表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/64

やっと会えた・・・でも・・・

「なんとも、後味の悪い話ね。」

「はい。」

『この、花が子供を産んだというのは初めて知ったが?』

「はい。これは、我が先祖が、500年と少し前に各地を放浪してまとめた話で、わが国で国が別れた物語として広く知られている中にも、この子供云々の話は無かったのです。

この日記を読んで、初めて私も知った話です。」


ミィタ程長く生きていても、耳にした事がなかった話らしい。

いつの間にか戻ってきていた、陛下の説明に聞き入っている。


あれ…?この、花の子って…ん?


殿下も、他の方たちも神妙な顔で聞いている。

そこに、文官が陛下を呼びに来た。

どうやら、お父様達公爵家の当主が集まっていたのは、隣国との戦の戦略会議のためだったらしい。

考え込んでしまったミィタをそっとしておいて、私達は、隣国の戦火を抑えようと作戦会議に乗り込んだ。

会議はもう既に紛糾していた。


「アリアネス侯爵!つい先日マリーン嬢が、ヘイアン殿下の後宮に入られたのだろう!?

彼女に何らかの指示を出し、ヘイアン殿下に思いとどまっていただくよう説得させられないのか?!」

「お待ちになって下さらない?」


議会は大分紛糾している。

しかし、私の冷静な声は思いの外通ったらしい。


「エミリア!ここは、お前が来るところではないぞ!」

「いえ、お父様。当事者の一人として意見をお聞きいただきたいのです。

陛下、発言をお許しいただけますか?」

「許そう。」

「ありがとう存じます。

ヘイアン様が後宮の女性たちを大切になさっている事は、私も聞き及びまして、存じ上げております。」

「ならば!」

「しかし私の見た所では、ヘイアン様が、彼女たちの説得に耳を傾けるかと聞かれたら、悩まざるを得ませんわ。

彼女たちは、ヘイアン様の相談相手ではなく、癒し手のような存在ですので。

今はアリアネス侯爵令嬢の件を度外視して、対応を話し合うことが先決だと考えますわ。」

「ふむ。それは、僕も賛成だね。」

「しかし、陛下!」

「こうしている間にも、隣国は兵を集めて我が国に進攻しようとしている。

レッドハーツ公爵。対応はどうなっている?」

「はっ!

隣国は、森は深いが幅の狭い、我が領との境目に集まっているとの情報があります。

我が領の偵察隊の報告により、陽動要員を潜入させることに成功しました。

これにより、今しばらくは時間が稼げるかと!」

「ふむ。」

「ならば、何よりも民の安全でしょう!

