アリバイは、全員にありましたがね」

青野は怒鳴られても自分のペースを崩さず、口もとに微笑を浮かべている。管家には、その微笑がいっそう気味悪く見えた。

「じゃ、じゃあ、そのアリバイってのを作った方法を説明してくれよ! ろ、論理的にさ!」

管家は両手を握り続けているが、その手には汗が滴っていた。

まわりの科学部の人たちは、ごくりと唾を飲んで二人のやり取りを見つめている。

「ええ、望むところです。教えてあげますよ。犯人が――いえ、あなたが使った鉄壁のアリバイトリックをね!」



  ◇



管家は黙っている。わずかに沈黙が続いたが、やがて青野が静寂を破った。

「まず、現場を整理していきましょう」

そう言いながら――いつ用意したのかはわからないが――図を取り出した。

「これが、事件現場の簡単な図です。ここに斜里さんのカバンが落ちていて、中にはガラス製の実験器具と青、緑、黄色の画用紙を筒状に丸めてセロハンテープで留めたものがありました」

「それがどうした」

管家がふんと鼻で笑う。

「いえいえ、僕の話はまだ終わっていませんよ。カバンの中にはこれしか入っていなかった。逆に言えばなんで斜里さんはこんなものを持っていたんでしょうか?」

「何かしたかったじゃないか?」

加賀が一説を提示した。

「何をするんですか? まあ、百歩譲ってそういうことにしておきましょうか。しかし、カバンの中がこれだけなんておかしい。財布とか、携帯電話とか、その他の貴重品が入っているはずです。つまり、カバンの中身は――何者かによって偽装・・された」

青野は唇をなめると、話を続ける。

「その何者かがこの事件の犯人であることは間違いありません」

青野はちらと管家に視線を送った。彼は部室の床を睨みつけている。

「では、なぜこんな偽装をする必要があったのか――それは、トリックを隠すためです」

「トリック?」

有胡が首を傾げる。

「ええ。そこで、いったんカバンから離れましょう。現場にはほかにもいろいろと興味深いものがありました。カバンから少し離れたこの辺に」

そう言いながら図にしるしをつける。

「ガラスの破片が大量に散らばっていました。それから、その破片に交じって今度は黒と赤の画用紙がカバンの中の物と同じように丸めてありました」

「ふん、それがどうしたって」

管家が鼻で笑った。

「そんなもの、カバンからこぼれ落ちたに決まっているだろ」

「そう、そこ! 犯人、つまりあなたは警察や僕にそう思わせることが目的でカバンの偽装を行ったんだ!」

「うっ」

管家が息を飲んだ。

「……で、それがなんだっていうんですか? 僕のアリバイに何の関係がある?」

青野はちらと視線を落とすと、すぐに向き直り、ほほ笑んだ。

「そうですね。もう一つみなさんに情報を提供しましょう。実は、斜里さんの遺体の下に長い糸があったそうなんです」

「それって……」

言いかけた富良野を遮り、管家が大声を出した。

「それがなんだっていうんだ!? それが僕のアリバイにどうつながる!?」

言い終えてから、ふっと管家は我に返り、あたりを見回した。

「い、いや、こいつに犯人呼ばわりされてつい腹が立っちゃって」

頬を引き攣らせ、頭をかく。

「そうですよねえ。腹が立ちますよねえ。自分が綿密に立てた犯行計画が暴かれそうな危うい状況なんですから」

「なにが言いたいんです!?」

管家の息が一層荒くなる。

「つまり、こうです。管家さん、あなたは被害者を撲殺し、塩酸をかけた後、注意深く被害者の体を柵の外側に糸で固定した。柵と柵の間に糸を通せばいいね。それから、その糸の両端を集気びんの下敷きにして固定したんだ」

あとは、と青野はつなげる。

「その集気びんを割ってしまえば糸は滑り落ち、被害者の体は下に落ちるってわけだ。有胡さんが被害者が落ちてくる直前に聞いたガラスが割れる音は、このことだったんですね」

