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後編

それぞれがどのような幸せを掴んだのか、読んでやって下さい!

引き続き、誤字脱字等、いろいろご意見あったらよろしくお願いします!

「今日も遅くまで、頑張っているんだね」


 男性にしては華奢な体つきをした燕尾服姿の黒髪眼鏡が、食べ物の入ったバスケットを手に入ってきた。

 中にいた少女は、声のした方に体を傾け、作業していた手元を止める。


「それはお互い様なのだよ、兄上様」


 白衣を着た少女は嬉しそうに、彼の元へと駆け寄った。


「兄上様、顔色が優れないようだが・・・、大丈夫なのか?」


 部屋の暗さを差し引いても、いつもよりも断然顔色が優れないのが見て取れる。

 心配して顔を覗き込む妹の頭をふわりと撫で、男は部屋に唯一置かれているソファーに、腰を下ろした。


「大丈夫だよ、テトラ。確かに、まあ、疲れてはいるけれどね」

 

 ソファーに深く沈み、背もたれに両肘をかけて、目を瞑っている。

 最近は、毎日のようにこの研究室にやって来る。

 いつも忙しいのは、第一王子の側近であるから仕方のないことだ。

 しかし、最近の疲れ具合というか、元気の無い様は、すぐにでも倒れてしまうのではないかという危険性を十分にはらんでいた。


「一体、第一王子は何で兄上様を困らせているのだ? もしかして、リリーナの姉上殿との結婚の件での嫌がらせなのか?」


 隣に座ったテトラの言葉に、兄は困ったようにして、目を開けて答えた。


「そうだね。その件が、かなりのストレスになっているのは確かだね。最近はとにかく機嫌が悪いんだ。本当に困ったお方だよ・・・」


 迷惑だと言わんばかりの言葉を口にしている割に、顔はそうでもない。

 小さい頃から、第一王子のお世話係としてお使えし、尚且つその仕事を誇りだとでも言わんばかりに真摯になってこなしている兄である。

 だが、このままで本当に兄は大丈夫なのだろうか?

 ふと、サイドテーブルに目を向ける。

 そこにあるものが目について、テトラは何かを思いついたかのように立ち上がった。


「兄上様、疲れている時には甘いものがいいと言う! 丁度リリーナの持ってきたガートーショコラがここにあるから、一緒に食べるのだよ」


 備え付けの棚から、皿を出して、1ホールを6等分しているうちの2切れを各皿に盛り付ける。


「それはいいね、研究で疲れているんじゃないかと、ここにハーブティーを持ってきてあるんだよ」


 兄は、思い出したように持ってきたバスケットの中から水筒とコップを出して用意する。

 ほろ苦いチョコの味が、疲れた体に染み込んでいく。

 兄妹はしばし、美味しいものを食べることに酔いしれた。


「そういえば兄上様、このところ家に帰ってこないと、母上様が心配していたぞ?」


「ああ、他にもいろいろ問題があってね。なかなか第一王子のところを離れられないんだよ。だから家にも帰れないんだ」


 今の兄の状態を見れば、それが嘘でないことも納得できる。

 

「まだまだ大変なのが続くのか?」

 

 上目遣いに聞いてくる妹に、


「いや、もういい加減、ケリをつけようと思っているんだ。私の事は、そんなに心配しなくても大丈夫。それよりもテトラ、お前の研究はどうなんだい? 一体何の研究なんだ?」


 興味津々に訪ねてくる。


「皆が幸せになる研究だよ」


 兄の問いに対し、そう答えるしかできない妹。


「ふーん、進捗はどうなんだい? うまくいきそうか?」


 兄は空になった妹のコップに、ハーブティーを注いでくれた。


「まあ、テーマが大きいからな、ぼちぼちといったところだ・・・」


 兄上様が、笑って幸せに過ごせるようにする為でもあるのだよ。

 私は、兄上様の笑顔を見るのが一番好きなのだから。

 今は、辛いだろうが、もう少し我慢して欲しい。

 きっと、この研究を成功させてみせるから!

