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只今、監禁中です  作者: やと
第六章 鮮血の美少女
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 ──時刻は、『10:49』


 なかなか長い距離を歩き、丘馬町に着いた。まずは小学校に向かってみたが、送られてきたメッセージは『ハズレ』だった。

 小学校と中学校の距離は近いのですぐに向かったが、またもや表示されたのは『ハズレ』だ。


 つまり、「……」


 早くも詰んだわけだ。


 学校という答えは結構自信があったので、頭は一気に真っ白になる。他に俺が行ったことがあって、これからは行く必要のない場所ってどこだよ?


 ……ぜんっぜん分かんねえ。


 パッと幼稚園は思い浮かんだけど、これまでの流れだと絶対に違う気がする。でも、他に何も思い浮かばない以上は行ってみたいのだけど──俺が通った幼稚園ってかなり遠いんだよな。


 小学校に入学するまでは田舎の方に住んでいたので、徒歩でその幼稚園まで行くとなれば一日はかかる。とても夜八時までに行ける場所ではない。


 ……はっ!?


 閃いたぞ。

 もしかして、巫女の家とかなんじゃねえの?


 ヒントと照らし合わせると微妙な感じはするけど、俺の心情としては二度とあそこに戻りたくはない。行く必要の無い場所だ。

 それに巫女の性格を考えると、多少はひねくれた解釈をしなければ答えに辿り着けないような気がしてきた。


 うん。あり得る。

 いや、無くはないという感じだな。


 ハッキリ言って自信はないんだけど、可能性が僅かにあるのなら、行ってみる価値はあるか……。悩んでいる時間も勿体ないし、数打ちゃそのうち当たるだろう作戦でいこう。


 いこう。

 い……こう。


「???」


 体の向きを変えて前に足を踏み出そうとしたところ、俺の全身に影がかかる。


「たこ焼き、食えよ」

「……え」


 頭を上げると、目の前にはアロハシャツを着た、二メートルほどの身長があるスキンヘッドの男が立っていた。年齢は三十代くらい。よく見ると眉毛も無い。というかめっちゃ怖い。


「たこ焼き、食えよ」


 スキンヘッドの男は、つまようじに刺したたこ焼きを真顔で俺にすすめてくる。


 察しの良い人間ならば俺の気持ちを分かってくれているだろう。眼前の出来事が訳分からなすぎて失神寸前である。


 また変な奴が現れるだろうという心構えは確かにあったが、このたこ焼きをすすめてくる巨人スキンヘッドの出現は心構え云々でどうにかなるものではなかった。


「あ、ああ、あのの、あの、ぼ、僕に何かご用でも?」


 これでも震える体を必死に抑えながら、巨人スキンヘッドに訊いた。


「お嬢……違った。言っては駄目だった。お前、お腹ペコペコ。だからたこ焼き、食え」


 最近言葉を覚えた原始人が話しているようだ。たこ焼きを食えと言っているのは分かっているんだけど──これはなかなかの変人だぞ。


「た、たこ焼きは要りません。お腹減ってないんで……」


 胃はスカスカだったが、さすがにこのたこ焼きには唾も出てこない。


「遠慮するな。でも、みんなには内緒」

「はい? とにかく、要りませんから。すいませんけど失礼します」


 言っている言葉の意味がまるで分からないので、俺は前方に佇む巨人スキンヘッドの体を避け、相手が背を向けている間に走って逃げる。

 十メートルほど進んだところで一旦振り返ってみたが、巨人スキンヘッドは追ってくるような気配はなく、その場に佇んだままじっと俺を見ていた。


 しかし俺は走るスピードを緩めず、そのまま千億町に向かって街を駆け抜ける。


 ……一体、何だったんだろうなあの巨人は?

 偶然俺に絡んできたというよりは、意図的に俺に接触してきたような感じがした。


 まさか本当に、神様が俺の邪魔をしてんのかな──なんて。

 まあ、気のせいだろう。厄日であることは、確定しちゃったけどな。



 ブォンボボ! ブォンボボ! ボボボボブォンボボ! ブンブブブン!


