第四章 今、全てが明かされる
以下、創作秘話を明かします。
興味がない人は勿論のこと、興味がある人も読む必要はないです。まともにすいこすらしてないので。
犯人当て小説には様々な傑作があります。残念ながら読者の立場で犯人を当てられた経験はほとんどないに等しいのですが、読むたびに「凄いなあ」と感心するものばかりです。特に某A先生や某E先生の読者への挑戦付き長編ミステリは、どの作品も凄くて。「解いてやるぞ」とはりきって読み始めては、その度に負かされ、そして「やっぱり凄いなあ」と感動させられてしまいます。
誰にも分からないたった一人の犯人の名前を、物語の最上位人物がばしりと言い当てる。快刀乱麻の推理の前に、犯人の反論は次々と砕け散り、知と理の前にひれ伏す。ああ、なんて楽しいんだ!
茫然自失の大トリックや抱腹絶倒のとんでもトリックもいいですが、どこまでも手堅く、また鮮やかな犯人当てこそが推理小説の王道・・・かどうかは私には判断できませんが、私にとって、フーダニット小説はミステリの花形なのです。ああ、ロジック万歳。
ただ、理屈と膏薬はどこにでもくっつくと言いますか、ケチをつけようと思えばいくらでもケチを付けられるのがミステリで。ミステリでは「驚愕のトリック」を使った作品が多々あり、だからこそ、「なんでその「驚愕のトリック」が今回は使われておらず、探偵の推理が正しいと言い切れるんだ?」と言われてしまうとまったく言い返せないのです。
そこで私が考えたのが本小説で・・・つまり本文で「誰々が犯人です」とはっきり言い切ってしまえば、もう一切横槍を入れられることもなく、絶対にこの人が犯人に違いないと確定できるのではないかと考えました。
ミステリには「三人称地の文で嘘をつけない」というルールがある(ある・・・よね?)ため、登場人物ではなく、筆者の言葉ならその正しさは保証されているはずなのです。
と、こうして出発した本小説ですが、大きな問題が立ちはだかりました。
「誰々が犯人です」っって言っちゃったら犯人バレバレじゃん!
そうなのです。作中で筆者が「誰々が犯人」と書いてしまえば、その真相にけちをつけられることはないはずなのですが、そもそも作中で「誰々が犯人」と書いてあったなら読者には誰が犯人かモロバレです。当たり前だけど。
意外性なんて大した要素じゃない、謎が解かれる過程に面白味があればいいのだ。という意見はあり、私もその通りだとふむふむと頷くことしかりなんですけど、さすがに「誰々が犯人」と書いてあるのでは意外性も糞もないですし、そもそも謎が解かれる過程に面白味は皆無です。
ということで、アタルカナが誕生しました。この名前なら筆者が「犯人の名前はアタルカナ」と書いても別の意味にとってくれそうです。カタカナでしか表現できないのはネックですが、登場人物全てカタカナ読みの小説は間々ありますし、大丈夫かなと。
ちなみに設定としてはアタルカナ=中加奈です。実際にこの名前がいるかどうかは知ったこっちゃありませんが、中は「あたる」と呼べますし、どうやらそういった苗字は実在するようです。名前の「加奈」は問題ないでしょう。
ちなみに、ミステリでは代名詞と固有名詞を誤認させるなんて手法があり、その手法を用いた傑作が存在します。今思えば、その辺りをもっと掘り下げて考えればもっと良い犯人当てを作れた気もするのですが、この小説を書いていた頃はそんなトリック知りませんでしたああ知識不足。そちらはまた別の機会にでも。
と、ここまで来て私は「問題編をいつの間にか終らせてしまう」趣向を使えるのではないか、と考えました。
「読者が気付かない内に問題編を終らせてしまう」その工夫はかねてから頭にあって(既に誰かやってたらごめんなさい。私はにわかミステリファンです)、どうにかしてそんな小説が書けないのかなあ、と思っていたので、よーしここで使ってやろう、と決め、この小説が出来上がりました。