 大好きな兄上様、そして親愛なる友人の為にも・・・・


 美味しそうに、ケーキを頬張る兄を横目に見ながら、新たに決意する。

 気づかないふりをしているが、鎖骨や、手首が赤くなっている兄を、優しく見守る妹であった。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「え? ごめん、アニタ。よく聞き取れなかったのだが・・・」


 突然の事に、言った事の内容を理解できていない

 一瞬、全ての時が止まったかのように、誰ひとり動かなかったが、やっとのことで父が言葉を発した。

 その言葉で我に返った母は、口元を手で覆い、妹は目をパチパチさせている。


「おめでとう~! アニタ!」


 母はとても嬉しそうに駆け寄ると、アニタを抱きしめて涙を流し始めた。


「4年間は長かったわね、これでやっと、今までの苦労が報われるわよ」


「ええ、本当に!」


 とても力の入った返事が返ってきた。

 表情には全く喜びの色が伺えない。

 反対に、何やら考え事をしているような顔つきである。

 そんな姉は、フーっと深呼吸すると、

 

「これを期に、すべてをぶち壊し、嘘のない世界で正々堂々と生きていこうと思います。生まれて来る子供の為にも!」


 意を決したかのように宣言した。


「「「はい?」」」」


 やはり、姉の言っていることが理解できないコールドウェル一家。

 みんな、姉を理解しようと各自頭の中で考えを巡らせ始める。

 が、


「と、いうことなので、一緒に来てもらえるかしら?」


 考える時間はなかった。

 何が、“と、いうことなので”なのかは分からない。

 しかし、姉は妹の手を引き、ズカズカと勢いよく部屋を出ていった。


「姉上様、一体どうしたのですか?」

 

 訳の分からない妹は、そう聞くしかない。


「あなたにも関係あるの、いいから付いてきて!」


 腕を強く握られ、引っ張られて着いたのは、王宮である。

 そして、さらに無言で、ずかずかと奥に進んでいく。


「あれ? こんな時間にどうしたんだ?」


 途中で、第二王子とヨナサンに出会い、声をかけられた。

 すると姉は、


「今夜でこんな猿芝居とも終わりです。黙って私に付いてきなさい!」


 と、有無を言わさぬ迫力で命令する。


「「は・・・はい・・・」」


 あまりの迫力に贖えず、付き従う2人。

 無言でひたすら先頭についていく3人が着いた先は、第一王子の部屋であった。


「たのもー!」


 ノックもなしにそう言うと、思いっきりドアを開けるアニタ。

 そして、中の住人の返事を聞くこともなく、つかつかと歩み寄る。


 「「「!」」」


 3人は驚きつつも、だた付いていく事しかできない。


「な・・・どうしたんだ? 何事だ? 一体・・・」


 突然の出来事に、驚きを隠せない部屋の住人。

 そして部屋の真ん中まで歩み寄った時、彼女は大声でこういった。


「発表します! 私、妊娠しました!」


 と。

 部屋に、しばらくの間、静寂が訪れる。

 が・・・・。


「「「ええェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェーーーーーーーーーー!」」」


 驚く一同!


