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悪帝の楽園  作者: 篠崎芳
14/22

着信


 別作品の作業関係でまだ余裕はない状態なのですが、できれば次話も3日以内には更新できれば……と考えております。






 昼食後、絢人たちは車で駅近くのアウトレットモールまで移動した。

 黒薔薇がそろそろ到着するのだとか。

 で、待ち合わせ場所にここを指定してきたのである。

 絢人は心の中で、唾を飲み込む。


(いよいよあの黒薔薇さんと、ご対面かぁ……)


 皇泉院黒薔薇。


 絢人の母であり――皇泉院の絶対的女帝。


 作中の〝ラスボス候補〟として有力キャラの一人でもある。


 ただ、ファンの間だと黒薔薇はあまりにとも言われている。


 だから逆にラスボスってことはないんじゃないか――とか。

 いやいや誰もがそう思うからこそ逆にラスボスなのかも――とか。


 シーズン4最終話の時点では、ファンの間でも予想が分かれている。

 花園会は、


〝ラスボスが誰かは、最終話までに明確に示される予定です〟


 こう宣言していた。

 なので、誰がラスボスだったかをファンの想像に委ねる形にはならない。

 それだけは、はっきりしている。


(それにしても……)


 絢人の思考は今、彼の降り立ったモールの敷地内に向けられていた。

 ここが、ショッピングや食事を楽しむ目的の場なのは言うまでもない。

 しかし……全体の造りや雰囲気が本当に〝観光地〟だなと感じる。

 場所そのものが、まるで自分たちを歓迎してくれているかのようだ。


(姉さんによると、軽井沢はなぜかテニスのイメージが強いらしいけど……)


 ここ最近は、週末に首都圏からぶらっと足を運べる人気のプチ旅行先でもあるとか。


(まあ――)


 それは現実世界での話であって、この世界も同じかは不明である。

 そもそも花園会は、あえて作中世界の年代がいつなのかを明言していない。

 だから泉アヤトにとっての〝ここ最近〟と同一の世界なのかも不明なのだ。


 絢人たちはまずフードコートに入った。

 そして、お洒落なジュースを飲んだ。


(有名観光地はフードコートも……ジュースさえも、お洒落ポイントが高いのか……)


 見た目だけじゃなく、ちゃんと味も良かった。


 ちなみに記念にジュースを撮影したかったが、それは悪帝らしくないので泣く泣くやめた。



     ▽



 三人でフードコートを出る。


 そのまま軽く屋外中心にモールの敷地内を歩いて見て回ることにした。

 まあ――絢人がそうしたかった。

 二人を連れ回す感じになって申し訳ない気もする。

 けれど玲雄奈は、


「絢人様が行きたいところが、わたくしの行きたいところでございます」


 と、いつもの調子だったのでホッとする。

 虎葉は、


「わ、私もっ……初めてですので、色々と見てみたいですっ……ご、ご一緒させていただけるのでしたらっ……」


 初々しめな可愛らしさを今回も、存分に発揮していた。

 絢人はキャラ的にいつもの舌打ちをし、


「仕方ねーな。はぐれんなよ」


 口ではこう言いつつ、


(ご一緒していいに、決まってます……ッ!)


 心の中では、許可を出しまくっていた。

 しかし――店の並びの景色そのものが、もうお洒落である。 

 もはや語彙力乏しく〝お洒落〟を連発するしかないほど、ひたすらにお洒落。

 特にこんな晴れた日だと、モールの景色を眺めるだけで観光気分にもなれる。


(元の世界の自分じゃ一生来る機会がなかった説すら、ある……)


 だって――思いつかない。

 自分がどこをどうしたら軽井沢に行こうと思うのか。

 というか、旅行自体あまり行かない生活だったわけで。

 なのに好きなのは、旅行系の動画だったりするという……。


(いや、家にいながらスナック菓子やコーラを飲み食いしつつ……動画を見て旅行気分になれるだけで、自分的にはもうけっこう幸せというか……)


 氷点下の日にキャンピングカーの中で過ごす動画とか、大好物である。

 とまあ、そんな泉アヤトの趣味はともかく――


「つーかよ……ぞろぞろオレについて来なくても、他に行きたいとこがあれば勝手に行ってきていいぞ。集合場所と時間さえ決めときゃいいし、いざとなりゃあスマホで連絡取れるしな……」


