13
「ねえミコリーヌ、私が今見ているのは何?」
「え!? わ、私も今知ったばっかりなんだからね! 別に隠していたわけじゃないからね!」
殺気立つ巫女の問いに、我に返ったミコリーヌは的外れな返答する。そんな二人のやりとりを、悪気の無い鰻子は首を傾げて眺めていた。
「そんなことはどうだっていいのよ。私はそれが何かと訊いているの」
巫女はおもむろに立ち上がり、一直線にキッチンへと歩き出した。
「私が思うに、それはおそらく地球上の生物ではないわね」
キッチンに着くと、コップに水を注ぎながらそんなことを独り言のようにぶつぶつと語る。
「根拠はそう、室内でもサングラスをかけているという、気持ちの悪い習性を持っていることよ」
確かに、気絶してなおも外れていないサングラスの違和感は半端ないと思っていた。だが、室内でもサングラスをかけている奴は別に地球外生命体ではない。
ただのナルシストだ。
「お前、さっきからどうしたんだよ? なんかおかしいぞ」
水の入ったコップを持ってキッチンから出てきた巫女に訊いた。
「おかしいって、私が? そう思った理由を一文字で答えなさい」
「×」
「低脳が。答えられないなら質問なんてするんじゃないわよ」
理由は定かじゃないが、巫女が怒っているのは間違いない。これ以上突っ込むと、俺に怒りの矛先が向きかねない。
と、そんなことを思った矢先、気絶している殺し屋の顔面に水をこぼしている巫女の行動に思わずつっこんでしまう。
「お前何やってんの!?」
「見ての通りよ。昔の映画であったでしょ、乾燥した地球外生物に水をかけたら復活したとかいう設定。あれが本当かどうかを試しているところよ」
嘘に決まってんだろ。
「ぶはっ!」
ほれ見たことか。呼吸困難に陥った殺し屋がもがきながらも目を覚ましてしまった。
「なんだ! またトイレの中か!?」
なんて意味不明な言葉を言いながら体を起こす殺し屋──そして、その視線が目の前に立つ巫女へと向いた。
「……」
誰かがリモコンで操作しているみたいに、もの凄いキレで殺し屋は静止した。だが沈黙は長く続かず、硬化した殺し屋を見下ろす巫女が口を開く。
「ほーら、復活したじゃない。さて、お次は解剖でもしようかしら」
「解剖!?」
悪魔的な笑みを浮かべる巫女を見上げる殺し屋は、出来ることならば地球外へ逃亡したい気持ちだろう。
「みみみ、ちょ、みみ、巫女じゃないか! ハハハ、ハロー。久しぶりだな。元気に毎日をエンジョイしてたか?」
動揺を隠せない殺し屋は、このバチバチに張り詰めた空気を瞬時に感じ取り、咄嗟に変えてみようと試みたのだと思う。
「そうね。今から天国でエンジョイしてきなさいよ」と、パーカーから取り出した拳銃を殺し屋に向ける。
空気を変えるどころか、亀裂を入れてしまったようだ。
「……ふ。巫女、ミーは殺し屋だぞ。殺しのプロだ。そんなオモチャを向けられたところでビビるとでも?」
ここはやはり殺し屋。銃口を額に突きつけられても、顔色を変えることなく平然としている。胡散臭いという印象が今のところ強かったが、殺し屋というのは偽り無しなんだな。
バン!
「!?」
なんてこった。
巫女は本当に殺し屋へ向けて発砲しちゃったよ。
──とは言っても、脳天を撃ち抜いたわけではなく、どうやら殺し屋のかけていたサングラスを狙ったようで、左側のフレームが破損したサングラスが床に落ちていた。
まあそれでも、恐怖を植え付けるには十分すぎるくらいだ。
「で、今なんつったっけ?」
硝煙を漂わせ、放心状態の殺し屋に巫女は問いかける。
「はて、何も言ってないが?」
ここでとぼけなかったら貴方は神だった。
「巫女、あの、とりあえずミーの話を聞いてくれ」
先ほどまで俺に見せていた威圧感は何処へやら……完全に心が折られてしまい、静かな口調で巫女に言う。
「何がミーよ。アイドル事務所の社長でも目指してんのかこのボケカス」
「だってカッコイイいいだろ」
「あァん゛!?」
巫女は威嚇した。
「わしの話を聞いてくれ」
俺の脳内に記憶されている殺し屋像が次々と書き換えられていく。
「まあいいわ、そこまで言うなら聞いてあげる。ぎゅっとまとめて一文字で答えなさいよハゲ」
文字制限気に入ってんな。
「一文字!? それはわしの素晴らしい脳を持ってしても無理だ!」
わざわざ言うまでもねえよ。
「何が素晴らしい脳よハゲ。素晴らしい脳を持っている奴が殺し屋になるわけないでしょうが」
もっともだ。
「見ての通り、わしのような例外もある」
「論外よ」
もっともだ。
「で、何でここにいんのよハゲ?」
「あのな巫女、さっきからハゲハゲと言っているけども、わしはまだまだハゲてな──」
バシュン!
「!?」
なんこった。
巫女は再び殺し屋に向けて発砲しちゃったよ。
とは言っても、床に散らばるのは脳みそではなく、殺し屋の髪の毛が無数に散らばっていた。
どうやら殺し屋は頭髪を撃ち抜かれたようだが、悲惨なことに頭のセンターラインに生える髪だけが綺麗に吹き飛び、絶対に人間界では流行らないだろう奇抜なヘアースタイルと化してしまっている。
「で、何でここにいんのよハゲ?」
「仕事できました」
もはやそんなことよりも、俺が気になるのは殺し屋の髪型だった。