「「ででも、そんな・・・、そんなはずは・・・」」


 思わず声を上げた、頭を抱え込む第一王子に、今だに硬直して顔面蒼白のヨナサン。

 そんな二人を見てオロオロする、第二王子とリリーナ。

 そんな中、


「おめでとうございます、第一王子」


 いつもと変わらない表情にて、規則正しいお辞儀をしながら、お祝いの言葉が述べられる。

 その声のする方向を見て、青ざめる第一王子。


「いや、誤解だ!」


「何がです? 婚約者のご解任、とても喜ばしいものではありませんか」


 少し、声が震えていた。よく見ると、唇を噛み締めている。


「だから違うと言っているだろう? トールズ! 俺の言うことが信用できないのか?」


 燕尾服黒髪眼鏡ことトールズの肩を掴み、揺さぶりながら動揺しまくりの王子。


「これで、私もやっと、肩の・・・荷が・・降ります・・・」


 トールズの体が震えている。

 が、


「私は、アニタとベッドを共にしたことなど一度もない!」


 と、衝撃の一言を返してきた。


「え? じゃあ、お姉様は誰の子を・・・」


 今度は、リリーナが顔面蒼白になる番である。


「そういえば、この中で事情を知らないのは、リリーナだけだったわね」


 冷静さを取り戻した姉が、妹に向かってそう言った。


「はい?」


 痴話喧嘩を始めた第一王子とトールズ、今度は無表情のまま何やらブツブツ呪文のようにつぶやき始めたヨナサンに、その親友を心配する第二王子をよそに、姉が説明を始める。


 事の始まりは、4年前。


 “世界一武道会”で、優勝した後、その祝賀会が行われていた日。

 第一王子は優勝した事により、いろんな貴族や王室関係者から娘を妻にと懇願されまくり、誰か一人を選ばなくては収拾がつかない状況に陥る。

 しかし、そんな本人からすればどうでもいい話題の中心にいることが面倒だったのか、疲れたと早々に部屋に戻ってしまう。


 そして、ここから予想外の出来事が、巻き起こる。


 疲れたと早々に部屋へ引き上げた兄の元へ、仲の良いもの同士だけで祝おうと、飲み物を持って王子の部屋へと出かけたアニタ・レイヴン・ヨナサン。

 部屋の戸をそっと開けた時、何やら艶かしい声が聞こえてくる。

 どんな女としけこんでるのか? 

 さっきあんなにめんどくさそうだったのに? 

 武術一筋の無骨ものがどんな女性と? 

 ・・・・・・・・・・・・・・・という興味に負け、三人は、そっとベッドに近づいた。


 が?!


 そこにいたのは、うさ耳をつけた知り合いだった。

 とても色っぽい、喘ぎ声を出しているのも・・・。

 まだ達する前だっただろうに、あまりの状況に、汗ばんでいる裸の2人は固まっている。

 対する覗き見三人組も、その場で固まっていた。

 お互いに驚くしかない一同。

 そして無言のまま見つめ合う・・・・・・そんな状況の中。

 第一王子は、自分の側近との関係を話し始める。

 自分は、女性には興味がなく、いかにお互い愛し合っているかということを・・・。

 誰もが仕方ないと納得せざるを得ない女性を見つけなけれないけない状況となっていた第一王子は、ここで3人に相談する。

 結果、アニタを“仮の”婚約者に選んだのだった。

 4年後に再度開催される、“世界一武道会”までに、収拾をつけるという期限付きで・・・。

 だが、第一王子は、密かにトールズと逢い引きをするこの秘密の恋に萌えを見出し、なかなか行動に移さない。

 終いには、毎日の国王によるプレッシャーで訓練という名のストレス解消を行い、怪我人続出なのも問題であった。

 そんな第一王子を諌めることもなく、毎日ぼやくばかりで生傷の絶えない、レイヴンと、ヨナサンにも腹が立っている。

 全てが、我慢の限界であった・・・・・・。


 そして・・・。


 彼女は、強硬手段に出た。

 親友、ケイトが好きな男性と確実に結婚する為に使った方法を!


