影丸走る!
令和のホ-ムズは千葉に居た?本人自覚無し?
ここは千葉県千葉市西千葉にあるマロンド通り近くの喫茶店シャドウ。最近はだいぶ学生生活も洒落て来ていてこの辺りの店が垢抜けてきた。しかし一方で昭和っぽい雰囲気への郷愁からか、シャドウのような店にも一定の顧客がある。「何が郷愁よ、お兄ちゃん、この店やっぱりやばいんじゃない?」て優しく?言ってくれるのは影介の苦手な、いや愛する妹の彩だ。「いやあ、僕と影丸だけ食べていければいいからまあ大丈夫だと。。」
「少し美味しいドックフード買ったらお兄ちゃん食べられないんじゃない?」影丸というのは影介の愛するポメラニアンである。「まあお父さんに言えばなんとかなるんだからいいけど。」その言葉には影介は敏感に反応してしまい、「親父のことは言うな。確かにこの店も親父名義、いや実際には陽介兄さんの、、まあいいや。」
影介こと、舎岩影介はこの喫茶店シャドウのマスターである。妹の彩はこの辺りの地域の新聞社西千葉日報に勤めていて記事を載せて紹介していたりするがこの店は身内なので紹介に取り上げてはくれない。
「そう言えば最近この辺に犬泥棒が出るらしいよ。気をつけてね。」
「ウチの影丸は大丈夫だよ。」
「気をつけてね。」と影丸を抱いて言いきかせながら彩は影丸とじゃれた。
千葉総合大学がそばにあり、犬の散歩コ-スが結構あるこのエリアは早朝よく散歩している人に会う。影介はよくこの周辺をジョギングした。最初は影丸も走るのだが、影丸はすぐにバテるのでその後は抱えて走るのだ。「おはよう、影介さん!」声をかけてくれたのは近所で甘味処を営む亜紀さんだ。「おはようございます。亜紀さん、ラッキーもおはよう!」亜紀の横で尻尾を振るのはその愛犬のコ-ギ-だ。「そう言えば、この前の新商品のずんだ餅、良かったです!」「ありがとう、仙台の実家の秘伝のずんだ餡なの。良かったわ。ところで聞いた?なんか犬泥棒が出てるとか。」
「ええ、彩に聞いたら、店先とか外に出た時に狙われているらしいです。でも不思議なことにすぐ放され、帰ってくるんだそうです。」
「不思議ねー。なんなのかしら。ウチのパ-トの安藤さんのウチは豆柴を飼っていて不安がっていたわ。」
影介は自宅に帰ると階下の喫茶店で朝食、モ-ニングのゆで玉子を作った。影丸に餌を与えて
換気を兼ねてドアを半開きにする。上に鈴があり広く開くと鳴り客が来るとわかる。いつものように店でラジオを聴きながらモ-ニングを済ませると8時からの開店に備えて影丸にリ-ドをつけようと思ったら「え?影丸?」何と影丸が居なくなっていたのだ。すぐに影介は影丸のGPSを見る。首輪にセンサーをつけているのだ。えっ?大学に向かっている?影介は飛び出すと大学に向かう。門の前で吠えまくる影丸を見かける。守衛さんと一人の学生さんに吠えているようだ。「すいません、ウチの犬です、何かありました?」
守衛の仁さんは知り合いだ。「あ、シャドウのマスター、こちらお宅の犬ですか?なんかこちらの学生さんが付いてこられて大変だったようで。」
それはトレ-ナ-とジ-ンズのラフな格好の女学生だった。「このワンちゃん、急に追いかけてきたの。どうしたのかしら。」
「ご迷惑かけてすいませんでした。」
影介は平謝りすると影丸に念のためリ-ドを付けて帰った。
「一体どうしたんだ?ドアの隙間から飛び出したな。この辺は車も多いから焦ったぞ。」
店に帰ると影丸は気にもかけない様子で定位置の大きなバスケットに飛び込んでこちらを眺める。
「全く!」と影介がこぼしていると、
「おはよう。」と友人の蘭さんが現れる。理学部の助教だ。「焦ったよ、蘭さん、影丸が飛び出して大学に向かってさ。」
「お、ついに影丸も学問に目覚めたか。」と影丸を見るが、影丸はじっと見つめ返すだけだった。
「最近、我が理学部にも社会貢献なるものを求められて大変だよ。」
「お金のことなんて考えずに研究したいよな。」
と影介が同情しながら話すと「何言ってるのよ。早々に大学に見切りをつけた人間が。」
「見切りつけられたんだよ、俺は。」
「ところで、この間の論文読んでくれた?」
「ああ、いい論文だった。微生物を使ってあんなもの作るとは意外。」
「でしょ?副産物なんだけどね。」
「そりゃわかるよ。あんな低分子を狙って作るのは至難の業だ。」
影介は大学院は出たが、博士論文の特許化でいざこざがあったとかで、研究はやめてしまったのだ。
「そう言えば最近土壌の研究をし出したグループがあって園芸学部と組んで面白いことやってるみたい。」
「土壌?何するの?」
「肥料の研究みたいなんだけどわからないな。」
「ふ-ん。」
「失礼します。」
そこへ突如執事風の紳士が店に入って来た。
「いらっしゃいませ。」影介が言うと、彼は窓際と反対方向の奥の椅子に座る。影介が水を持って行くと、「あの、伝言を。」と封筒を渡される。見ると親父の会社のだ。「陽介兄さんからですか?」親父が連絡くれる訳ない。あるなら陽介兄さんからだろうと影介は考えた。
「コロンビアコ-ヒ-を。後、伝言は少し複雑なので店を閉めてからお一人で見るようにとも指示されております。」
影介は「わかりました。」と言うと手紙はエプロンにしまった。コ-ヒ-を用意しに戻り、慎重に淹れたものを出す。紳士は一口飲むと「美味しいです。さすがですね。」と話すと持参した新書をしばらく読んでから出て行った。
その日は客はまばらながら1日中途切れることがなかったので、夕方には影介は手紙の存在を忘れてしまっていた。気づかせてくれたのは影丸で、店を閉めて上に上がろうとした影介に脱いでハンガ-にかけていたエプロンに噛みついて見せたのだ。それで垣間見れたボケットの手紙に気づき、「あ、そうだった。影丸、サンキュー。」と手にとって上に上がり、部屋でカモミ-ルティーを入れてから手紙を開ける。「親愛なるシャドウへ」と始まる手紙を影介は無反応で読み進める。
「親愛なるシャドウへ またそろそろ目覚めてもいい。周りの人達のことを考え、疑問に感じることがあれば調べてもいい。但し君は目立たないように。」
影介は呆然とした表情でカモミ-ルティーを飲んだ。影介は思い立ったように立ち上がると戸棚から黒縁の伊達メガネをして階下の店に行き、店の電話から妹の彩に電話する。「彩か?シャドウだ。」
「わかってるわ。」と電話口と店のドアから同時に彩の声がした。舎岩家の会社筋から連絡は彩に入っていて店にやって来たのだ。
「シャドウ、久々の登場ね。大人しくしてほしかったけど。でも約束通り眼鏡をしてくれてるのね。」
「俺は約束は守る。影介あっての俺だからね。さて昼間の犬泥棒の話だ。詳しく聞かせろ。」




