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「ハアッ……ハァッ……」
ヤバい。もう走れない。久々に全力で走ったせいか足も痛い。
我ながら情けないが、気合いでどうこう出来るほどの基礎体力も無く──徐々にスピードダウンして、完全に足は止まってしまった。
幸いペペは俺を置いたまま走り去っていき、後ろから追いかけてきた警察官は、「ようやく捕まえた」
息を荒くしながら、俺の前方を遮るように自転車を止めた。
「ったくもう、何で君は逃げるんだよ! 一体何をしたんだ?」
眉間にしわを寄せて怒鳴る。俺は膝に手をついたまま顔を歪ませた。
「何も……ハア……してないですよ。それよりもお兄さん……ハア……俺なんかより……あの外国人、不法滞在者っすよ」
「なにぃ!? それは本当か!?」
ほんの少しだけペペが可哀想な気もするが、事実なんで許しておくれ。
「んー……ああもう! 君はここで待っているんだよ! いいな!」
悩んだ末に警察官はペペを追うことにしたようで、俺にその場を動くなと指示をしたのち、自転車を漕いで走り去る。
もちろん俺は大人しく待っているつもりなどないが、今はちょっと休憩だ。そばにある銀行の壁に寄りかかり、呼吸が整うまで体を休める。
今度はちゃんと円駕町を意識しながら逃げていたので迷ったということはないけど、また変な奴に出くわしてしまいそうな気がして道を進んでいくのが億劫だ。
今の時間は、『9:09』
時間ってこんなに早く進むんだっけ? まるで早送りをしているかのように進んでいくな。
「……ふぅ……よし」
行こう。
爆発まであと残り十一時間しかないと考えれば少ないんだけど、急がば回れだ。
少しゆっくり歩くことになっても、周りを警戒しながら進むとしよう。
ツイてない日というのは徹底的に運の悪いことばかりが起こるものだ。あってはほしくないが、この後も何か良からぬことが起きそうな気がしてならないし……。
それが両腕を失うという最悪の結果にならないように、ここは冷静に、慎重にいかないとな。
──そして、その後は何事もなく、若干道に迷いながらも無事円駕町に入ることができた。
そこからは俺も見覚えのある街だったので、母校の越知武礼高校へと難なく辿り着けたわけだが──学校自体はもう冬休みに入っているようで、門の外から見た限り人の気配は感じられない。
おそらく職員室には教員らがいるのだろうけど……いくら卒業生といっても、勝手に入るのはためらってしまうな。
大体、爆弾の起爆を解除してくれる人間のいる場所のヒントはもらったものの、その人物がどういう特徴をしているかなどの情報は一切ない。
正解の場所に着けば俺に接触しにきてくれるのか……?
まいったな。
これじゃあ正解か不正解なのかという判断が難しい。もっと強引にでも色々と訊いておくべきだったぜ。
「うーん……」
ピピッ! ピピッ!
学校の正門前で腕を組んで佇んでいたところ、突然時間が表示されていない左手の腕輪が目覚まし時計のように大きな音を立てて鳴りだした。
「え!? お! なな!!」
爆発するのではないかという恐怖と、周囲の人間に怪しまれないかという焦りでパニックになった俺はおかしな動きをしてしまう。
と、「──んっ?」
左手の腕輪に赤色の文字が表示された。カタカナで『ハズレ』と表示されている。
これはつまり……この場所はハズレという解釈でいいのだろうか?
まあ、状況を考えるとそれが妥当だろう。
そういえば、巫女は俺のいる位置をGPSで把握しているんだったな。だとすればやはり、これは巫女が俺に送っているってことか。
たぶんこの考えは間違ってないだろう。だけどそうだとすれば、この場所はハズレってことだ。つまり俺がここにいる理由はもう無い。
まだ最初だし、それは想定内のことではあるけど──次はどこにいけばいいのだろう?
他にはまだ何も閃かないしな。とりあえずは中学や小学校にも行ってみるしかないか。
……てことは、今度は丘馬町か。
行けない距離ではないんだけど、歩きで行くと考えると気が滅入るな。せめて自転車でもあるといいんだけど……窃盗は、駄目だ。
それじゃあ本当に警察に捕まっちまう。
「……」
余計な事は考えるな、だったな。俺は溜め息を吐きつつ、母校の小中学校のある丘馬町に向かって歩き始めた。
……。
丘馬町にある実家から高校に通っていたので、進む道はとても懐かしく感じる。ちなみに、巫女と出会った時に一緒にいた合コンのメンバーは、二人とも高校で知り合った友達である。
当時の俺は友達を作る気なんて無かったんだけど、三年間ずっと同じクラスだったこともあり、気付いた時には友達をしてたな。
……あいつら、今頃何してんだろう。
連絡のつかない俺を心配して、本当に通報でもしてくれてんのかなー。
……。
また、あいつらと遊ぶ為にも頑張るとしましょうか──と、無理矢理モチベーションを上げてみる。