すぐに避難命令を。

隣国から遠く森の厚いオランジ領と、我が寮にも難民受け入れ態勢を敷いて、ブルーラング領、レッドハーツ領、ライトブルー領で前線を食い止めないと!」

「エミリア嬢の言う通りだね。皆、任せたよ?」

「「「「「「はっ!!」」」」」」


陛下の威圧感のある一言で議会はバタバタと閉会した。

会議が終わり、吐き出されるように会議室からなだれ出た私に、陛下が近寄ってきて話しかける。


「エミリア嬢。」

「はい?」

「聖獣殿が怪我で前線に出られない今、貴女にこんな事を頼むと、この国が滅びてしまうかもしれないが…できれば再び、レッドハーツ領で待機していただきたい。」

「えぇ。この状況ですもの。

フフッ、ミィタが私の愛するこの国を滅ぼすなんて、皆様ご冗談がお上手ですわ。」


申し訳なさそうな顔で、ミィタの冗談を飛ばせる陛下には、実はまだ余裕があったのか!と感心する。

さすが、政策を担うものとしての、責任感や話術に富んでいてジョーイおじさんを見直してしまった。

ファーブだけが呆れたように、その状況を見て息を吐いていた。

私の笑顔を見て、ジョーイおじさんの疲れきった顔に少し赤みが差してきた。


「いえいえ・・・聖獣殿が居ない状況で申し訳ないが…」

「フフッ、大丈夫ですわ。ミィタをよろしくお願いいたします。」

「最上級のもてなしを約束しよう。」


そうして、私とファーブはレッドハーツ領の高原へと戻った。


「さぁ、始まりますわよ。」

「お嬢様。」

「私が、戦意を削ぎます。ファーブは暗部を連れて、一人でも多くのイルッターナの民の意識を奪い、戦力を削いでくださいまし。」

「意識を…でございますか?」

「えぇ、決して命を奪う事のないように。」

「仰せのままに…」


ミィタはここにはいない。

来ると言ってきかなかったが、意識を奪って城において来た。

殿下には、「相変わらず規格外の魔力だ…聖獣様の意識を奪うなんてな…」と、言われたが、怪我をしているミィタにこれ以上負担をかけたくはない。

ファーブはミィタを撫で、彼の分も私を守ると言ってくれた。


遠く森の影から、たくさんの人が出てくる様子が、米粒よりも小さなサイズで見える。

ぞろぞろと移動し、全容が見えようとする頃。

大勢の人が、丘の上から走り降りてこちらにやってくる。

それを遠くに眺めながら地球に生き残った戦闘民族の様に、瞬間移動で最前線へ移動する。


風向きはこちらの味方。

ザワザワと闘志を斯き立てているこちらの方たちにも、折角遠い所歩いて来て下さったあちらの方たちにも悪いけれど、彼らの命を奪う事も、奪わせることもしたくない私が全て収めます!


目を閉じて大きく息を吸い込む。

突然、隊列の最前線に現れた私に、レッドハーツ先輩達が驚いて目を剥いている。

そちらをちらりと見て、微笑み、一気に声と魔力を風に乗せる。


私の手で どれほどの事が出来るだろう


戦禍いは 何も生み出しはしない 気が付いているでしょう?


会いたい 話したい事が たくさんある


穏やかなメロディーに乗せて、低く高く抑揚をつけ、赤子を寝かせる為に歌うように優しく言い聞かせるように、人々の闘志を凪いでいく。

走っていたイルッターナの人々は徐々にスピードを落とし、矢を構えていた人たちは弓を下ろし、剣を向けていた人々は剣を取り落とした。


どんどんと人々の戦意を奪っているのを肌で感じる。

ヴィケルカールの人たちもイルッターナの人たちも、ぼんやりと涙を流して、茫然と遠くを眺めながら、あるいは早々に家族に会うために引き返しつつ、私のアカペラの歌を聴いてくれる。

その隙をついて、ファーブ達暗部が彼らの後方に回り、気付かれない内に一人一人と民衆の意識を奪い、確実に戦力を減らしていく。

民衆の間に、ところどころ混じっている、真っ黒な人影は容赦なく切り倒すファーブ。

私の魔力を載せた歌が充満する空間の中で、自由に動けるのは、ファーブや私の保護符を持った暗部と、魔族のみ。


「やっと見つけた。」


風向きが変わったか、突然突風が私に吹きつけて、髪を乱す。

歌を止めざるを得ず、周りを見渡す。


「来られましたか…」

「お嬢様!」

「ファーブは、傷つく方を一人でも減らしてくださいませっ!!」


突然、敵軍の最前線に、漆黒の軍服に身を包み、ワインレッドの髪をなびかせた金目のヘイアン様が現れた。

彼の右手には大きな漆黒の大剣。

ヘイアン様の周りには、陽炎のようにユラユラと、風景が滲む程の黒い魔力が流れ出ている。

ファーブが、ヘイアン様に気がついてこちらに来ようとするのを制止し、私と彼の周りをグルッと囲むように結界を張る。

お互いに声を張り上げないと聞こえない程の距離で、しかしお互いだけを見つめて会話を繋ぐ。

会話が途切れた時が、最後だと私にも分かった。


「なぜ、私を愛することを拒む!」

「私は、私を唯一として愛してくださる方と共に居たいのです。」

「ふっ!貴様らは高位貴族だろ!政略結婚などよくあるだろう!」

「だからですわっ!純粋な政略結婚として、愛のない生活は我慢できましても、貴方の心は救われない!

私、貴方には幸せになっていただきたいですわっ!」

「だが、お前は確かに俺を愛しているだろう!?」

「えぇ。それは否定いたしませんわ。

初めて、キャロル姫に聞いたシナリオの強制力とやらを、信じてしまいそうになりましたわ。」


私の心は、彼を愛している。

しかしそれは、心を鷲掴みにされる様な激しい恋ではなく、凪いだ水面を見る様な穏やかなものだ。

まるで、弟と居る時の様な、愛おしいが守るべき対象の様な気持になる。


「そのまま、信じてしまえばいい!」

「でも、違うのですわ!確かに私の心は、貴方を愛しています。

けれどこの愛は、男女のソレではありませんわ!