 絢人のそばにいることそれ自体が幸福らしい玲雄奈は、ともかく。

 虎葉は個人的に行ってみたい場所とか、興味あるお店とかがあるかもしれない。

 すると虎葉が、


「あの、絢人様――でしたら少しだけ……こちらを離れても、よ、よろしいでしょうか……?」


 絢人は自らの視線の先を、あごで示す。

 半屋外の、これまたお洒落なテーブル席。


「オレたちは飲みもんでも口にしながら、あそこでちょっと話したいことがある。だから戻ってくる時は、あそこに来い」

「は、はいっ――あの、それほどかからないとは思いますので……」

「チッ……別に、そんなせかせかすることもねーだろうが……」

「も、申し訳ございません」


 巾着を手に、ぺこり、と頭を下げる虎葉。


 そして、なるべく早く済ませてまいります――と。


 そう言って踵を返すと、小走りに人の群れの中に消えて行った。

 彼女の背中を見送る玲雄奈が、


「念のため、わたしがついていきましょうか?」

「――、……いや、必要ねぇだろ」


 なんとなく、なのだが。

 一人になりたそうな空気を、微妙に虎葉から感じ取った気がしたのだ。

 もしかすると、お手洗いかもしれない。

 とすると男である玲雄奈が監視のため、尾行というのも……。


(うーん、ただ一つ懸念点が……)


「おい玲雄奈……それより、黒薔薇のヤツはまだ到着しねーのか」


 まるで自分に責があるみたいに、慌ててスマホを確認する玲雄奈。


「も、申し訳ございません……そろそろ、ご到着するはずでございますが」

「まだ、到着してはいねーんだな?」

「はい。ご到着しましたら、わたしに連絡が来るはずですので……」

「チッ、ほんとあの女は自分中心に世界が回ってやがるな……」


 ならいい。


〝虎葉が一人の時、黒薔薇に遭遇する〟


 これだけは、防ぎたかった。


(まあ、まだ到着してないなら大丈夫そうか……)


 ちなみに先ほど絢人が口にした”自分中心に世界が~”は、作中で絢人が黒薔薇に対し口にしていた台詞のアレンジである。



     ▽



 皇泉院絢人は、それを見逃さなかった。


(え? 虎ちゃんから着信? あ――でも、すぐに切れた……)


 虎葉がここを離れてから、5分くらいが経過していた。

 どうしたのだろうか?

 絢人は、かけ直してみた。


「…………」


 が、出ない。

 屋外の店でカフェラテを二人分買った玲雄奈が、ちょうど戻ってきた。


「いかがされました、絢人様?」


 絢人は立ち上がり、玲雄奈に今の着信について話した。


「――わたしが新幹線の中でお渡しした、スマートフォンからですね」


 虎葉はそれを巾着の中にでも入れて、持っていたのだろう。


「そのスマートフォン――位置情報で、場所が特定できるって話だったな?」


 事前に玲雄奈から説明は受けている。

 万が一の時、これで虎葉の居場所はわかる。

 だから安心して一人で行かせられた、というのもあった。


「何か……間違えて通話ボタンを押してしまい、気づいて慌てて切った――ということも、考えられますが……」


 今のは、玲雄奈なりの気遣いだろう。

 もしただの押し間違いだとすれば。

 何ごとかと絢人が向かえば、きっと虎葉は申し訳なさでいっぱいになる。

 妙な偶然が重なり、巾着の中で通話ボタンが勝手に押された可能性。

 これは、ありうる。

 で、慌てて通話を切った……。

 とすれば――気づかないふりが優しさというもの。

 虎葉が気を揉んでいるなら、上手くフォローの言葉をかけてやればいい。


 ――けれど。


 もし……



 



(……あるいは)


 不意に。

 絢人の頭の中に、皇泉院黒薔薇のビジュアルが浮かぶ。


「…………」


 しかし、と思い直す。

 他でもない絢人に、虎葉が同行していると黒薔薇が知ったなら。

 それは、絢人が同行を了承しているということだ。

 絢人になんの説明もなしに、彼女が虎葉に手を出すだろうか?

 そう、溺愛する息子の意思が絡んでいるとすれば……

 黒薔薇のキャラを考えると、それはあまりに――



「……ともかく、行くぞ」



 すでに――絢人は、動き出している。


「玲雄奈、あいつの場所は?」


 カフェラテの容器を素早くテーブルに置き、玲雄奈も続く。


「遠くはありません。絢人様、わたくしが先導しても?」


 その方が速い、と。

 効率的に、そう判断しての提案だろう。


「好きにしろ。それともう一度、かけ直せ」

「はい」


 ほどなく玲雄奈がスマートフォンから視線を上げ、


「お出になりません」


 蓋を開けてみれば、実際は大したことじゃないのかもしれない。

 やはり、巾着の中で勝手にボタンが押されてしまったとかなのかもしれない。

 だけど――それならそれで、別にいい。


(その時の虎ちゃんのフォローなんて――)



 いくらでも、やってやる。



(それに……あの子ならすぐに〝今のは、間違って押してしまって……ッ〟みたいに、慌てて連絡してくる気がする……)


 単に怖くなって、かけ直せなくなっているパターンも考えられるけれど。

 それでも――――


「玲雄奈」

「はい」

「警報とか、備えってのはな……」


 極力急ぎながらも――不敵に鼻を鳴らし、絢人は言った。











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