見知らぬ天井……なのか?
――パチッ――
目が、覚める。
知らない天井、だった。
「…………」
見知らぬ天井、ってことは――
(夢かぁ)
夢だと認識できている。
明晰夢ってやつか。
それにしても、
(……意識、はっきりしすぎじゃない?)
まるで現実みたいだ。
明晰夢を見た経験はある。
でもこんなはっきりしてる夢は初めてだ。
一度、上半身を起こしてみる。
ボーッと周りを見回す。
(和室? てか……広っ!?)
しかも、
(あれ? 天井はともかく……この部屋、どこか見覚えあるような……?)
夢の正体は、この二つと言われているらしい。
願望の成就。
記憶の整理。
(なら記憶にある風景なのは当然か。でもここ……どこだっけ? 確かに知ってる場所な気はするんだけど……来たことあった? 動画とかで見たのかな? ま、いいや――)
掛け布団をのけ、立ち上が――
(――この羽毛布団、軽ぅっ!?)
のけた布団が、くしゃり、となっている寝床へ改めて視線をやる。
げぇ、と思った。
(すっごい高そうなお布団な気が……味わったのは一瞬だったけど、寝心地が全然違ったし……)
我が泉アヤトの寝床とは天と地の差である。
こんなに違うか――謎の高級布団セット。
ショックだった。
同じ布団なのに、こんなにも差が。
今まで自分の寝てた布団とは一体……。
しかし――使い慣れた布団に、勝るものなし。
謎に言い聞かせ、磨りガラスの二重窓へ視線を移す。
外は明るい。
――チュン、チュン――
朝チュン……。
(ゆ、夢でよかった……)
現実ならつまり、イコールで寝過ごしてるわけで。
シーズン4の最終話、見逃してるわけで。
(ていうか、これ……目が覚めないと『えすぷり』のシーズン4最終話、いつまでも見れないのでは? 夢、なんだよな……?)
伝統芸であり、お約束。
ほっぺを、つねってみる。
むぎゅぅっ!
「…………」
(い、ったぁああ――――ッ!?)
夢の中の自分、力ありすぎでは!?
(それに……なんか視線の位置が、高い気が……?)
高身長の世界?
今、憧れの180cmを突破していたりするのだろうか?
(あ、姿見がある……)
和っぽい姿見。
そして――高級感しかない(というか部屋自体、全体的に高級感が……)。
鑑定してもらったら、けっこうなお値段がつくのでは……?
(そういえば、夢の中の自分の姿とかって見たことないかも)
「いやまあ、おんなじ見た目だろうとは思うけど……でもなぁ、握力とか身長が明らかに違うっぽいし……、――んんっ!?」
(なん、だ……これ?)
この声。
明らかに……自分の声じゃない。
本来の自分の声はもっと高い。
というか――
「イ、イケメンボイス……」
語彙の貧弱さに泣けてくるけれど。
しかし表現としてはあながち、的を外してもいまい。
さらには妙に――心地良い響き。
個人的に、とても好きな声。
現実もこの声だったら自信が持てそうだ。
はっきりと、自分の声以上に好きな声だと言える。
「んん?」
(あれ? 待てよ……なんか、この声――)
「普段から、よく聞いてる声な気が……? うーん……でも、誰だっけ? 知り合いなのは、間違いないと思うんだけど……」
ぶつぶつ言いながら、ぼへーっと縦長の鏡の横に立つ。
あくびをし、頭を掻く。
自然と出た動作だった。
で、顔を鏡の方へ向けてみる。
「…………」
時間が、停止した。
……チュン、チュン……
静謐な朝。
朝チュンだけが、効果音だった。
「………………………………は?」
そこからさらに――長い長い、沈黙。
もう一度、アヤトは言った。
「は?」
再びの、間抜けな反応。
しかし間抜けな反応なのに声は、やはりイケメン。
いや、そんなことより──
イケメンどころの騒ぎじゃ、ない。
「――――こ、これって」
驚くのと同時に、すべてに得心がいった。
脳内で、エセ三段活用が躍る。
そっか。
そうだよ。
そうだって。
知っているシーンは全部、暗かったんだ。
そして暗いせいで……天井は、見えないに等しかった。
でもこの部屋には、なんとなく見覚えがある。
ていうか――頭がはっきりしてきて、わかった。
この部屋には、見覚えしかない。
で、この声……
この顔。
姿見の左右を両手でおさえ、穴が空きそうなほど鏡の中の自分を注視する。
手が、震える。
……プル、プル……
「夢の実態は、願望成就とはいえ……ゆ、夢の中でまさかの……」
見間違えようはずもない。
今、鏡に映っている浴衣みたいな服装の男は。
どう見ても、あの『えすぷり』の――――
「皇泉院、絢人ぉぉおおおお!?」
その時、
「絢人さま!? ど、どうされました!?」
引き戸の向こう(確かアニメだと、向こうは廊下だった記憶)から、呼びかける声。
(あ――)
この声も、知ってる。
純和風な部屋とは微妙にミスマッチな出で立ちの、皇泉院家の黒き冷酷執事――槇嶋玲雄奈の声。
(あれ? でも、今の声の感じ……)
あたふたした、狼狽気味な声。
しかも――声が。
凍りついて、いない?
そう……槇嶋玲雄奈だとすれば、それは似つかわしくない。
(うん?)
記憶違い――人違い、だろうか?
…………冷酷、執事?
次話は明日5/7(木)19:00頃の更新予定です。




