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只今、監禁中です。  作者: やと
第五章 殺し屋

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10


「また会ったなユー。どうやらミーと縁があるようだな」


 この人はストーカーと同じような思考回路をお持ちなのかな。


「あ、おじさんまだ鰻子の部屋にいるんだよ。早く出て行くんだよ」


 鰻子は眉を曲げて口を尖らせる。


「ミーは巫女のマンションにいるのであって、決して鰻子の部屋にいるわけではない」


 堂々と言い切ったが、そんな屁理屈で納得する人類はこの世にいるはずもない。


「なるほど、納得なんだよ」


 アンドロイドは例外のようだった。


「あの、ところでさっきはなんで逃げたんですか?」と、訊いてみる。


「ああ……あれは急にお腹の調子が悪くなったのだ。だが今はもうトイレで全てを出し尽くしたので問題は無い」


 殺し屋はそう言うが、隣にいる鰻子は大問題だったようで、ショックのあまりに白目を向いていた。きっと鰻子のトイレで全てを出し尽くされたからだろう。

 友人ですら家のトイレで大の方をされると複雑な気分だった俺はお前の気持ちが分かるぞ。


「しかし日本のトイレはすばらしいな。尻を拭かずともお湯で勝手に洗ってくれるのだから」

「いや拭けよ……じゃなくて、そ、そうだったんですか。俺はてっきり巫女にビビって逃げ出したのかと……」


「はっはっはっ! ミーが巫女に怯えるわけがないだろう。ユーは面白い男だな! 面白い君と名付けてやろう!」

「絶対にやめてください」


 笑いながら、腕を伸ばしてバシバシと俺の肩を叩いてくる。この男、不審者であることに変わりはないが、巫女を知っているということに関しては本当っぽいな。

 巫女がこの殺し屋を知っているかどうかは微妙だけど。


「コソコソと誰と話をしているんでコフ?」


 ベランダで殺し屋と立ち話をしている俺に、部屋の中にいたミコリーヌが訊いてきた。


「しょうがねえな」


 俺はミコリーヌの体を両手で掴んで持ち上げ、隣のベランダにいる殺し屋を見せる。


「……うわ」

「お? これは先ほどの番犬……」


 対面した両者は互いを知っているような反応を見せた。


「どうして貴方がここにいるんでコフ? 巫女に見付かったら殺されまコフよ」


 馴れ馴れしくミコリーヌは言う。


「おお、喋られるように改造されたのだな」

「貴方には関係ないことでコフ」


「ちょいちょい、話の途中に割り込んで申し訳ないんですけど。バルコフ――じゃなくて、ミコリーヌはこの人のことを知ってんのか?」


 明らかに知り合い同士の会話だったので、俺はすぐに二人の関係を訊く。


「まあ、一応。貴方の次くらいに嫌いな人間でコフ」


 こんなマックスレベルの不審者より俺の方が嫌いなのかよ。


「ミコリーヌ? はて、どこかで聞いた事があるような、ないような」


 殺し屋はあごに手を当て、視線を上げる。


「まあ覚えてないのも無理はないでコフ。私が一方的に貴方を知っているだけなので」

「ほう、そうか。まあ何でもいい。とにかくミーは、用があってユーに接触をしたのだよ」


 サングラスをかけているから分かりづらいが、視線はおそらく俺に向けられている。


「なん……ですか?」

「実は出すものを出したら急激に腹が減ってな。何か食べる物があれば分けてくれないか?」


「まあ、何かはあるとは思いますけど……なんせ自分の家じゃないんで、巫女の許可無しではどうにも……」

「うむ。ユーの言っている事は分かる。だがとにかくミーの腹は減っている。オーケー?」


 何がだよ。


「いや、だからですね……」

「話すだけ無駄でコフよ神田金也。薄々気付いているとは思いますが、この人はちょっと頭が痛いのでコフ」


 まあ、殺し屋という職業な時点でだいぶアレだもんな。


「一体何をしに来たのかは知りまコフけど、今私達の邪魔をしないでくれまコフか? さもなくば、本気で巫女を起こしまコフ」

「ふん。だからなんだというのだ。ミーは別に巫女が起きたところで、何の問題もないのだが? 何やらユー達は、ミーが巫女に怯えていると考えているようだが?」


「巫女おおお!!」

「!?」


 咄嗟に耳を塞いでしまうような大きな声でミコリーヌが巫女を呼ぶ。だけど、たぶん巫女には届いていないだろう。

 なんだかんだでベッドまで距離はあるし、何より寝ている巫女に反応は無かった。


 ――と。


「あれ、殺し屋は?」


 瞬く間に、ベランダを区切る壁から顔を半分だけ覗かせていた殺し屋の姿が消えていた。

 身を乗り出して隣の部屋の中まで見てみたが、見る影もなく……。どうやら、神隠しにあったのかと疑いたくなるような速さで逃げ去ってしまったようだ。


 ということはやはり、それほどまで巫女に怯えているということ?


「なんだか別の理由で不安になってきたぜ」

「なにはともあれ、奴がいなくなっコフのなら良しとしましょうよ」


 一足先に部屋の中へ入っていたミコリーヌが言う。


「で、結局あの人は巫女の何なんだよ? 銃の撃ち方を教えたとか言ってたけど」

「そのことに関してはデリケートなことなので、私の口から言うのは控えておきまコフ」


「別に二人の関係を言うくらいいいだろ」

「だったら、貴方は自分の個人情報を他者にベラベラと話されて良い気はするのでコフか? 何なら私は貴方が過去に起こした事件を、巫女に話していいのでコフよ」


「事件って……お前まさか……」


「先ほど言ったでコフ。今の時代、ネットの世界にはあらゆる情報があるんでコフ。当然、神田金也という人間がどういう人間なのか、どういう経歴があるのか、そんなことも簡単に分かってしまうのでコフ。何より、これほどまでに貴方を毛嫌いしている私が、貴方のことについて何も調べていなかったとでも思っていたのですか」


「っ……嫌な奴だな、お前」

「褒め言葉として受け取りまコフ」


 やっぱ、こいつとは仲良くなれそうにないな。動揺を隠そうとしても、自然と顔がひん曲がってしまう。一気に気分は最悪だ。


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