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repeat(リピート) ~運命の指輪に願うこと~  作者: しんいち
repeat2 未来の味

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11/41

四話目 シフォンは逃げた

矢が的に当たった瞬間――


 世界が歪んだ。


 音が消え、わたしの周囲は映画のリールを巻き戻すように光景が移り変わる。


 きた!


 あの時と一緒、始めてタイムリープした時と同じ光景。

 足元が揺らぎフワリと、わたしは宙へと浮き始めた。


 始めて体験した時のような恐怖心はもうない。


 巻き戻っていく周囲の光景を眺めながら、改めて不思議な体験をしているのだと気付く。


 そして巻き戻る世界の先にあの光の玉が現れ、わたしの周りをユラユラと飛び始めた。


 前はこれに触れて元の世界へと戻った。

 ゆっくりと手を伸ばし、触れようとした瞬間、手が止まる。


 もう後戻りは出来ない。

 AIが言っていたあの一文が頭を過るが、おおきく息をして――


 その光の玉に触れた。


 ★☆


「うっ、ううん……」


 夢から覚めたように少し頭が重い。

 わたしはソッと目を開ける。


「あれ……ここどこ?」


 周囲を見渡しながら手元に視線を移し、二回、手を握り直す。


 感覚はしっかりと感じられる。

 ちょっとだけお腹が膨れている感覚もある。

 わたしは改めて周囲を見渡した。


「ここ……

 わたしの部屋だよね。」


 わたしは学校の弓道場にいたはず。

 服装を見ると、いつものグレーのスエットの家着を着ている。


 見慣れた天井。机の上の消しかけの落書き。

 部屋の隅に脱ぎっぱなしにした靴下まで、全部そのままだ。


「嘘……

 タイムリープ出来たんだ。」


 わたしはすぐにスマホを探し、机に置いてあるスマホを手に取った。


「今は何時なの?」


 スマホの横のボタンを押し、画面が明るくなる。

 

 『19時45分』


 さらに日付を見る。


「えっ……土曜日!

 いつの?

 あれ、この日付。

 前日の土曜日だよね。」


 わたしが戻って来たのは結依とケーキを食べに行く日の前の日。


 時間はちょうど夕飯を食べて満足して、部屋でゴロンとしていた時間だった。


 ちょうど良い時間。

 昨日から続くの出来事が全てリセット出来た。


「神様ありがとう!」


 都合良く感謝を述べながら、わたしはそのまま結依に連絡をとった。


 耳元で呼び出し音が聞こえる。


「モシモシ!結依。ちょっと相談があるの……」


「えっ!なに……また変な事でしょ。」


 高鳴る胸を押さえながら結依と話し始めた。


 ★☆


 そして次の日。

 

 わたしは、いつもの駄菓子屋のある交差点で結依を待っていた。

 

「はぁぁぁぁ……おはよう、明穂……」

 

 大きなあくびをしながら、結依が力なく手を上げる。

 

「おっはよー!」

 

 わたしは対照的に、元気よく手を振り返した。

 

「もう早いって……なんでこんな朝からテンション高いのよ。ふぁぁぁ……」

 

 結依はもう一度、大きなあくびをする。

 それも無理はない。

 

 今日は前回より、電車を三本も早めている。

 待ち合わせは、なんと一時間以上も前倒しだ。

 

 昨日の夜、この作戦を提案したとき、結依は全力で抵抗した。

 

『そんなに早く行かなくても大丈夫だって。シフォンは逃げたりしないでしょ。』

 

 ……甘いわよ、結依。

 逃げたのよ、シフォンは。

 

 わたしたちの数十メートル先を――駆け足で。

 あの絶望を、わたしは忘れていない。

 

 結依が朝に弱いのは知っている。

 それに、わたしと違ってちゃんとメイクを整える結依は、わたしより早く起きなきゃいけないのも分かっている。

 

 それでも。

 

 激しく抵抗する結依を、どうにかこうにか説得した。

 

 ――逃がさないわよ。

 

 わたしのシフォン。

 

 今日こそ、お腹の中に収めてやるんだから。


 気合いは十分。

 

「さ、行こっ」

 

 わたしはまだ半分眠っている結依の背中を軽く押して、駅へ向かって歩き出した。

 結依はふらふらとついてくる。

 

「……明穂、元気ね。」

 

「当たり前じゃない。わたしはいつもの全力よ。」


「それを勉強にもいかせたら良いのに……」


「うっ」

 

 そんなやり取りをしながら、わたしたちは駅へ向かった。

 

 ――この時のわたしは、まだ思っていた。

 これで、未来は変わるはずだって。


 駅の階段を、わたしはスキップまじりに駆け上がる。

 軽い足取りのまま、そのままホームへと降り立った。

 

 ――今日も、わたしの勝ちね。

 

 誰に聞かせるでもなく、心の中で小さく呟く。

 