「あの日、君は安全日だから大丈夫って!」


 青ざめた顔で、確認をとるヘタレ黒髪。


「そんなことを信じるなんて! これだから世間知らずは!」


 ハン! と鼻を鳴らす。


「確実に狙った獲物を仕留める為には、手段なんて選んでられないのよ! こうでもしないと、誰も新たに行動を起こさないじゃないの!」


 ご最もです。

 今までの話を聞いていると、お姉様とても可哀想、と言わずにいられない妹。

 しかし・・・。


「だが、主であるレイヴンより先に、俺が結婚するわけにはいかないだろう?」


 そんな妊婦に更に食い下がる、好感度ダダ下がりの黒髪イケメン。


「はあ、何時代錯誤の主従関係を律儀に守ってんの? こんなヘタレを待っていたら、私は一生結婚できないわ!」


 そう言うと、金髪ヘタレその2を睨みつける。


「俺は自分で決めた事を、好きな女の為に立てた目標を、忠実に守っているだけだ!」


 第二王子も反論しだした。

 が・・・。


「好きな“女”? “男”じゃなくて?」


 驚きが隠せないリリーナ。

 “どういう事?”と。


「結局、我が国の王子が揃いも揃って、いつまでたってもヘタレのままだから、こんなに話がこじれるのよ!」


 妊婦の心の叫びが、部屋中に響いた。


「あの~」


 そんな中、申し訳なさそうに手を挙げる妹。


「じゃあ、第二王子と団長はどういう関係なんですか?」


 とても不思議そうに、2人を交互に見るリリーナ。


「え? 見ての通り、幼馴染で、親友で、主従関係だけど? なにかおかしなところでも?」


 更に不思議そうに切り返してくる第二王子。


「そして、ヘタレな第二王子様は、“世界一最強”な、自分のお兄様に勝つまでは、あなたに告白しないって、一方的なマイルール作る根性なし男なのよ、リリーナ」


「バ! ここでなんでそういう事!」


 妊婦の発言に、慌てふためく第二王子。


「え?・・・・」


 ショックを受けているリリーナ。

 “どういう事?”と、顔色が赤くなったり青くなったりと何やら忙しそうである。


「ところで・・・、この件は一体どういった形で、収集されるおつもりなのでしょうか?」


 一通り言い争いを追え、次第に落ち着きを取り戻し始めた燕尾服眼鏡が発した言葉に、その場全員が黙り込む。


「心配はいらないのだよ!」


 そこで、待っていましたとばかりに、白衣のお団子頭が登場した。


「兄上様! おめでとうなのだよ! これで気兼ねなく、愛を育める事、幸せになれる事が、私はとても嬉しい」


 満面の笑顔で、兄を抱きしめ、祝いの言葉を述べる。


「え? でもテトラ、このままじゃ・・・・」


 妹に抱きしめられたまま、呆然とする黒髪眼鏡。


「大丈夫! 兄上は幸せな結婚ができる。そうであろう? リリーナ!」


 そう言って、自信満々に親友を見る。


「はい、問題ありません、トールズさん、第一王子。こんな時の為に、テトラに依頼して、ずっと研究している事がありますから・・・」


「そう、私は、親友と共に、“男同士でも子供ができるようにする”研究をしているのだよ、兄上様」


「え? なんでそんな研究を・・・・・・・」


 妹の研究内容を知り、驚く兄。


「私は、第二王子はずっと団長と恋仲だと思っていました。なので、せめて好きな人の事を応援をしたくて、ずっと彼女に研究を頑張ってもらってたんです。役に立てそうで良かった!」


 補足説明をする、白衣の親友。


「え? ・・・」


 突然の告白めいた言葉に驚く金髪ヘタレ。

 今度はこちらが、“どういう事?”と、顔色が赤くなったり青くなったりと何やら忙しそうである。


「えっと、テトラも、リリーナちゃんも、男同士とかいうのには、その・・・抵抗ない訳?」


 とてもいいにくそうに、2人に問いかける燕尾服。


「男性同士の恋愛って素敵ですよね? とてもロマンティックで、ドキドキするお話が多くて、私は好きです!」


「リリーナの言う通りだ。真実の愛には、人種も性別もない!」


 とてもスケールのでかいことを言い放つ、年少組。


「そ、そうなの?」


 ホッとしていいのか、考え方を改めなくてはならないのか戸惑うホモップル。


「そこでだ・・・」

 

 白衣お団子頭を中心に、その場にいた7人の綿密なる“ある計画”が、朝まで執り行われるのであった・・・。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「いやあ、話は聞いたよ、ご懐妊だそうだね」


 この世の春と言わんばかりの上機嫌の国王様。


「そうですね、人生何事も諦めが肝心ですから・・・」


 複雑な心境で、渋い顔をしたままの宰相様。

 見れば、やつれた趣をしている。


「やっと念願の、孫の顔が見れるのね! どちらに似てもきっととても愛らしいこと間違いないわ!」


 何やら色々と妄想を張り巡らせているせいか、興奮気味の王妃様。


 今現在。 

 ここ大広間には、国王と王妃、宰相夫妻と大将軍に魔導部隊総指揮官と、朝まで討論し合った7名とが集まって、お茶をしている。


「妊婦の為にも、早々に結婚式を執り行わねばいかんな!」


 国王が、本題に入ろうとしたその時、


「その件に関して、俺等7名から意見がある!」


 第一王子が、手を挙げて立ち上がる。


「3組合同結婚式を行いたいと思う!」

 

