(最終話) さぁ、幸せになりましょう
私も彼に続いて一歩踏み出した時、目の前に、綺麗な紫髪で金色の目をした優しそうな美少女が立ったのが分かった。
逆光のような、全身から光を放つような彼女の姿は、直視するのは難しいが、微笑まれているのは分かる。
「ありがとう。私。」
「いいえ。どういたしまして、私。」
「子供はいつの人生でも、私の宝だったわ。」
「分かっているわ、私ですもの。」
「この子の成長だけは、見守る事が出来なかった…」
「えぇ。」
「貴女の分も、この子に寄り添うから!引き摺られないで!
今の人生をきちんと生きて!エミリア!」
「ありがとう!ルース。」
眩い光に、眉根を寄せると、人々のざわめきが聞こえた気がした。
ソッと目を開けると、そこは私の部屋の見慣れたベッドだった。
ゆっくりと起き上がる。
長時間寝ていた時特有の、フワフワとした感覚に体が安定しない。
「お嬢様っ!」
背後から支えてくれたのは、やっぱりファーブだった。
「ただいま、ファーブ。」
「お帰りなさいませっ、お待ちして…おりました…。」
涙を流しながら、私を抱きしめてくれる温かい体に、あぁ、やっと帰ってこれた…と、安堵する。
声をかけて、落ち着いて顔を眺めると、大分やつれたファーブの顔が見れた。
優しく温かな手で髪を梳いてくれるファーブ。
穏やかな時間に身を任せて、再びまどろんでくる。
そこにバタバタと走って部屋に現われたお父様やお兄様、お母様や弟、公爵家の人々に代わる代わる声をかけられ抱きしめられて、徐々に落ち着いてくる。
『だから、大丈夫だって僕言ったんだけどねぇ…
エミリア嬢、なかなか目覚めないから…』
「あら?湖の主様と光の中で別れたのはつい先ほどですわよ?」
『ううん。僕が目覚めてから、二晩経ったんだよ。
まったく、エミリア嬢はのんびりさんだね。』
腰に手を当てて、芝居がかった口調で明るく話す湖の主様。
その姿に、彼も親友が還ってしまったけれど、強く生きようとしている事を感じ取り嬉しく思うと同時に、クスッと笑いが漏れる。
「少し、寄り道しただけではございませんか。許して下さいまし。」
『へぇ?』
「フフッ。さぁ!お腹がすきましたわ!」
そこからは早かった。
私が目覚めればいつでも食べる事が出来るように、と、アントンがいつも作りたてのウドンを用意してくれていたらしい。
全く離れずに、食事まで世話をしてくれるファーブに苦笑が漏れるが、どうやら私の筋力も低下していたらしく、フォークも持てなかったので、恥ずかしさを呑んでお世話を受ける。
お風呂は流石にオリビアに頼むが、食事やトイレへの移動もすべてファーブに姫抱っこで運ばれる。
私が眠っている間、私を聖女と慕ってくれる方々がひっきりなしに訪れていたらしい。
枕元には絶えずラングの花が農家のおっちゃん達から送られて飾られ、領内の人々が毎日代わる代わるお供えを持ってきたのだとか…
あれ?私、最後のに関しては死んでる扱いっぽくね?
私はどうやら一月もの間、目が覚めなかったらしい。
特化魔法の使用は、命と引き換え。
それを知っている、各家の当主達は王家を主導として、国葬にしようと盛大な葬儀を予定していたらしい。
それに待ったをかけたのが、他ならぬ、ミィタを始めとするファーブや、各家の次代達。
喧々諤々の話し合いの末に、ミィタがエミリアを埋葬すればこの国を滅ぼす!とまで宣言し、私はベッドに安置されることとなったらしい。
危なかったね…
ミィタが己の命と引き換えに、反魂の魔法で私をあの世から呼び戻してくれた。
私も無傷とは行かず、魔力を失ってしまった。
まぁ、もともと前世の記憶などがあったから、日常生活でそれほど魔法に頼っていたわけでもなかったので、こちらは問題ない。
友達がいる訳でもない学園には未練は無いから、このまま中退する事になるだろうけれども、まぁ、こちらも問題ない。
ミィタは、彼と彼女と共にいると、ファーブに話すと、ファーブも驚きながらも嬉しそうにしてくれた。
これでよかったんだと思う。
体調が戻ってくると、リリーやアリアネス侯爵令嬢、キャロル姫のその後の話を聞いた。
ヘイアン様の後宮に放り込まれていたアリアネス侯爵令嬢は、泣く泣くヴィケルカール国へ帰って来て、修道院に入るか、という話になっているらしい。
確かに彼女は純粋にヘイアン様を慕い、一途に彼だけを追い求めた結果、後宮軟禁という目に遭ったのだから可哀想なのかもしれない。
問題は、リリアーナだぁよねぇ~。
彼女は、好き好きいってた割に、いつまでも振り向いて貰えないからって痺れを切らして喚いた揚句、盛大にヘイアン様の地雷を踏み抜いて事態を悪化させただけだったものねぇ…
しかも、ここへきて、幼少時の私と母への事もどこかでバレたらしく、それも加味されたらしい。
あの後、事情を聴くために王城に連行されたけれど、どうやら、顔の良い城の騎士や、オランジ団長に色眼ばかり使ってちっとも聴取が進まずに、難儀させたらしい。
そんな事もあって、彼女に対する王族や騎士たちの心証は最悪。
残念な事に、戦火が上がっている間、彼女は貴族用の窓やドアに鉄格子があるだけの綺麗な牢ではなく、血臭悪臭渦巻く地下牢に入れられたらしい。
戦の後、全ての責任を取り彼女は王家の最終手段、封印というおっそろしい刑が確定したとか。
この封印という刑、どういったモノか私も今回聞くまで全く知らなかったのだが、どうやら、死刑にするには有用な魔力持ちの者限定刑で、肉体を、魔力を吸収する特殊なクリスタルの様な鉱石に嵌めこまれ、無期限で魔力のみを吸い出されるというものらしい。
そこには、人権も人格も認めないという厳格な意思があるのだろう。
期間はまだ分からず、魔法で死ぬ事のない程度に保存されるが、歳は取り肉体は衰える。
仮に刑期が50年とされた場合、50年後に特殊クリスタルから出てきたときには、青春時代を全て失い、衰えた肉体と変わらない思考を抱えて技能も何もなく、生きていかなければならないという現実。
コワッ!
