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「ふーん、そういうもんか。なんかネットの世界では何でも出来そうなイメージだから、現実よりかは楽しそうではあるけどな」
「仮想の世界と知っていなければそうかもしれませんね」
「ちなみに、お前も映画とかみたいにさ、ミサイルとかをハッキングして飛ばしたり出来るのか?」
「ミサイルをハッキングとか意味不明でコフが……まあ、出来ませんね。技術的や物理的に無理というよりかは、倫理的に無理コフ」
「いくら巫女でも、そんな危険なことはさせねえか」
「馬鹿ですか? 巫女がそんな制限を私に組み込むわけがないじゃないでコフか。私が自分でそう思っているから出来ないと言っているだけでコフ!」
こいつは本当に巫女絡みの話だと噛み付く勢いで迫ってくるな。
「……でもさ、そう説明されると意外だな。ゲーム内でのお前を見た限りじゃ、ヒステリックを起こして世界を滅ぼしそうだけど」
目を細めて口角を上げる。
「あ、あれは仕方ないんでコフ! だって憎たらしい存在が目の前に現れたとなれば誰だってそうなるじゃないですか!」
必死だ。必死さが伝わりすぎて体が半歩引く。
「というか、なんだか話が反れまくってませんか? 巫女が起きた時に何かしらの進展を示せる状態でなければ、頭吹き飛ばされまコフよ」
そりゃ大変だ。
「よし……っと、何をやっていたんだっけ?」
――その後、数時間もの間ずっとミコリーヌにパソコンの操作方法などを教えてもらいながら、思い付いた単語を頼りに様々なサイトを見て回った。
結論から言うと、やはりこんな短時間パソコンと対峙しただけでやりたいことが見付かるわけなんてなく、単純にパソコンの活用法などを学んだだけだった。
「あー目が疲れてきたぜ。ちょっと休憩」
モニターを見続けた代償が今になって襲いかかり、目頭を指で押さえる。
「休憩なんてしていたら、巫女が起きてしまいまコフ」
「人間ってのは疲れたら無理をしちゃいけないんだよ」
「また差別でコフ? 学習能力がないのか、はたまた性格が捻じ曲がっているのか、どちらにして最低でコフ」
「だからお前にだけは言われたくねえよ」
しばらく会話をしていたせいか、段々とこいつの表情が見えてきたような気がするよ。
「んん……ここはどこだよ?」
「お?」
声に反応して振り向くと、ベランダ前で寝ていた鰻子が目を覚ましていた。フローリングの跡を頬につけて、大口を開けてあくびをしている。
「ふあぁ……あ、金也だ。鰻子だよ」
こいつ、俺を見る度に自己紹介をしているよな。もう慣れたけどさ。
「こら鰻子。今度からはちゃんとベッドで寝るようにしないとダメコフ」
姉らしく、寝起きの鰻子を叱るミコリーヌ。だが何も知らない鰻子からしてみれば、バルコフが喋っているので不思議なのだろう。
「……」
鰻子は見た目がバルコフのミコリーヌをジッと見つめながら、何かを考えているようにボーっとしている。
「お姉ちゃんだよ」
なぜ分かった。
二人だけが感知できる電波でも飛び交ってんのか?
「そうコフ。今はバルコフの体を借りてるコフ」
尻尾を左右に振る。
「ふーん。なんだか鰻子は複雑な気持ちなんだよ」
そりゃそうだよな。きっと鰻子は今、某携帯電話CMの、父親が犬になった家族のような気持ちなんだろう。
「金也は何をやっているんだよ?」
「俺は見ての通りだ。パソコンで遊んでるんだ」
体を反り、鰻子にパソコンが見えるようにした。
「ふーん……ふあっ!?」
ボーっとしていたかと思えば、何かを思い出したかのように突然口を丸くして声を上げた。
そんな鰻子に「どうした?」と俺は訊く。
「そういえばおじさんはどうしたんだよ?」
「おじさ……ふあっ!?」
鰻子の言葉を聞いて俺も大事なことを思い出した。思わぬ集中力を発揮してしまっていたせいで、すっかりあの殺し屋の存在を忘れていたぜ。
「どうしたコフ?」
立ち上がった俺にミコリーヌが訊く。
「ちょっとな」
もしかするとまた殺し屋がいるかもしれないと、俺はベランダへと出てみる。
「……いねえか」
身を乗り出して鰻子の部屋のベランダを覗いて見たが、あの厳つい殺し屋の姿はなかった。
さっき逃げた時、勢いのまま外に行っちまったのかな?
「どうしたんだよ?」
手すり壁にもたれる俺の横に、まだ瞼が重たそうな鰻子がやってきた。
「なあ、お前が言ってたおじさんってのは、黒いスーツを着た厳つい顔のおじさんか?」
「そうだよ。夜になってもずっとサングラスを外さない、総合的に理解の苦しむおじさんなんだよ」
なるほど。やはり奴が鰻子の言っていたおじさんだったか。
「あのおじさんって、いつから鰻子の部屋にいるんだ?」
「んと……」
首を傾け、視線を上げて考える。
「昨日だよ。いつの間にか鰻子の部屋にいたんだよ。気持ち悪かったから、トイレに投げ込んだんだよ」
「あの厳つい殺し屋をトイレに投げ込んだだと!?」
……。
待て待て、冷静になって考えてみろ俺。こんなにも可愛い鰻子が、あんな見るからにやばそうな殺し屋を便所に投げ込めるわけはない。
きっと何か別の記憶と混合して勘違いをしているに違いない。
「うむうむ。まとにかく、怪しいおじさんであることには変わりない。巫女と知り合い的なことを言っていたが、それも信憑性はないしな」
「何を言ってるんだ。ミーは嘘は付かない」
「うおっ!? いたんすか!?」
反対側に首を向けると、ベランダを遮る壁から顔半分だけを出してこちらを覗き見る殺し屋がいた。さすがは殺し屋と言ったところだが、見計らったかのようなタイミングで出現しやがったな。