 電光掲示板を見上げた。

 電車の到着まで、あと十分。

 

 ホームの端に立ち、今か今かと線路の先を覗き込む。

 まるで遠足前の子どもみたいに落ち着かないわたしに、後ろから結依の呆れた声が飛んできた。

 

「明穂、危ないわよ。」

 

「大丈夫だって」

 

 その瞬間だった。

 ふいに、胸の奥がざわりと揺れる。

 

 ――見たことがある。

 

 思わず、息が止まった。

 

 これ……あの映像だ。

 

 わたしが立っている、この場所。

 昨日見たあの光景と、ほとんど同じだ。

 

 人気のないホーム。

 

 差し込む朝の日差しの角度。

 

 すべてが、ぴたりと重なる。

 まるでパズルの最後のピースがはまるみたいに、記憶の中の映像がカチッと音を立てて重なった。

 

 そのときだった。

 ホームにアナウンスが流れる。

 

『ただいま車両の安全確認のため、運行を一時見合わせております。お客様には――』

 

「嘘でしょ!」

 

 思わず声が漏れた。

 わたしは呆然とホームを見上げる。

 

 なに?

 どうして?

 

 頭の中が真っ白になる。

 そして、ふいに一つの言葉が浮かんだ。


 ――時間の自浄作用。

 

 まるで、未来が自分で形を戻そうとしているみたいに。

 

 まさか。

 ここまでするの?

 

 肩を落として立ち尽くす、わたしの横に、結依がため息まじりに近づいてきた。

 

「私を早起きさせた罰ね。」

 

 ぽん、と肩を叩かれる。

 わたしは口を開けたまま、ゆっくり振り向いた。

 

「えっ……?」

 

 結局、わたしたちは一時間近くホームで足止めを食らった。

 

 ……意味ないじゃん。

 

 ベンチに座るわたしの横で、結依の小言が延々と続く。

 

「だから言ったでしょ。そんな早く行かなくてもって。これはきっと神様がね――」

 

「うん……うん……」

 

 生返事を返しながらも、頭の中では別の計算が回り続けていた。

 

 まだよ。

 まだ負けてない。

 

 電車がホームに滑り込む。

 ドアが開くやいなや、わたしは素早く乗り込んだ。

 

 確か、前は……。

 

 わたしたちの前に並んでいたのは五人。

 駅から走れば、まだ間に合う。

 道は覚えているんだから。

 

 ――逃がすもんですか。

 

 まだ諦めていない。

 駅に着いた瞬間、わたしは駆け出した。

 

「結依、早く!」

 

「ちょっと明穂!」

 

 呼び止める声を背中で振り払いながら、階段を駆け上がる。

 改札を抜け、そのまま通りへ飛び出した。

 後ろから、結依が息を切らして追いかけてくる。

 

「明穂、待ってよ! ここまで来たらシフォン逃げないわよ!」

 

「逃げるのよ!」

 

 自分でも意味の分からないことを叫びながら、走り続けた。

 

 そして――。

 

 店の角を曲がった瞬間。

 

 わたしの目の前に、絶望が広がった。

 

「……えっ?」

 

 思わず足が止まる。

 

 人の列。

 長い。

 この前より……多くない?

 

 慌ててスマホを見る。

 時間は、前より五分早い。

 

 それなのに――。

 

 追いついた結依が、息を切らしながら言った。

 

「やだ、並んでるじゃない。」

 

 その言葉の横で、わたしは小さく人数を数えていた。

 

「……五十五、五十六、五十七……」

 

 声が、だんだん小さくなる。

 

 う、嘘でしょ

 

「六十……六十一……」

 

 一昨日より、十人近く多い。

 目の前が真っ暗になった。

 

「とりあえず並ぼうか。店内無理でも、テイクアウトあるみたいだし。」

 

 結依が気楽に言う。

 

 それは、この前――わたしが言った台詞だった。

 わたしは静かに首を横に振る。

 

 無理なの。

 わたし、知ってるの。

 食べられないのよ、結依……。

 

 もちろん、そんなこと言えるはずもない。

 結局、わたしたちは列に並んだ。

 

 そして。

 

 しばらくして現れた店員が、淡々と告げる。

 

「本日のシフォンケーキは、こちらの四十五名様までとなります。」

 

 その瞬間。

 わたしは、がくりと肩を落とした。

 

 ――そこは、変わらないのね。

 

 こうしてわたしと結依は、結局あの時と同じように近くのファーストフード店に落ち着いた。

 

 紙袋の中からポテトをつまむ。

 口に入れると、少しだけ塩が強く感じた。

 

「あーあ……」

 

 わたしは小さく呟く。

 

「しょっぱい。」


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― 新着の感想 ―
仰られる通り明穂可愛い! なんと幸運なことにnoraさんより先読みが出来て嬉しいです。
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