貴方は、愛を求めておりますが、満足されるわけではないではございませんか。

人は、愛を与え、また受け取る事によって心満たされるのですっ!

私は、貴方に与えられる…愛…を…??」


ドキンと、動悸がする。

なんだろう?

私は何かを忘れている。

忘れてはいけない何か…

頭に霞がかかったように、訳が分からなくなる。


「どうして、拒絶する?

俺には何が足りない?

どうすれば人を愛せるんだよ!?

誰が俺に教えてくれた!?

誰もだ!!」


激しい彼の怒り、悲しみ、困惑を受けて、悲しい気分になってくる。

誰も彼を救わないの?

どうして…彼は孤独なの…?

どうして…私は、彼を救えないの…?

どう…して・・・?

違う…ちがうっ!

私は…私が…救えなかった、の…?


「違う!ごめんなさい。

貴方が孤独なのは、貴方が愛を知らないのは…私の、せい…?」

「もう一人は嫌だ!受け入れろ!!」

「貴方は一人ではない。もう終わりにしましょう?私が共におりますわ…」


私がヘイアン様と会話をしていた事によって、歌の力で奪っていた民衆の意識が徐々に戻ってきた。

ファーブはその中で、必死に私の命令を守ろうと、着実に人の意識を奪っている。

周囲には、私の張った結界を打ち破ろうと必死になっているイルッターナの人々とヴィケルカールの人々。


ヘイアン様を取り巻く黒い靄が、彼の持つ巨大な剣に纏わりつき、陽炎の様にその輪郭をぼやけさせ、真っ黒の炎の様に形を変えて取り巻いている。


結界の外では、ファーブが黒い影を何人切り倒そうとも、黒い影は次々に湧き出て切りがない。

そして、何人の影が切り倒されようとも、彼らはお互いを振り返る事もせず剣を振り回す。


漆黒の炎を纏う巨大な剣を振りかざして、私に向かって疾走してくるヘイアン様。


「俺を拒絶するなぁぁぁああ!!」

「拒絶など…出来ません!」

「あぁぁぁぁああ!!」


キィン


金属が擦れ合う高い音が響く。

私の張った結界に、ヘイアン様の巨大な剣が刺さっている。

私の頭上でガッチリと止まっている剣に視線を向け、動揺を隠せずにヘイアン様を見る。

力を入れて振り抜けば、私など一刀両断できただろう。

ヘイアン様も、泣きそうな顔で私を見下ろしている。


泣かないで…


思わずヘイアン様の頬に向けて伸ばしかけた腕を避けるように、ヘイアン様は身を翻す。

元の位置まで下がり、こちらを見据える彼の顔はもう先程の悲しみを欠片も感じさせない。


その姿に、また泣きそうになる。


ヘイアン様の背後から、ゆらゆらと黒い靄が陽炎の様に立ち昇り、それが徐々に人の形をとって赤い目を開く。

1体、2体…合計5体まで増えたそれは、私を睨み据える。

動こうとしない魔族に周囲は息を吞み、ヴィケルカール側は私を守ろうと必死で結界を壊そうとしている。


「貴方が…魔族を生み出しておりましたのね…」

「俺の魔力は、かつての魔法使い達の当主を上回る。

そんな濃密な、闇の魔力を俺が抑えるのをやめた時、初めてこいつらが現れた。

俺の深い痛みや悲しみをすべて吸い出すかのように、こいつらが出ていった俺の心は軽くなりぽっかりと空いた。」

「それは…」

「魔族を俺が初めて見たのは、養父が出したものだった。

養父は、ある女を想い、晩年一体の魔族を生み出し、魔力を根こそぎ使い切って消えてなくなった。

年を経て、養父の子供や孫共になっていくにつれ、奴らは魔族を生み出せるほどの闇の魔力を持てなくなっていった。

魔族を生み出せるほどの魔力を持つ奴が生まれても、魔族を生み出すほどの心の闇を抱えないのか、穏やかに死んでいった。

俺だけだ…俺だけがいつまでも変わらない。

魔族を生み出し、魔力を減らしても、いつの間にか元に戻る。」

「ヘイアン様…」

