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「何が仕事よコラ。アンタみたいなボケじじいが一体なんの職に就けると言うのよ?」
「さっき言っただろう。見ての通り、殺し屋だ」
いや、今のあんたはただの奇抜な髪型をしたおじさんです。
「殺し屋……まだそんな馬鹿みたいなことを言ってんの? ………………はぁ」
巫女は構えていた銃を下ろし、深い溜め息をついた。
「いい加減にしなさいよ。三年も経てば少しは考えが改まっているのかと思えば、何一つ変わってないじゃないの」
「ふん。わしは自分の意志を簡単に曲げるような男ではないからな」
よく言えたもんだ。
「……鰻子、どこかにライフル銃がなかった?」
巫女は突然鰻子にそう訊く。
「え。うん、エレベーターの前になんか落ちてたんだよ」
「すぐに持ってきなさい」
「わかったんだよ」
巫女の命令通り、鰻子は駆け足で外に出ると、数秒で部屋の中へと戻ってきた。
その手にはライフル銃があり、それは殺し屋が持っていた物だと思う。
「これだよ」
鰻子はライフル銃を巫女に渡した。
「ありがと」
「お、おい。一体何をする気だ?」
より一層顔色を青ざめて殺し屋が訊く。
「ふん、やっぱりただのオモチャね。何がプロの殺し屋よ。あまりのくだらなさに笑えもしないわ」
見下しながら鼻で笑い、巫女はライフル銃を殺し屋に投げ渡した。
俺はてっきりライフル銃を壊すのかと思っていたのだが、巫女はそんな気すらも失せたと言わんばかりの深い、深い溜め息をまた吐いた。
今のところまだ二人がどういう関係なのか分からないけど、二人の立ち位置の差は明白だ。
「巫女。言っておくがこれはオモチャではない。わしの相棒だ」
バン!
「どぅべぇぇぇぇぇ!?」
よほど殺し屋の発言が気に食わなかったのか、三度拳銃を発砲した巫女は殺し屋の持っていたライフル銃を撃ち抜き、容赦なく相棒さんを粉砕した。
相棒さんが壊されたせいか、殺し屋は奇声を上げた後に嘆いている。
そんな殺し屋に向けて、「そうね。確かにオモチャじゃなくて、ただのガラクタだったみたいだわ」
恐ろしい女だ。
瞬く間にサングラス、ライフル銃、厳つさという殺し屋の三神器を奪い去った。
「何をするんだ巫女! これは『お父さん』にとって大事な物だったんだぞ!」
殺し屋は怒りと悲しみを合わせたような表情で声を張る。が、巫女はその倍以上のボリュームで怒声を返した。
「うるさいよボケカスが!! 五十過ぎて殺し屋を目指す馬鹿な父親を持った娘の気持ちにもなりなさいよ!!」
……。
あれ、何かおかしな会話をしてね?
「ちょ、二人って親子なのか!?」
俺は我慢できずに口を挟んでしまう。
「書類上はね」
振り向いた巫女から返された言葉はとても冷たいものだった。
「なんだユー。気付いていなかったのか? こんなにも似ているのに」
似ても似つかねえよ。
「ちょっと、どこがアンタに似てるってのよコラ。視力まで低下したの?」
巫女は体を震わせて俺の思いを代弁するように訊く。
「似ているだろう! ………………頑固なところとか」
殺し屋が搾り出したその答えは、個人的に納得するものではあった。
「何か頑固よ。アンタはただの馬鹿じゃないの、馬鹿! どうせお金が無くなって、生活保護でも受給しに日本に帰ってきたんでしょ?」
酷い言いようだ。
「おい! そこまでわしは堕ちぶれてはいないぞ。見ろ、お金は少しだがある!」
そう言って殺し屋はスーツのポケットからくしゃくしゃの千円札を取り出して見せた。
ツッコミを入れたいところだが、続けて「それにな、さっきから親に向かってアンタとは何だ!? パパと呼びなさい!」
「何がパパよ! そんな頭のセンターをハゲ散らかした奴が父親面するんじゃないわよ!」
それに関しては完全にお前のせいだよ。
「まったく、ほんとに考えられないわ。溢れる怒りのせいで頭痛が悪化するじゃない」
「それを言うならば巫女、わしも一言いわせてもらうぞ」
「なによ?」
「昨日の夜そこの金髪っ子に聞いたぞ。何を考えているのかは知らないが、男に鎖をつけて監禁するなんて、正直親として趣味が悪いと思うぞ」
親として思うのはそれだけか。
「アンタには関係ないでしょ。とにかく、私が真の殺意の波動に目覚める前に、さっさとこのマンションから出て行きなさい。もしくはこの国から出て行きなさい」
拳銃をフードの中に戻し、腕組んで殺し屋に背を向ける。
「ま、まあ巫女、怒る気持ちは分かるけど、せっかく久しぶりに会ったんだからご飯くらい一緒に食べてあげたら……?」
険悪なムードをどうにかしようと、これまで口を閉じていたミコリーヌが提案する。
「五月蝿いわね。デリートするわよ」
「はう!?」
口は災いの元だった。
「そうだな。犬っころの言う通りにしようではないか。わしはな、この一週間まともな食にありつけていないのだ。殺し屋の精神力でどうにか持ちこたえてはいるものの、本音を言うと餓死寸前である!」
恥ずかしげも無く、娘に向かってそうほざいた。
「なら勝手に餓死しなさいよ。私はその屍を越えて行くわ」
平然と親に死ねなどと言える人間は、世間的には普通ではないのかもしれないけども、平然とそんなことを言ってしまいたくなるような性格に形成されてしまったのは、この場合は紛れも無く親の責任だろう。
「……分かった。わしはここから出て行こう」
凄まじい巫女の拒絶反応に諦めたのか、殺し屋は肩に乗った髪の毛やライフルの破片などを手で払いのけながら立ち上がる。
「巫女……」
そして、別れの挨拶を切り出した――かと思いきや、
「お金を貸してくれえええ!!」
ジ ャ パ ニ ー ズ 土 下 座 !
「……」
そりゃみんな、沈黙だってするさ。