王族にケンカ売っちゃダメだよねぇ…
出来る事なら人生やり直せるうちに刑期が終わりますように…
この国は、貴族社会とは言っても、割と個人主義な所があるから、本人が死刑になるほどの罰を受けても、一族郎党斬首などになるのは稀なのだが。
それでも、責任感の強い貴族の中には一族から犯罪者が出れば自主的に爵位を返上する者も居る。
セバスは覚悟を決めていたのか、何も言わなかった。
ただただ申し訳ないと言っていた。
この事に関しては、オリビアも何も言わなかった。
母親としては辛い物があるだろうに、彼女は気丈だと思った。
彼らも、爵位を返上して責任をとるとまで言っていたが、父に引き留められていた。
確かに、彼らが居なくなると、困るのは我が家の方だからね。
陛下も、一族としての責任は、もろもろの事情を考慮して、当主をファータジオに代替わりさせ、イェロ―ラング領を召し上げることで手打ちとしてくださった。
長兄のファータジオも長年騎士団で貢献していた事も大きかったらしい。
そして、一時はディーン殿下と、あわや婚約破棄の危機に瀕したキャロル姫はというと…
今回の戦を経て、王族同士に遺恨は無いと民に広く知らしめ、一刻も早い安寧を齎さねばならない為、ディーン殿下との婚約を結び、半年の婚約期間後早々に、そして盛大に式を執り行う事になった。
幸いな事に、私達の暗躍のお陰で、今回の戦では奇跡的に命を落とした者もいなかったため、平穏が早く訪れるならと、反対の声も聞こえなかったらしい。
漸く体調も落ち着き、いろんな人の説教も一通り聞いた後、部屋でのんびりしていると、両親からお茶会の誘いがきた。
もう既に、お見舞いに来て下さった方々は各々日常生活へと戻られている。
先日、お兄様も渋々ラング学園に帰って行かれたばかりで、とても穏やかな時間が流れていた。
中庭で、3人でティーセットを傾けて向かい合う。
「エミリア…あのね、君に、縁談が来ているんだ。」
「お父様?」
「救国の聖女様として、君の価値は今や天井知らずになってるんだよ。
陛下も、今回のエミリアの功績を讃えて聖女公爵として新たに公爵位を授けてくれたくらいだし。
お婿さんに望むのに何か、条件はあるかい?」
「ん~?では、私をドロドロに甘やかしてくれて、好きな事をさせてくれるけれども危険になる前に予測して助けてくれて、呆れながらも見捨てずに的確な突っ込みを入れてくれて、美味しい物を食べてのんびりさせてくださる方が良いですわ!」
「……その条件に当てはまるのは、私の勘違いでなければ、身内以外だと、ファーブ位しか居ないんじゃないかな…?」
「あら?」
「あらではございませんよ、お嬢様。
危険予測に関しては、最大限努力しますが、お嬢様は常に私の予想を上回るので…」
「ファーブ?」
「旦那様、お嬢様を頂きたいのですが。」
椅子に座る私を背後から抱き締めるように、ファーブが甘い声で私に話しかける。
見上げると、蕩けそうな優しげな瞳がこちらを見つめていて、途端に恥ずかしくなって顔が赤くなるのが分かった。
前を見ると、青ざめて引きつった表情のお父様。
「し、しかしだな、ファーブ…?