「あいつらの数は俺の苦しみの数だ。フハハハハッ。」


そう言って狂ったように笑いだす。


「笑えませんわ…」

「もういいだろう?俺は死ねない…お前なら…お前の魔力なら…」

「ヘイアン様。」


泣きそうな表情のヘイアン様と見つめ合う。

ドキンと動悸がする。


「私は、ヘイアン様を傷つけたくありません。」

「だが、俺は他の誰でもなく、お前が良いっ!」


巨大な剣を振りかぶり、私に向かって振り下ろしながら、懇願するように私を見詰めるヘイアン様。

心臓が耳のあたりまで移動してきたように、周囲の音が聞こえない。

ドキンドキンと落ち着いた心音に、私も運命を共にする覚悟を決めた。


「わかりましたわ、一緒に参りましょう・・・隔絶!!」


一瞬、周囲に水を打ったかのような、戦場にあるまじき耳が痛くなるほどの沈黙と、私の声が響き渡った。

掌から、薄い紫がかった眩い光が弾け出てきて、一瞬にして私の五感を奪う。

私の中の魔力が渦巻いて、意識が朦朧としてくる。

公爵家の者が命と引き換えに使う事が出来る、最大にして、最期の魔法。


これが、特化魔法…


目の前に光が現れ、周りの人すら光に飲み込まれて、視界は白一色になる。

瞼を閉じているはずなのに、眩しい光の中で、感覚的に確かに感じる光の檻。

眩い光の檻に閉じ込められたヘイアン様は、やっと得られた穏やかな時間に微笑んだ後、私の姿を見て驚いたように瞬いた。


「お前…?」

「寂しかったのは分かります。しかし、寂しいままのあなたを一人には出来ませんわ。

一緒に、ゆっくりいたしましょう?」

「やめろ!殺せ!お前が、魔力の枯渇で消えうせる!」

「もう止まりませんわ…フフッ」

「しかしっ!」

「これからは、私が貴方に寄り添いますわ…寂しくないように…

そうして、少しずつ癒されて下さいまし…」


ヘイアン様が光の中で意識を失うと同時に、光が徐々に落ち着いてくる。

光が少しずつ小さくなると共に、私の意識も光に吸い込まれるかのように薄れていくのが分かる。

結界が壊れ、人がゾロゾロとこちらに寄ってくるが、誰も何も言葉を発しようともしないし、誰かに攻撃を仕掛けようとする人もいない。

ただ、皆静かに、倒れる私にゆっくりと降ってくる一粒の光る球を見つめていた。


横になっている私の掌に、温かに光るビー玉が一つコロンと乗ったのが分かった。


よかった。

温かな球の中に、確かに彼の穏やかな鼓動を感じる。

もう、今は何も考えずに、ゆっくり、グッスリ眠りなさい。


「お嬢様!」

「ファー、ブ…良かった…無事、だったのね…」

「お嬢、様…?」

「ごめ…なさ…も・・・眠くて・・・・・・」


風の速さで駆け寄ってきて、倒れ伏した私を抱きかかえたファーブが、悲壮な形相で私に呼び掛ける。

けれど、私の意識はもう殆ど残っていなくて、ファーブにちょっと眠らせてほしいと訴えるので精いっぱいだった。


走馬灯って本当に見るのね…


その時私が見ていたのは、今まで過ごした様々な人生。

ゆっくりと、巻き戻るようにゆっくりと、死んだ直後からどんどんと若くなり幼くなり産まれた直後までを、何人分も様々な私の人生を見る。


あぁ…そうだ…やっと思い出した…


ファーブの戸惑う声が、どこか遠くで聞こえる。


「エミリア嬢!」

「エミリア様!!」

「エミリア!!!」


殿下の、レッドハーツ先輩の、ショーン様の、お父様の声が…涙に震えているのが聞こえた。

上がらない瞼。

叩かれる頬。


誰さ?ちょっと乱暴じゃない?

フフッ、失礼な人たちだわ…


どうか泣かないで…?


ごめんなさい。

どうやら私、ここまでのようですわ…





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