「なろほど」

有胡は納得したようにうなずいた。

「ぷっ、はははははははは! とんだ的外れな推理だ。僕は斜里が落ちてきたときに防犯カメラに映っていたんだぞ! ガラスを割ることなんて不可能だ!」

だが、その答えは青野がもう予想していたようで、憐みの視線で彼をずっと見つめていた。

「なんだよその目! 俺の言ったことに何かおかしなことでもあったか!?」

管家は新部たちに問いかける。

「いや、別に……」

新部はその勢いに押され、そう言いかける。だが、青野はそれを遮り、

「大ありですよ。だって、ガラスは勝手に割れてくれるんですから」

「はあ?」

加賀がいまいちわけが分からないという顔をした。

「まあ、見せてあげましょう。用意をするものは、集気びんとカッターナイフ、筒状にした黒い色画用紙、そしてこの白熱電球です」

「それで何をするっていうんだ?」

後ろで話を聞いていた権田がたまりかねたように尋ねた。

「まあまあ、よく見ればわかりますよ。まず、集気びんの内側にカッターナイフで軽く傷をつけます」

そう言いながら集気びんに傷をつけた。

「次に、集気びんを逆さにして地面に置き、黒い画用紙を巻きつけます」

青野は集気びんを机の上に置いた。

「後は、ここにライトを当てれば完成です。少し待つ必要がありますからね。少し離れた方がいいですよ」

青野はそう言って机から離れた。


「いったいこれが、なんだっていうんだよ!」

五分ほどすると、管家がもう待てないといった表情でさけんだ。

「いくらたっても何も起きないだろ? なあ、どうなんだよ!」

「ですから、もうちょっとお待ちを……」

青野が言いかけたその時、集気びんが派手な音を立てて割れた。

「え、ちょ!」

新部がいきなりのことに驚いている。

「ふふふ、驚いたでしょ。これが第二の事件のアリバイトリックの真相だよ」

「……」

管家は黙っている。青野はそんな彼を尻目に、解説を続ける。

「なんでこうなるのか。それは、集気びんの周りに黒い紙を巻きつけたことによって、ライトの熱を吸収し、びんの中の空気を温めて体積を膨張させたからなんだ。集気びんの内側に軽く傷をつけたのは割れやすくするため。早く割れなきゃアリバイの意味がないからね」

「で、でも、現場にライトなんてなくて……」

「あるじゃない。地球に降り注ぐ、自然からの賜物が」

「太陽光、ね」

有胡が手をたたく。

「今日みたいによく晴れた日なら、このトリックの恩恵が莫大に膨れ上がるってわけか」

「その通り。それに、屋上の床はよく熱くなるし、事前からこのトリックを準備していたのなら割れるまでの時間もある程度までわかるだろうから、それに合わせて防犯カメラに映っておけばアリバイは完璧になる」

管家は唇を強く噛んだ。

「で、でも、今のあなたの話は推論に過ぎない。これなら他の人にもできるはずでしょ!? 僕が犯人だなんて証拠はどこにもない」

「ええ、そうですねえ。でも、あなたが犯人であるという証拠がちゃあんとあるんですよ」

「な、なんだよ!」

管家は声を荒げた。その声はもう叫んでいるといってもいいほどである。

「それは、第一の事件が起きた後のあなたの発言。まあ、聞いていただきましょうか」

管家はちっ、と舌打ちをして青野を見た。当の青野は胸ポケットから携帯電話をとりだして、なにやらいじくってからこちらに見せた。

「では、聞いていただきましょう」


『途中まで……そう、10時45分くらいまでは一緒にいたんだが、11時からクラスの方の企画に顔を出さなきゃいけなくなったんで、遠山とわかれたぜ。それから、待ち合わせの場所で待ってたんだがなかなか来ないなあって思ってたら斜里が俺のところに来た、ってところさ。それよりなんだ?新部と一緒にいるやつ。なあ探偵さん、なんか俺たちに用があるのか?』


「この言葉、ここにおかしなところがあるんですよ」

青野は間違い探しを出題する心持でそう話した。

「どこが!? 普通にアリバイを述べてるだけでしょ! どこがおかしいっていうんですか!?」

「問題なのはアリバイではありません。そのあとですよ」

「そのあと?」

権田がすっとんきょうな声を上げた。

「水を差すようで失礼だが、私にはさっぱり理解できないんだがね。だって君はたんて……」

「ほうら、またそうやって。いいですか、警部は僕が探偵活動をしていることをよく知っています。しかし、ここにいる人たちはどうです? 僕と親しかった新部でさえさっきまで知らなかったんですよ」

「あ、確かに!」

場にいる人たちはみな頷いている。

「だ、だから、それは……」

管家は言葉に詰まった。

「あなたがこのことを知ったのはおそらく、科学部の部室で遠山さんを殺していたとき。新部が大声でこう言いました。『青野が探偵だって!?』とね」

「確かに、言ったな」

新部が肯定した。

「管家さん、あなたは壁越しにこのことを聞いていたんでしょう? だからあの時咄嗟に“新部と連れ立っている人”のことを“探偵”、なんていったんだ」

「ち、違う……」

管家は顔を捻じ曲げ、必死に否定する。

「そして、あなたは新部が隣の部屋にいることを知った時、先ほどのガウス加速器のトリックを思いついた。地面に散らばっている鉄球から適当な数を選んで持っていき、向かいの教室の鍵を入手したんだ。あ、もしかしたら鍵を取りに職員室に入ったところを誰かに見られているかもね」