娘を欲しいのならば、それなりの地位と収入をだな…」
「まぁ!良いではありませんか!」
口角をヒクヒクさせながら、青い顔で青筋を立てるお父様と、その横で少女の様にはしゃぐお母様。
二人の騒ぎを華麗に無視して話を繋ぐファーブ。
さっすが~セバスチャンに似てきたね…
「ですから、これを。
先の戦で唯一戦い、そして誰も傷つけなかった功績を両国の陛下に認められたため、この国唯一のSSSランクを得る事が出来ました。」
彼がお父様に見せたのは、この国で今まで誰もいなかった、SSSランクのギルドカード。
へぇ~、SSSになると、カードはクリスタルの様に透明になるんだぁ…
「だ…だが、冒険者など!危険な職業!
いつエミリアを未亡人にしてしまうかも分からんだろう!!」
「いえ、国としても、貴重なSSSですから、戦力の流出を防ぐために、城の近くに屋敷を一軒と、イェローラング領の下賜。
爵位は一代公爵ですが、名誉爵位を隣国との仲を取り持った功績で頂きました。
公爵位に婿入りできますよね?
職に関しては、城での暗部組織の育成教官統括という役職を頂きましたし、給金は月にざっとこれ程だとかで…」
そこで、ペラリとお父様の眼前に垂らされた羊皮紙は、こちらからは見えないが、お父様の表情は、ぐうの音も出なくて今にもハンカチを噛み締めそうな表情だった。
「これならば、お嬢様に苦労をかけず、未亡人にもさせずに、穏やかで望む様な暮らしをさせられると思うのですが…?」
「…エミリアは、お父様と暮らしたいよね!??」
「私、ファーブの口から聞きたい言葉がまだ聞けておりませんわ…」
しょぼんと、お父様とファーブの間で取り交わされる、契約のようなやり取りを眺めていた。
素早く、私の足もとに膝まずいたファーブは、私の両親や、セバス、オリビアが見守っているのも気にせずに、私の左手を取る。
「エミリア、私の妻になっていただけませんか?」
優しく微笑み、初めて名を呼ばれて、薬指に通された花の形の虹色の宝石の指輪を見て、嬉しくて涙が溢れた。
「っはいっ!」
ギュッとファーブに抱きついても危なげなく支えてくれる逞しい腕に、ソッと涙を拭ってくれる優しい指に、私は幸せになる事を確信した。
時は流れて。
コンコンとドアをノックする軽い音が聞こえた。
読んでいた手紙を下ろし、ソファーに深く座りなおして、ドアに声をかける。
「エミリア?」
「ファーブ!ファルから手紙が来たのよ!
Sランク冒険者として、イルッターナの活火山にしか咲かない希少な花から、万病に効く蜜を見つけてまた功績を挙げたんですって!」
「そうですね。兄としても誇らしいですよ。
ただ、兄の奥さんに勝手に手紙を送るのはどうかと思いますがね・・・」
「何か言った?」
「いいえ?」
「?まぁいいわ!さぁ!ファーブ!今日は、あの方たちに花を添えに行きますわよ!」
「エミリアは、どうしてそう急な事を言うのです!」
「行きますわよ!今日も虹色にまとめた7色の花が良いですわ!」
「はいはい。手配してありますよ。転ぶと危ないので、手を繋ぎますよ?」
「はい!」
「良いお返事です。
まったく、臨月なんですから大人しくしてくださると有り難いのですがね…」
「だぁって、生まれたら暫くは行けないではありませんか…」
「花なら、私が供えますよ。」
「ダメですぅ!私と!デート!なんですぅ!!」
「はいはい。興奮しないでくださいね。」
「あ~っ!」
プーッと膨れる私の頬を指でつぶし、優しい目で苦笑いしたファーブに支えられて、王城の脇の森の中の静かな祠にある光の球に、花束を供える。
祠の周囲はラング花の柔らかな甘い香りと、温かな紫の光で満ちていて、時すらも穏やかに流れているように感じる。
祠の奥にあるラング花に囲まれた台座に乗っているフカフカのミィタのクッションに、かつてミィタの首を彩っていた金のネックレスが置かれ、その中央に鎮座している光の球に向かって手を合わせて、目を閉じる。
温かな風が私の頬や腹を撫でて、狭い祠の中を吹き抜けて行った。
それを合図に、ファーブの方へ向き直る。
ファーブも優しい目で私を見てくれていた。
「ミィタも幸せそうですわ。」
「そうですね。さぁ、冷えない内に帰りますよ。
午後からは、ウィリシュ夫人とルーナ夫人、ヒルデ夫人と共に、キャロル王妃のお茶会に行かれるのでしょう?
私が送りますので。」
「はぁい。」
ニコニコと手をつないで、祠を後にした。
後ろには、温かな祝福の光がキラキラと舞っていた事には気がつかなかった。
おしまい。
やっと完結しました。
ありがとうございました!
乙女ゲームってこんな感じじゃないですよね?
まぁ、私が人の名前を覚えるのが苦手なせいで、登場人物の名前が思い出せない事が多々ありまして、散々スクロールして名前探しが大変でした。
そりゃぁもう、文章が長くなればなるほど、探せない(^ω^)・・・
見つからない。
変なことで苦労した記憶があります。
次からは長くなる時はノートか何かにメモ残します。
日々勉強!
では!またいつかお会いできる日まで!
ありがとうございました!




