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「おいコラァ! 大文字さんよぉ! あんた今何やってんのか分かってんのかぁあん!?」
胸ぐらを掴まれた白い特攻服の男は足をバタバタと動かしながら怒鳴る。他の連中とは違い、ビビっていることはなさそうだ。
「暴力、良くない。やり過ぎだ」
巨人スキンヘッドは原始人語で返事をする。どうやら二人は知り合いのようだな。
「ああ゛!? あんたが何もしねえから俺がやってやってんだろ! それに姐さんは邪魔しろって言ってたろうが! やり過ぎも糞もあるかよ!」
「周りに迷惑だ。あまり大きな声を出すな」
「うるせえ! 俺に命令す──っ!?」
巨人スキンヘッドは白い特攻服の男をビルの壁に叩きつけるように投げつけた。骨が砕けたような鈍い音が聞こえるも、白い特攻服の男は少し顔を歪めた程度ですぐに立ち上がる。
「いってええなぁ!!」
白い特攻服の男は顔を真っ赤にして巨人スキンヘッドにバットで殴りかかる。しかし簡単に片手で受け止められると、再び胸ぐらを掴まれて投げ飛ばされた。
二度も壁に叩きつけられてさすがに堪えたのか、白い特攻服の男は壁際に座り込んだままなかなか立ち上がらない。
「ッ! この馬鹿力が! おいお前らも手伝えよ!」
「え、あ……」
白い特攻服の男は援護を求めるが、仲間たちは気が進まないようだ。
「おいコラァァ! このままじゃお前らも姐さんにブチ殺されんぞ! それでもいいのかぁ! あぁ゛!?」
一歩も動こうとしない仲間に怒号を飛ばす。
すると、「………………う、うあああ!!」
怯えるような表情のまま、残りの暴走族らも一斉に巨人スキンヘッドに殴りかかり始めた。
「うらああ!」
「くそがあ!」
さて、何やら不良映画で見たような映像が俺の目の前で繰り広げられ始めたわけだが、これは俺にとってチャンスである。
「……」
巨人スキンヘッドと戦う暴走族の光景はもう少しだけ見ていたいような気もするが、俺はそっと立ち上がり、気付かれないように忍び足でこの場から離れる。
何者かは相変わらず不明だが、今回のことは巨人スキンヘッドに感謝しよう。
しかし『姐さん』などという言葉が何度か聞こえたが、それはやはり、誰かが意図的に俺の邪魔をしているってことなのだろう。
少なくとも、神様なんて曖昧な存在ではなく、現実にいる誰かしらが俺の邪魔をしていることに違いない。
……まあ、巫女だろうな。
ただでさえクレイジーで面倒なゲームだってのに、さらに邪魔を入れてくるなんてのはドSなんてものじゃない。
鬼畜だ。
あいつは俺のいる場所を常に監視してる。てことは警戒していてもあまり意味は無いってことだよな。午後八時までに起爆を止めないと両腕が吹っ飛び、最悪死亡。
そしてゲーム中は奇人変人が次々と俺の邪魔をし、最悪命も狙ってくる。
「へ、へへへ……」
笑うしかない。
無理にでもポジティブに考えれば、邪魔を入れたりでもしないと簡単にクリア出来てしまう程度のゲームだということだ。
さすがにそう思い込むことは至難ではあるが、そうでも思っていないと精神が崩壊してしまう。
「あー」
俺が今こんなに苦しんでいるのに、花村たちは動物園で楽しんでいると思うと腹が立って仕方がない。腹の奥底では様々な感情が入り混じり、脳も身体も熱くなってくる。
自分に落ち度が無い分、ストレートに巫女が腹立たしい。憎しみも湧いてきた。
どうして俺がこんな目に遭わなければならないのか、そんな疑問の原点に戻り、この答えの無い問題に頭を圧迫される。
……。
落ち着け。落ち着け。
俺が取り乱すことも巫女は計算しているのかもしれない。
とにかく!
今は巫女のマンションに戻ろう。
この怒りをあいつらにぶつけるためには、五体満足で対面しないといけないからな。
──時は刻まれ、現在『12:52』
「ゼー……ハー……ゼー……ハー……」
どうにか、巫女のマンションに着くことが出来た。
昼前に着く予定だったけど、体力はすでにスカスカだ。足が痛みだして走ることが辛くなり、徒歩でゆっくりと進んでいたら昼を過ぎてしまった。
このペースだと非常にヤバい。だからここでもう『アタリ』という文字が腕輪に表示されるといいんだけど……。
マンション前に着いてからもう五分以上は経っているのだが、一向に巫女からのメッセージが送られてこない。
これをどう判断すべきなのか、頭を悩ませているところだ。
「……」
ホントに、遅いな。まさか動物園ではしゃいでいて、俺のことを忘れているじゃないだろうな……?
「……って。ん?」
マンション前の電柱に寄りかかっている俺は、ボーっとして前方を眺めていたのだが、視界に気になるものを発見した。
それは、マンションの隣に建つビルの非常階段から、俺を狙ってカメラを構えている人間である。
俺が視線を向けると、明らかに動揺をごまかすようにカメラのアングルを変え、『別に狙ってませんでしたよ』ということを不自然にアピールしていた。
……何で俺が撮られているんだということより、そこで何をやっているんだということに疑問を持った。
まさか……盗撮?
いやでも、あんなバレバレの場所で盗撮をする馬鹿がいるのか?
確かにこの周辺はマンションなどが多いので、あのカメラ野郎がいる場所から、何かしらのエロティックな光景が見えていてもおかしくはない。
しかし、バレバレだ。
遠目で見た感じ、中年の男。この距離からだとただの盗撮魔にしか見えないが……そうなると俺を狙っていた意味が分からないよな。
たまたまアングルが向いた時に視線が合っただけなのかもしれないが、何だかそれでは納得できない。
と、考えている間に、カメラ野郎は何事もなかったように平然とした態度で階段を下り始めた。
視線を送る俺に頭を向けることはないが、無言で語られる『私は何も悪いことをしてませんよ』アピールが凄い。
焦ってないことを伝えたいのか、わざとゆったりと階段を下りている。ただ俺を意識しているのは間違いない。だって俺の方をまったく見ないもん。
だが、どうするかな。
盗撮を問い質してみたとして、本当にただ風景を撮影していただけなら申し訳がない。というかハズい。何より、今盗撮なんかをいちいち気にしている場合かって話だ。
でもなあ……勝手に写真を撮られていたとなると気持ち悪いよなあ。
……うしっ。




