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「嘘だろおい!?」
ほとばしるレーザー光線は、まるでドーナツの生地に穴を空けているかの如くポンポンと周囲の岩を貫いていく。
こんな攻撃をされたら、もはや死ぬ死なないが問題ではない。足にでも攻撃が当たれば歩くこともままならなくなる。
こうなったら、「花村ごめん!」
俺は倒れている花村の体を掴み、ミコリーヌへ投げ飛ばした。
「無駄ですよ!!」
宙を舞う花村に対し、ミコリーヌは光る球体を一カ所に集中してエネルギーを放出する。
その威力は先ほどのレーザー光線など比ではなく、半径十メートルほどの太い光線が空を支える柱のように天へと伸びていった。
結果、一瞬にして分厚い洞窟の天井の半分が跡形もなく消し飛び、星の輝く夜空を覗かせた。
花村の体も一緒に消滅してしまったのか、その姿を確認することは出来ない。
すまん、花村。
俺はまた罪を重ねてしまったわけだが、これはあくまでもゲームだ。非現実的ではあるが、命に直結するようなゲームではないんだと得意の自己正当化で脳内で起こる葛藤を鎮める。
今は心を鬼にしてでも、俺はこの世界から脱しなければならない。
股間が危ないんだ!
「待てコラぁぁぁあ!!」
花村をおとりに使ったおかげでどうにかミコリーヌとある程度の距離が取れた。
あとは五十メートルも満たない通路を抜け、気絶しているだろう見張りの盗賊を刀で倒すだけだ。俺は振り返ることは一度もせず、必死で出口に向かって走る。
走る。
走る。
必死で走る。
「よし!」
洞窟の出口が見え、刀を握る力を強めた。だが──、
「甘いですよ!」
「なっ!?」
外まであともう少しのところで、光に包まれたミコリーヌが洞窟の出口前に現れた。なかなか追い付いて来ないとは思っていたが、やっぱ楽には行かせてくれないな。
「ふふ、私が世界の裏側から走って来たとでも思ったんですか?」
勝ち誇ったかのように笑う。
確かに、油断していたのは認めざるを得まい。
「私、良いことを思い付いたんですよね。死ぬことのない貴方を攻撃するより、洞窟の入り口を崩して塞いでしまえば……最高じゃないですか?」
やば、それは非常にマズい。
「おい! 落ち着け、それだけは勘弁してくれ。巫女だって怒るぞきっと! そしてその怒りが俺にも向けられて、無慈悲に股間を踏まれかねないんだぞ!」
「もうどうなったって構いませんよ。むしろとことん怒らせてやせたい気分ですしね!」
これぞ反抗期だな。
「やめろ! な! 落ち着けって!」
ステッキの先端を輝かせるミコリーヌをなだめようとするが、もはや麻酔銃でも無い限り止められそうにない。
「さあ、さよならです!」
もう為す術がない、そう俺が諦めかけた瞬間──ヒューッと、突然空から花村が落下してきて、「なばっ!?」
魔法を放とうとしていたミコリーヌに直撃した。
どうやらさっきの波動砲みたいな攻撃では消滅せず、空に打ち上げられていただけのようだ。
しかしなんつー神落下。花村のスター性は半端ねえ……って、そんなことを悠長に考えてる場合じゃない。
落下してきた花村が覆い被さるようにしてミコリーヌを倒しているこのチャンスを逃せば申し訳なさすぎる。
俺はロケットスタートをイメージして足を踏み出し、気絶している盗賊がいた場所に向かって猛ダッシュした。
「こんの! うりゃあ!」
悪あがきもここまで来ると褒めてやりたい。ミコリーヌは倒れた体勢のまま、俺に向かってステッキを振る。
すると、「とわぁっ!」地面から人の手が飛び出して、走る俺の両足を掴んだ。おそらく昼に遭った婆さんでもまた召喚したんだろう。
おかげで俺は叩きつけられるようにうつ伏せで地面に倒れる。ついでにその反動で刀を手放してしまい、放物線を描きながら草むらに消え去った。
……最悪だ。
最後の最後でこのザマかよ。
ミコリーヌは花村を退かせて立ち上がり、ゆっくりと俺に歩み寄る。
「……残念ですね」
うつ伏せで倒れている俺を見下ろし、ミコリーヌは言った。
「……」
ショックが大きく、返事をする気にはなれない。
「……むかつきますけど、やっぱり私は脇役ですよ。主人公補正にはかなわないようですね」
溜め息まじりに言う。
「……は?」
少し遅れて、ミコリーヌが訳の分からないことを言っていることに気が付く。
疑問に思って俺が頭を上げると、ミコリーヌは前方を指差していた。その先に目をやると、地面に突き刺さっている刀が見える。
「──あ!」
よく見ると刀は気絶して倒れていた盗賊の背中に突き刺さっているではないか。ミコリーヌの言うように、これを主人公補正と言わず何と言う!
そして、俺が見つめる最中、盗賊の体は煙となって消滅した。
これは……つまり、まさかの?
パッパカパーン!
空からファンファーレが鳴り響き、上空にふざけたような手書きのひらがなで『げーむをくりあしました』という文字が浮き出した。
つまり、これでようやく現実世界に戻れるってことでいいんだよな?
ひらがなで表示されているせいか、とても達成感が湧くようなシチュエーションとは言えないが、まあ、良しとしよう。
「おっ」
頭上に『30』という数字が浮かび上がり、ゼロに向かってカウントダウンを始めた。おそらくこのカウントが終わればこの世界とはおさらばだ。
「はぁ……やった!」
胸を撫で下ろし、腕を伸ばして地面にへばりつく。
「……?」
視線をずらして見ると、背を向けて無言で佇んでいるミコリーヌがいた。
「諦めが良いじゃないか。あともう少しだけ、俺はここにいるみたいだぜ」
少し意地悪げに言ってしまう。