 と・・・。


「? して、その3組とは?」


 国王が質問する。


「私、第一王子とトールズ、第二王子とリリーナ、ヨナサンとアニタの3組のカップルだ!」


 緊張しているのか声が少し震えているが、大きな声ではっきりと述べる第一王子。


「「「「「「はい?」」」」」」


 親組の声が、一斉にハモった。

 しばらくの沈黙の後・・・・・・・・・・・・。


「ヨナサン貴様!」


 我に帰った大将軍が、咄嗟に腰の剣を抜く。


「大将軍、これには訳があるのだ、落ち着いて座って聞いて欲しい」


 第一王子が、咄嗟に剣を抜いて、大将軍の剣を抑える。

 

「そういうことだ、落ち着いてくれ、父上」


 まっすぐな目で、父を見るヨナサン。

 そんな息子をしばらく見た後、大将軍は剣を鞘に戻し、椅子に座って腕組みをしたかと思うと、それからは無言となった。 


「アニタ、お腹の子ってもしかして・・・」

 

 青い顔をして震えながら、ひきつった笑顔で娘に問う宰相。


「私、第一王子の子だとは一言も言っておりませんわ!」


 それが何か? と言わんばかりの態度で、紅茶を飲むアニタ。

 その言葉に、宰相はフッと意識を失った。

 確実に、魂が飛んでいってしまっている。


「私が理解するに、第一王子と我が息子という組み合わせは、明らかにおかしいと思うのだが?」


 両手を組んで肘をつき、そこに額を当てて難しい顔をしている、魔導部隊総指揮官。


「何もおかしいことはないのだよ、父上様。兄上様は、真実の愛に目覚めておられる」


 正論だと言わんばかりに、父に訴えるお団子頭。


「テトラ、何頓珍漢なことを言っているんだい? 同性同士では、子孫繁栄は望めない、何の未来もない不毛な行為だよ? そんなことが許されると思っているのか? トールズ」


 自分の育て方に間違いがあったのかと苦悩する、魔導部隊総指揮官。

 そんな父に、自分の意見を言おうとして立ち上がった息子を、恋人が優しく座るように諭す。

 見つめ合う2人。

 そして・・・・・・。


「そんなことはありません、魔導部隊総指揮官。いえ、義父上、私達は真剣です。どうか認めてください!」


 第一王子は、魔導部隊総指揮官に向かって、深く頭を下げる。

 そんな状況の中、国王は挙動不審になり、王妃と宰相の妻であるメイド側近は何を考えているのか、一点を見つめたまま、微動だに動かない。


「それでは父上様は、東の国の王家には、何の未来もないというのか?」


 白衣の少女が、父を睨みながら問う。


「ん?」


「知らないはずはない。あそこの第一王子も同性婚だ。ちなみに私は、東の国と共同で、“男同士でも子作り可能”な、研究を行っている。共同研究者は、あそこの第一王女だ。私の趣味仲間でもある。彼女も今回の件については、国を挙げて応援してくれると言っている。それに研究が実現可能となれば、東の国に恩を売ることとなり、我が国に多大な利益をもたらすことになると思うのだが?」


 と、白衣少女は、とんでもない切り札を出してきた。

 東の国は、同性婚にもオープンなので民間の間でも多く、王族関係でも何の障害もなしにあっさり認められる。

 しかし、同性同士で子供が出来たという例は、今まで1件たりとも無い。

 この件は、全く結婚に興味のない王女を含め、東の国の王家では、大問題となっている。

 それに、珍しい鉱物がたくさん取れる国でもあるので、親密であって損はしない相手なのだ。

 更に、


「3組合同で、一斉に挙式を挙げてしまえば、経費節減にもなってかなりお得! そして、みんなの負担が1/3になる!」


 と、国の財政管理にうるさい宰相のご機嫌も取っておく。

 この内容のみ聞こえたのか、ここで宰相は意識を取り戻し、何やら考え始めた。

 

「私が、不甲斐ないばかりに、こんな回りくどいことになって申し訳ない。だが私の愛は本物だ! 私は、一生女性に愛が芽生えることはない、いや、トールズ以外誰にも・・・」


