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「話し合いですか? 無駄ですよ。どんな言葉をかけられても、貴方への憎しみが消えることはありません。あり得ません」
早々に釘を打たれたが、だからといって諦めるわけにはいかない。
「まあそう言うなって。個人的にお前がどういう奴なのか知りたいし」
「ふん。魂胆が見え見えで反吐が出ますよ。言ってるじゃないですか、私は貴方を苦しめることだけが目的なんですから」
「アホだなお前。よく考えてみろって。俺を苦しめたとしても、結果的に俺は五体満足で現実世界へ戻るんだぜ。だったら互いにいがみ合うより、話し合って和解した方が良いに決まってんだろ」
こればかりは屁理屈でも何でもなく事実だ。何事も平和的解決が一番である。
「それは貴方が私に憎しみを持っていないからこそ言えることです。こちらの気持ちを分かった風に語らないでください!」
ミコリーヌはステッキを突き出し、俺に向かって再び電撃を放った。
「おわっと!」
先ほど電撃を放つ攻撃のモーションを見ていたこともあり、俺は反射的に身を屈めて電撃を避けることに成功した。
「ちょっと待て待て! とりあえず落ち着こうって!」
両手を前に出し、攻撃の停止を求める。
「うるさぁぁぁい!!」
聞く耳持たず、ミコリーヌは連続で電撃を放ってきた。今度は上手く避けられず、俺はその攻撃に耐え忍ぶしかない。
「ぐゥッ!」
どうやらこちらの常識的な理屈は、あちらにとって非常識のようだ。どこかの誰かさん、もう耳栓は買わなくていいから、世界最高のネゴシエイターでも連れてきてくれ。
「どうですか神田金也、苦しいですか? イライラしますか? 歯痒いですか? ムカつきますか? 憎いですか? 悔しいですか?」
数分間ほど経ってようやく電撃の雨が止まった。俺は蒸気を体中から漂わしながら、地面に膝をついて息を整える。しばらくすると痛みは引き、何事も無かったように体は回復したが、ストレスはピークに達していた。
「ふん、悔しくとも何ともねえよ。むしろ、俺にはお前が可哀想に思えてきたぜ」
もちろん、俺はミコリーヌを怒らせてしまうことを想定した上で言ったのだが、
「……哀れみですか。ふふふ、そうですね。自分でもそう思いますよ」
「は?」
予想外の反応だった。ミコリーヌはステッキを下ろし、肩を震わせて、呆れるように鼻で笑う。
「意味の無いことだと分かっていても、この衝動は止められないんですよ。一応これでも人間と同じような思考をするようプログラムされているもので、制御が利かないんです」
ポタ……ポタ……。
鍾乳石の先端から水滴が垂れるように、ミコリーヌの器である魔法少女の目から綺麗な涙が零れ落ちた。
「それに何故だか貴方と同等くらいに自分自身が腹立ちます。何なんですかね? 人間って難しいですよ」
しかし、その目は真っ直ぐに俺を向いていて、あくまでも弱さを見せようとはしていない。
ただやっぱり俺の目には、駄々をこねる子供にしか見えなかった。
ミコリーヌが自分で言っているように、感情を制御する方法というのが分からないのだろう。そのせいで俺に対する怒りと、自分自身に対する怒りを混合させてしまい、今のような状態になっているのだと思われる。
俺もいつからか物心が付いていたけど、明確な時期は分からないし、それを身に付ける術も知らない。でも、ミコリーヌが成長しきれない理由は分かった気がする。
きっと巫女はミコリーヌを人間と同等のように扱っていたに違いない。
強制的に膨大な知識や経験を与えるのではなく、人間のように自ら色々と学ばせて、自由に成長をさせてきたんだろうな。
それで、今回ミコリーヌは生まれて初めて堪え難い痛みというものを知ったわけだ。嫉妬──と言うべきか。
憶測でしかないけど、ミコリーヌの主張としては、ただでさえ花村とかのせいで巫女との遊ぶ時間が少なくなったってのに、俺が監禁されたせいで完全に相手にされなくなってしまった……という感じなんだろ。
どう考えても俺に非はないんだけど、そんなことを思い始めればエンドレスになるので止めておく。
ここは一人の大人として、ちゃんと諭してやらないといけないな。
今の雰囲気なら話をそれなりに聞いてもらえそうだし──ま、それでも念を入れて慎重にいこう。
「巫女には直接言ったのか? 寂しいってさ」
「いいえ。言えるわけないじゃないですか、そんな恥ずかしいこと──って、話に乗せられませんよ!」
「ちっ」
無駄に頑固な奴だな。
我に返ったように涙を腕でサッと拭き取り、ステッキを構えて攻撃体勢になった。だが俺は話を続ける。
「別にお前を説得しようとか思ってねえよ。ただ、巫女が言ってたあのことを知ってんのかなーってな」
「……あ、あのことってなんですか?」
「ああいやいや! 何でもないって、今のは忘れてくれ。お前は俺の話を聞きたくないんだったもんな。悪い悪い」
わざとらしく立てた手を横に振った。
「ちょ、ちょっと、何を隠そうとしているんですか!? 聞いてやりますからさっさと話して下さいよ!」
……くくくっ。
食いつきやがったな。
「じゃあ、俺から聞いたってことは内緒にしてくれるか?」
ミコリーヌは無言でコクリと頷いた。それを見て、俺はオオカミ少年も顔負けの嘘を淡々と語る。
「よし、実はな──巫女の研究室で鰻子みたいな人型ロボットが新しく造られていたんだよ。だから俺は訊いてみたんだ、鰻子の妹でも造るのかってさ。でもな、巫女はこう答えたんだよ、『違うわ、お姉さんよ』ってな」
「ふむふむ」
興味津々で俺をガン見するミコリーヌ。これはもう完全に釣り針は食い込んでいる状態だ。
「その時は深く考えないで話は終わったんだけど、今考えてみるとさ、それってつまりお前の体を造っていたっていうことだと思わないか?」
「はっ!?」
ミコリーヌは目を見開いて驚愕する。




