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氷の微笑み



(ていうか玲雄奈さんって、絢人と二人きりの時はこんな感じなんだ)


 正確には周囲の目がない時、か。

 そういえば、と記憶を探る。

 完全に二人きりのシーンって、作中にはなかった気がする。


(まあ玲雄奈さんが強い違和感持ってる空気は今のところないから、絢人の方はこれでいつも通りな感じみたいだな……)


 絢人も二人きりの時はデレデレとかだったら、詰んでいた。

 そうなるとお手上げだった。

 振る舞い方が、わからない。

 もう頭を打って記憶喪失パターンしか、打つ手がなかった。


「ところで絢人様、本日のご報告なのですが――あの、入室してもよろしいでしょうか?」


(え?)


 ドキッとした。

 絢人以外の『えすぷり』の作中人物に、面と向かって会う。

 ――どんな感じなんだろうか?

 が、ここでの入室はいつものことみたいな言い方である。

 断れば、違和感になりかねない。


「入れ」

「失礼いたします」


 スーッ、と引き戸が静かにスライドする。

 板敷きの床に膝を綺麗に揃えてつく槇嶋玲雄奈が、現れた。


(うわぁ……相変わらず、お綺麗な顔で……)


「? 絢人様、どうかされましたか?」

「どうもしねぇよ。さっさと、報告しろ」


 言いつつ、なんの報告かまるでわからない。

 アニメに朝の報告シーンなんてなかったし……。

 玲雄奈が差し出したのは、タブレットだった。

 錠剤じゃなくてスマホのでかい版の方のデバイスである。

 10.5インチくらいの大きさだ。

 なんか昨夜から今朝にかけての云々うんぬんの報告らしい。

 本日のスケジュールとかではないのか。

 とりあえずしばらくは、ひたすら報告を聞く体で乗り切れた。


「次はこちらをご覧になってください。まずは……」


 説明の取っかかりを聞いて、理解できた。

 あーなるほど。

 株式投資とか、そういう話ね。

 ふっふっふ……。

 実は姉のアヤネが株をやっていて、アヤトはよく愚痴を聞いていた。

 用語もそれなりにわかる。

 完璧だ。

 玲雄奈が、報告をはじめる。


「…………」


 あれ?


 いーぴーえす?

 あーるおーいー?


(な、なんか聞き覚えのない横文字っぽいのがやけに多いんですけど……)


 あ、あれ?


(ねえさんがいつも言ってる単語が、で、出てこない……?)


 無限ナンピンとか。

 ドテンショートとか。

 スケベ買いとか、イナゴタワーとか……。


 言われるまま、絢人はスワイプしていく。

 PDFファイルの画像が次々と目に入ってくるが……。

 いや、普通に横文字以外もある。

 読めないわけでは、ないのだが――


(さ、さっぱり何が書いてあるかわからん……ッ! ほぼ日本語なのに、わからん!)


 絢人は、ディスプレイから視線を上げる。

 玲雄奈には、皇帝然とした怜悧れいりな眼光に見えるかもしれない。

 が、その心は不安の様子見EYEである。

 正直この分野、それまでの報告以上に何もわからない。


(なんか聞かれたら、どーしよ……こればっかりは、ごまかしがきかない気がする。そして、何も知らないだと明らかに違和感が出る。きっとリアルなお金が絡んでることだし……やっぱり……どこかでわざと頭でも強くぶつけて、その影響での記憶喪失パターンを組み込むしかないか……)


 玲雄奈が、


「問題がなさそうでしたら、いつも通りわたくしがすべて処理いたしますが……いかがいたしましょう?」


(……なんだと!? すべて、玲雄奈さん任せでいけるのかっ!? ならもちろん――)


「任せた」

「承知いたしました」

「つーか……これについちゃあ、当面はテメェに任せる。よっぽど報告すべきことがあるか、オレ側からこのことについて切り出さねぇ限りは玲雄奈――今後は、おまえの判断でやれ」


 というか、そうしてもらわないと困る。

 マジで。


「よろしいの、ですか?」


「あ? 何言ってやがる――槇嶋玲雄奈は、このオレが認めた右腕だろうが。テメェ……オレの判断に、何か不服があるってのか?」


 玲雄奈の目が、まんまるになる。

 次に、彼はサッと面を伏せた。

 あれ?


(照れてる……?)


「――ありがとう、ございます。かしこまり、ました……この槇嶋玲雄奈、必ずや絢人様のご期待に応えられるよう今後とも全力を尽くします」


「チッ……大げさなヤツだな。いちいち何度もこうべを垂れる必要はねぇだろ。今は、顔くらい上げとけ」


 というか、自分の方が慣れていないのだ。

 人からこうしてペコペコされるのに。

 妙に、むずがゆい。


「はい……申し訳ございません、絢人様」


 顔を上げた玲雄奈は、身を震わせる感動を抑えるみたいな表情をしていた。

 より信頼されているとわかり、素直に嬉しいのだろう。

 しかしその実態は、すべて任せざるをえないこちらの都合なのだが。


(しかし玲雄奈さん……ほんと美人さんだよなぁ……)


 二人きりのせいか、アニメ時のけんも取れているのでなおさらである。

 しかも、超有能。

 作中で〝敵〟として登場するとあんなに厄介で恐ろしかったのに。

 こうして味方になると、これほど心強い存在になるとは。


(ほんと、玲雄奈さんがいてよかった……)


 何より助かるのは。


 おそらく玲雄奈は、やや無理があっても――


「玲雄奈」

「? はい」

「正直、おまえの存在には助けられてる。今後とも頼むぞ」

「――――――――」


 いよいよ感動が顔にフルで出るのを抑えられなくなったらしい。


 目もとを緩ませ――玲雄奈が、はい、と微笑んだ。



「お任せください、絢人様」



(……うわー)


 この時、本気で思った。

 惜しい、と。


 それは、ほんの一瞬だけ――初めて神である創造者の花園会を〝無能〟なんて風に、思ってしまったほどで(すぐに心の中で、全力土下座したが)。


 それくらい、思わされてしまったのだ。


 もったいない、と。


(この微笑みがもし、作中でお披露目されてれば……)



 通称〝冷酷執事〟槇嶋玲雄奈のファン層は絶対、もっと広がっているに違いないのに。





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