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世界は数式で抱きしめられている  作者: 海内裏
第Ⅲ章:保存されるエネルギー

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終章 エピローグ:『世界は、眩しい数式で満ちている』

終章:未来へつづく講義

「先生! 現代物理の単位、無事にとれました! ほら、『良』ですよ!」

大学近くのカフェ。成績通知書を突き出す私に、先生は「よくやったね」と、初めて私の頭を優しく撫でた。大きな手の温もりに、私の胸の周波数が跳ね上がる。

「でも、これで先生の講義も終わりかぁ……。なんだかちょっと、寂しいかも」ポツリと呟きながら、私は窓の外の交差点を見渡した。夕暮れの東京。そこには、信じられないほどたくさんの人々が行き交っていた。

かつてはただの「無機質な他人の群れ」にしか見えなかったその光景が、今の私には全く違って見える。鞄に可愛い猫のペンを挿し、誰かに近づくのを少しだけ躊躇っている女の子。隣を歩く冷めた目の男の子に、これでもかと大きな声を張り上げて背中を叩くお姉ちゃん。重そうなチェロのケースを背負いながら、仲間たちと心地よさそうなディスタンスを保って笑い合う学生。ノートに一本の直線をまっすぐ引きながら、夕暮れの光の中で真剣な顔をして誰かと議論している法学部のひたむきな背中。誰もが目に見えない引力や斥力、エネルギーを抱えながら、この世界を懸命に生きている。

ただの冷たい記号だと思っていた数式は、この街で行き交うすべての人々の、不器用で愛おしい命の営みそのものだったのだ。世界は、こんなにも眩しい数式で満ちている。

「何言ってるの」窓の外を見つめる私に、先生が悪戯っぽく微笑んで、真新しいノートを私の前に広げた。そこには、また見たこともない不気味な記号が並んでいる。

「君が選んだのは『通年(春・秋)』の科目だろ? 後半の秋学期からは、いよいよアインシュタインの相対性理論と、ミクロの不条理な世界――『量子力学』が始まる。夏休みの間も、たっぷり特訓が必要だね」

「えええっ!? 先生、それって、私の脳みそが完全に崩壊 (カオス)するやつじゃ……!」悲鳴をあげる私の前で、先生は嬉しそうに声をあげて笑った。窓の外には、ギラギラとした夏の太陽が東京の街を照らし始めている。私と先生の、世界のルールを知るための特別な講義は、まだ始まったばかりだ。

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