飲み水は井戸から汲むの?
今回の登場人物
ミリア:しっかりもの。
ココ :何にでも興味津々。
オルガ:宿の女将。
旅人 :街からの旅行者。
岩ノ山:元力士。
暑い日の昼下がり。
街から来た一人の旅人が、
汗を拭いながら
宿屋『山神の宿』へやって来たよ。
「ふぅ……。
水を一杯いただけますか」
カウンターで迎えた女将のオルガさんは、優しく微笑んで奥に声をかけた。
「はいはい、いらっしゃい。
ミリア、井戸まで案内しておくれ」
それを聞いたココちゃんが、
不思議そうに首をかしげた。
「ねえお姉ちゃん、
井戸って案内するものなの?」
旅人も
「私もそう思っていました。
井戸といえば、
庭先を深く掘るものかと……」
と頷くね。
「ふふ、まあついてきてよ」
ミリアちゃんに案内されて
村の広場へ向かうと、
そこには見事な石組みで囲われた
共同水場があったんだ。
太い木をくり抜いた
「樋」の先から、
澄んだ冷たい水が、
絶え間なく流れ続けているよ。
「これは……
これが井戸ですか!?」
目を丸くする旅人に、
ミリアちゃんが誇らしげに説明する。
「そう。
山神村で『井戸』っていったら、
この水場のことなんだ。」
「遥か高い山腹にある
『山神湧水』から、
石の水路で引いてくるんだよ」
「そこから木でできた樋で
村の各所に分岐させているの」
旅人は差し出されたジョッキに水を汲み、一気に飲み干した。
「――っ、冷たい!
なんて美味い水だ」
「でしょ?
ここが一番の上流だから
『飲み水』専門」
「もう少し下流に歩くとね……」
ミリアちゃんについていくと、
少し大きめの共同洗い場が見えてきた。
村の女性たちがお喋りしながら、
洗濯をしたり、採れたての野菜や桶を洗ったりしている。
「下流はこういう
『生活用水』に使うの」
「そして最後は、
村の端っこにある『山神池』に流れ着くんだよ」
山神池では、
アヒルがのんびり泳いでいるね。
上流から下流へ、
水を無駄なく使い分ける見事な仕組みに旅人は深く感心しているね。
「なるほど……。
では、地面を掘った井戸は、
村には一つもないのですか?」
「ううん、ありますよ」
とミリアちゃん。
「川の近くや街道側には、
ちゃんと掘った井戸もあるの」
「でも、普段は予備だね。
大雨で山の樋が詰まって、
水が止まっちゃった時なんかに使うんだ」
その時、仕事の合間に岩ノ山さんも水を飲みにやって来たよ。
ココちゃんがタタタッと駆け寄る。
「はいヤマさん、お水」
ココちゃんは小さなひしゃくでお水を差しだす。
岩ノ山さんは
蹲踞の姿勢で
ひしゃくを厳かに受け取ってるね。
「……何かの儀式ですか?」
旅人が不思議そうに眺めているね。
「冷たくてうまい」
岩ノ山さんは満足そう。
「土地が変われば、
井戸の形も違うものですね。
素晴らしい工夫だ」
「山神村では、
これが普通なんですけどね」
ミリアちゃんは嬉しそうに笑った。
今日も山から届く水が、
村の暮らしを静かに支えています。