管家は顔を伏せる。額や頬からは汗が滲み出ていた。

「それから特別教室2に入り、カーテンレールを外したんでしょ? 新部がいなくなる前に実行しなくちゃいけなかったから急いでいたようだし、カーテンレールに指紋でもくっついているんじゃない?」

「でも、それは前についたものかもしれないし……」

「僕が言っているのはレール本体の方じゃないさ。それを留めているねじの方。ねじの軸――渦巻いているところのこと――から指紋が出れば、動かぬ証拠になる。さあ、どうする? ねじを外したいいわけでもするのかな? どうですか? 鑑識さん」

見ると扉の前に鑑識が立っていた。

「ええ。青野君の言っていた通り、カーテンレールにある複数のねじの軸から管家さんの指紋が検出されました」

管家はしばらく呆然と立ち尽くしていた。

「ふ、ふふ、ふはは! ふははははははは!」

彼はいきなり叫んだかと思うと、膝から崩れ落ちた。

「……認めるんですね」

「ああ、そうだよ! 全てお前が言う通り、俺があいつらをったんだ!」

「なんでそんなことを!?」

有胡が驚きが混じった声できく。

「あいつらが科学室から盗み出した薬品を売った利益を独占したからに決まってんだろぉ! 調合したり分量を量ったりいろいろやってたのは俺だってのに、なにもしてねぇあのクズ共がな! だから殺してやったんだよ。利益を俺が得るために!」

「そんな……」

突然の告白に、富良野が口を押えた。その手は震えている。

「じゃあなんで、なんであの殺人犯を殺さなきゃいけなかったんだ!?」

加賀が追及する。

「そりゃあ、めんどくさくて危険だったからですよ。あいつも最初の方は金になってはいたが、今となっては利用する価値もない。それにしても、世間からは殺人鬼だとかなんだとか言われてるようだけど、あんなの僕と比べたら下等なバカでしかない。ナイフを見せるまで、こちらの殺意になんて微塵も気付きやしねぇんだからな!」

「ほら、行くぞ」

怒りとあきれの混じった声で言うと、権田は管家の手に手錠をはめた。

「まあ、あんたらもせいぜい気を付けるんだな。世の中、欲にまみれたやつだらけだからよ。くくっ! ひゃはは!あっははははは!」

彼は捨て台詞を吐き残していくと、そのまま連行されていった。

「なんか、一日が長かったな」

新部は管家の背中を見て、そうつぶやいた。

日の光が、犯罪者の影を黒く、長く染めていた。



  ◇



「ちょ、ちょっと! 部室で本読みながら何食べてんのよ! だらしないし、汚いでしょ!」

美月の声が小説部の部室に響く。

「ううぅ」

青野がコーンフレークを食べる手を止める。

「学校でコーンフレーク!? 信じらんないわ」

美月があきれた目で見た。

「まあまあ。食べやすいし、おいしいじゃん」

「何がまあまあ、よ! あ! 本にかかってる!」

「あ、やべ」

青野が慌てふためき、持っていたスプーンを落とすと部室の床に牛乳の水たまりができた。

「ちゃんと掃除してよね!?」

美月が青野を睨む。

「わかりましたよ。はいはい」

青野がめんどくさそうにそう言って立ち上がると、バケツにかかっている雑巾を取った。

「にしても、コーンフレークってそんなに変かな。ヨーグルトよりましだと思うけど」

文句をいいながら床を拭く。

「どっちもへんだし。それに、どっからヨーグルトが出てきたわけ?」

「いや、別になんでもないよ」

青野は床を拭く手を速める。

「ちょ、きになるんだけど。なんなのよ」

「だーかーらー、なんでもないって言ってるでしょ!」

探偵の声は部室の中に弱々しく流れるのであった。

*作者からひとこと*

終わった……。

最後の落ちがいまいちです。反省しなくては。


試験の為次回の話は7月10日に投稿します。

これからもよろしくお願いします。



次回

歩道橋に書かれた英単語!?

それに隠された秘密とは!?

CASE4 歩道橋の英単語

FILE.18 落書き



Next hint

・歩道橋

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