「第一王子・・・」


 そして、2人の間に、甘い空気が流れる。


「それよりも、不貞を働いた我が息子は・・・」


 再度息子を責める、大将軍。


「いや、今回の婚約は、私が不甲斐なかった為に起きてしまった事故だ。元より、騎士団長はアニタと恋仲だ。誤解させて申し訳ない」


 今度は、大将軍に向かって頭を下げる第一王子。

 ここまでされてしまっては、何も言いようがなくまた黙ってしまう大将軍。


「いいわ、いいわ、いいわーーーーーーーーーーーー! それでこそ私の息子! まさに最強の愛の戦士!」


 突然立ち上がったかと思うと、興奮気味に叫びだす王妃様。


「え? いいの?」


 その言葉に、驚く国王様。


「もちろんよ、だって息子が真実の愛に目覚め、今、目の前でみんなにそれを証明している。こんな素敵なことはないわ! 私はあなたを誇りに思っていてよ、アズベルト! その真実の愛で、国民を導いて頂戴!」


 息子の手を取り、意気揚々と語る王妃様。


「ありがとうございます、母上。とても嬉しいです」


 母の手を取り、豪快に男泣きする第一王子。


「この結婚を邪魔するものは、私が直々に成敗します!」


 泣いている長男を抱きしめて、堂々と宣言する母親。


「じゃ、じゃあそういうことで・・・」


 妻に逆らわない事を信条としている国王は、提案をあっさりと承諾する。

 画して、子供組の提案した“3組合同挙式”についての話し合いが、本人達を交えて、急遽行われた。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 そんな中、リリーナは隣に座っている第二王子に袖を引っ張られる。


「どうされました?」


 すると、第二王子は口に手を当て、リリーナの耳元で、


「俺、夢を見ているのかな?」


 と、小声で聞いてきた。

 ので、


「夢じゃありませんよ? 幸せになりましょうね! 第二王子!」


 と、こちらも口に手を当て、第二王子の耳元で囁く。

 椅子の下で、お互いの手を握り締めている2人であった。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 こうして半年後、三組合同挙式が国を挙げて盛大に行われた。東の国の過剰すぎる協力のもとに・・・

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 結婚初夜。


 各自、甘い時を過ごしている中の一室。


「共同開発が成功するまでは、俺たちが頑張って、父上や母上に孫を作ってやらないとね!」


 そういって、2人はベッドの上で結婚式での忠誠のキスよりも、さらに濃厚な口づけを交わす。

 甘いキスがしばらく交わされた後、王子がリリーナの首に唇を這わせようとしたその時、


「ちょ、ちょっとお待ちください!」


 新妻からストップの依頼が・・・。


「? どうかした?」


 愛でるように優しく妻の頬を撫で、返事をする金髪イケメン。

 見るからに準備万端の様子である。


「あの~、今から何をなさるのですか?」


 と、意外だと言わんばかりの講義の目をする新妻。


“は? 今更何言ってんの?”

 

 妻の言わんとすることが理解できない夫。


「何って、子供を作る「はい? 何をおっしゃっているんですか? これは、男同士の作法ではありませんか!」


 と、予想外の答えが返ってきた。


「え? 男同士の作法?」


「はい、男性同士では愛を育むのに、その・・・抱き合っていろいろなさるんです! 男性同士の恋愛作法については、沢山の書物を読んで知っています。ですから私の知識に間違いはありません!」


 真っ赤な顔をして、一気にまくし立てる新妻。

 その答えに、ポカン・・・と口を開けて固まる夫。

 が、

 首をブルブルと横に振ると、


「じゃ、じゃあ、リリーナはどうやったら男女間で子供が授かると思っているんだい?」


 念のため聞いてみる。


「もちろん、先ほどの熱い口づけを交わして、仲良く一緒のお布団で寝ていたら、神から遣わされたコウノトリが、可愛い赤ちゃんを連れてきてくれるに決まっているじゃないですか!」


 なんでそんなことも知らないの? とでも言いたそうな口ぶりである。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そっかあ・・・、そうなんだ・・・・・・」

 

 妻の答えから、いろいろ諦め始める夫。

 結局その日は、一緒の布団で寝るだけという、王子にとって拷問に近い状態で夜を過ごした2人。

 リリーナが本当のことを知り、ちゃんと子作りをすることが出来るまで、あと半年。

 いつにも増して、勉強熱心な新婚男性陣が、王宮で見られたということです。




 
















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