「ん?」


 走っている俺の背後から、バイクのマフラーをふかす爆音がリズムに乗って轟いた。すぐさま後ろを振り向くと、車道を我が物顔で走る暴走族の集団がバイクを蛇行運転している。

 マフラー音が聞こえた時点で予想は出来ていたが、まだ都内でもこういう集団の人達って絶滅していなかったんだな。


 それにしてもわざわざこんな時間から人に迷惑をかけなくてもいいだろうに……滅んでしまえ。

 なんて心の中では強気な発言をしていても、彼らに直接注意をする勇気の無い俺は、絡まれないように走るのをやめ、目立たないようによそを向いて歩くことにした。


 だが、今日は厄日である。


「おいコラァ!」


 俺に言っているのだろうとは何となく分かっていたが、関わりたくないので無視をした。


「シカトしてんじゃねえぞコラァ!!」


 さすがに二度目は無視を出来ず、車道に目を向ける。そこには車道にバイクを停車させ、俺に視線を一点集中している暴走族が並んでいた。

 その八割はフランスパンを頭に乗っけたようなリーゼントヘアで、こんな寒い季節にさらしを巻いただけの上半身に特攻服を羽織っていた。

 俺の価値観からすればダサさの塊みたいな奴らだが、その格好イコール危ない人という印象しかないので後退りしてしまう。


「……」


 巨人の次はフランスパンかよ。今すぐに、厄祓いに行きてぇ……。


「お前なにジロジロ見てんだよコラァ!?」


 白い特攻服を着た男がいきなり怒鳴ってきた。頭を激しく上下に揺らし、鋭い目つきで威嚇してくる。


「いや、そっちが呼んだじゃ……ないですか」


 年下っぽいからタメ口でいこうと思ったけど、血走った相手の目を見ている内に敬語になってしまう。


「ああんっ!? お前が先に俺を睨みつけたがらだろうがああん!」


 巻き舌で怒っている男が言っているのは、おそらく俺が一度振り向いた時に睨んできたということを言っているのだろう。

 これが言いがかりでないのなら、俺は今日を持って人間を辞めたい。


「気のせいですよ。別に睨んでませんから」

「ああ゛ん!? 俺の勘違いだって言いてえのかぁん!?」


 そうだって言ってんだろ。


「お前調子に乗ってんなぁ! 俺らに喧嘩売ってただで済むと思うなよコラァ!」

「誰も喧嘩なんて……」


 うわっ……これはマズいぞ。暴走族の連中は金属バットまで取り出して、俺を集団リンチする気満々だ。

 会話をした感じ理屈が通る相手では無さそうだし、素直に逃げた方が賢明だな。


「あぁ!!」


 俺は空を指差して暴走族らの視線をよそに向け、その隙にフルエンジンで逃亡開始。


「っ!? オラァァア!! 逃げてんじゃねえぞコラァ!!」

「クソっ」


 暴走族はバイクがあるので、狭い路地に入れば逃げ切れると算段を立てていたのだが、奴らはバイクを車道に置いたまま自らの足で追ってくる。

 何も考えていないからこその行動なのだろうが、この場合はとても賢い判断だ。

 走りっぱなしで体力があまり無い俺は奴らから逃げ切れる自信はない。


「クソクソ!」


 本当にツイてない。こんなフランスパン共に絡まれてる時間なんて無いってのによ。


 何か……何か方法はないか……。


 逃げ切れる方法。


 何か、何か……。


「──っとぉ!?」


 あれやこれやと考えながら走っていたせいで注意を怠り、俺は小石につまづいて転倒してしまった。その勢いで数回前転をし、最終的に仰向けになって地面に倒れた。


「いつつっ」


 腰を強く打ちつけ、痛みに苦しむ。


「……げ」

「ははは! こいつ転けてやんの」

「マジだせえ」


 地面に倒れている俺を囲むように立つ暴走族。絶体絶命だ。


「あ、あのー。勘弁してもらえませんかね? どうかお願いします」


 こんなフランスパン一族に撲殺されるくらいなら、爆死した方がマシに思える。僅かな希望を込めて、俺は懇願した。


「おせえんだよ糞ボケがぁあ!!」


 白い特攻服の男が、俺の僅かな希望を振り払うようにバットを振りかざした。俺は目を瞑り、顔の前に手を出して構える。


 しかし、「ぶあっ!?」


 俺にバットが振り下ろされる前に、白い特攻服の男が声を上げる。それに反応して目を開けると、俺を囲んでいた暴走族の姿が見えなくなっていた。


「え……?」


 暴走族が消えていたのは視界のみの話で、体を起こして周りを見ると、少し離れた場所でまだ存在していた。

 だが、その表情は何かに怯えているように青ざめている。不思議に思った俺は、暴走族らの視線を追って見た。


「ちょ、エェェェェ!?」


 するとそこには、白い特攻服の男の胸ぐらを掴み片手で持ち上げている、先ほどの巨人スキンヘッドが立っていた。


 これはカオス。


 俺も一気に青ざめた。


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