出来た当初は「前代未聞!いつの間にか解決編になだれ込むミステリ!読者はいつの間にか斬られている!」「空前絶後!登場人物が一言も話さないどころか動きも一切なし!」「驚天動地!犯人当てなのにろくなロジックなし!しかも別の可能性とか文句をつける余地もなし!」
とはしゃいでいたのですが、よくよく考えたら、登場人物が一言も話さないミステリはどこかにありそうですし、そもそも本小説は・・・さっきから小説小説とよんでますけどこの一連の文章は「小説」というより「クイズ問題」的でクイズなら登場人物に動きが無いのも普通です。また、文句をつける余地なしと確信していたのですが、別に筆者の言葉だからって直ちに正しいとは限らないですし、そもそも「解答編を一瞬でも見たら解(回?)答権なし」って横暴だし。そもそもをいうなら「謎を解く快感がないミステリに存在価値はあるのか?」という話になるのですが。ロジック万歳とか言ってたくせに。
その辺のアマチュア(勿論アマチュアにも神様みたいな人はいますよ!)がやることなので許してください。というか、ノーマルな犯人当てなんて書けません。難しすぎます。まあノーマルじゃない犯人当てをかけているかどうかも怪しいもんですが・・・
そんな思い(というか欠陥)を抱えつつ・・・
ミステリのルールをネタにするんだからやっぱり両大先生には登場してもらって、女王様の気分で傍点を振りまいて。色々なところから仕入れた知識で、一部以外ほとんど意味のないルールを作って、重要な箇所はなるべく目立たないように無い知恵と絶望の文章力を振り絞って・・・
とにもかくにも、本小説は上のような過程で出来上がったのですが。
最後の壁は短さでした。
成功しているかどうかはともかく、本小説は「問題編がいつの間にか終わっている」レトリックが大きなポイントです。つまり読者には、本来の問題編が終わった時点で「さあこれから問題編なんだな」と誤認してもらう必要があります。
そう誤認してもらうためには、第二章の「後の章」に物理的な厚みが必須です(本小説は当初、紙に書いて友人に渡して遊ぶつもりでした)。もし第二章が終わった段階で残りがほんのちょっとのページ数しかなかったとしたら、
「あれ?まだ問題編が始まっていないのに残りこれだけ?」
と感付かれてしまいます。かといって第三章を引き伸ばすのは苦しい。だって解決もその解説も書くことないですし。
最初は「ラスト数十ページは白紙にしてやれ」と考えたのですがあまり美しくありません(ちなみに某先生にはこの手法を用いた傑作があります)。
またもう一つの問題が「章が少ない」ことでした。仮に、本小説が第三章までしかないとします。その場合、第一章が「ルール説明」なら、当然第二章は「問題編」第三章は「解決編」に違いないとバレてしまいます。かといって目次をつけないのもそれはそれで怪しい。
ということで、今、第四章を書いているわけです。
第四章をでっち上げれば上の「章が少ない問題」は解決。
さらに、『小説家になろう』では文字数と読了予想時間が表示されるので、無駄に長い文章を入れれば読了予想時間を引き延ばすことが出来る・・・『本来のゴール地点』を誤魔化すことができる(紙媒体でもできるはできますが・・・紙とインクが勿体無い!)。
ついでに、第四章を創作秘話的な『何かを明かす話』にしてしまえば、サブタイトルを「今、全てが明かされる」のように書くことができて、「第四章が解答編らしいな」と目次でミスリード出来る。
と、このような理由で、素人の、誰も読みたがらないだろう創作秘話をここまでダラダラと書き続けました。
さて、そろそろこの章の文字数が全体の文字数の30%程度となったようです。これだけ書けば十分でしょう。もうこれ以上書くこともないので、ここらで終わります。
めでたしめでたし。
―閉幕